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君を血で濡れさせたい。「突然人を噛むのは吃驚するからやめてくださいね」
困ったように苦笑する表情には恐怖心はない。
平然とした表情は、静かに俺の肯定を待っている。
返事をせず、じっとただ見つめた。
眉を下げて首を傾げているが、そうすることで細い首筋にくっきりと歯形がついたのがわかる。
それに満足して、口元に笑みを浮かべた。
「食殺されるとは思わないのか?」
「え…いや、いきなり噛まれるのは2度目ですし、そういうスキンシップの取り方もあるのかと思いまして」
ぱちり、瞬いて俺をじっと見つめる。
違うんですか?と言いたげに、先ほどとは反対に首を傾げた。
俺が無言でいることをどう解釈したのかわからないが、にこりと笑って、俺の横をすり抜ける。
「…良寛さん、かなり変わりましたね」
「そ、そうかな?」
「でも、傷は痛くないですか?」
「うん、大丈夫だよ」
栗田と話す様子を見ていた。
だが、栗田の傷について、番場をも馬鹿にする天狗の言葉が聞こえる。
そちらに視線を向け、そのまま、捕まえた。
マルコの言葉に従ってバスに戻る。
それでも、どこか釈然としなかったのだが、その理由はわかっていた。
白秋は泥門に敗北した。
栗田はやはり、期待を裏切らない男だった。
それが嬉しくて、口元が緩む。
目標を得ることができたのも、思いも寄らぬ収穫だ。
閉会式で、隣に並び表彰されている姿を見ながら、そう思った。
「…?」
敵意ある視線を感じ、軽く振り返る。
俺が折った人間もいるため可笑しくはない。
だが、可笑しくはないにせよ、如何せん数が多い。
その元を辿ろうと目を光らせるが、何処からの視線か、多くて絞りきれない。
まあいい、と首を振って、つまらない閉会式を終えた。
「関東大会お疲れさまでした」
泥門だけではなく、東京の3つ全てのチームに声をかけている氷雨。
その首には包帯が巻かれていて、歯形が隠されていた。
しかし、首だけに包帯が巻いてあるからか、余計にその存在が強調される。
そこにコーラが差し入れられた。
「まじで申し訳ないっちゅー話で」
「ふふ、気にしないでください、円子さん。それより、お体の方は大丈夫ですか?」
「え、ああ、俺は大丈夫だよ」
驚いたような表情を見せるマルコに視線を向ける。
奴はすぐに笑みを浮かべ、手を差し出していた。
「俺のことはマルコか下の名前で呼んでくれると嬉しいね」
「まる…?ま、円………令司さんですね!」
何度か呼ぼうとして、諦めたのか、笑顔でマルコの手をとる。
「氷雨姐、今、明らかに諦めたよね」
「コーラありがとうございます」
誤摩化したように笑って、コーラを受け取るが、そのコーラが横から奪われた。
「ちょ、誰、って清十郎さん?!」
「糖分の過剰摂取は体に良くありません」