悪魔の寵姫 | ナノ



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胃が痛い、あいつらの所為だ・・・

西部対白秋の試合、氷雨姐は自分のカメラを持って、少し高いところにいた。
入場から撮影しているらしいのだが、その表情は真剣そのものだ。
見たことはないけれど、泥門の試合もこんな表情で見てるのかな?
首を傾げながら、じっと見つめてみるけれど、いつもなら返ってくる笑顔はない。
神経を張りつめたように、集中して、冷静に、フィールドだけを見つめている。
その冷静さは、どんな時でも崩れることはなかった。
それこそ、きっどんが倒されたときも、他の誰もが立ち上がれなくなったときも。
真っ直ぐに見据えて、カメラを回していた。

「氷雨、姐…?」

冷静すぎる表情は、むしろ恐怖で。
私の声に気がついたのか、モンモンとセナが振り返る。
その表情を見て、目を見開いた。
モンモンが怒ったように、氷雨姐の前に立つ。
何事も無いかのように少し位置をずれ、映像を撮り続けている。

「糞猿、氷雨の邪魔すんじゃねぇ」
「でも!」

氷雨姐は何も聞こえていないかのように、真っ直ぐにフィールドを見つめていた。
妖ー兄は銃を肩に担いで、此方を一瞥する。

「いいから、座ってろ」

納得いかないような表情をしたモンモンだが、ぐ、と黙り込んで、椅子に座った。
邪魔が無くなったからか、氷雨姐は元の位置に戻って、カメラを回す。
その後すぐに、前半が終了した。
モンモンが氷雨姐に振り返った瞬間だった。

「急ぎすぎて転けるなよ、あと走るのも最低限な」
「わかってる!」

氷雨姐は既にカメラをムサシャンに渡して、小走りで階段を下りている。

「え?」
「…え?」

妖ー兄とモンジ以外の視線がムサシャンに集まった。
不思議そうな顔をして、此方を見返して、鼻で笑う。

「キッドと鉄馬んとこだ」

動きが固まる。
あの冷静そうな顔はなんだったのか。
むしろ、私たちの中で一番行動的で、一番心配してるんじゃないか、なんて思った。

「逆になんでアイツが冷静だと思ったんだよ」

モンジの疑問に、だってよぉ、とモン太が反論しようとする。
パチン、と弾けたガムに視線を向けてから、首を傾げた。

「で、でも、氷雨姐、すっごい冷静そうな顔してたけど、」
「アレはただの無表情だ」
「普段の氷雨はどんな試合でも笑顔だからな、今日はかなり堪えてるだろ」

ぽかん、と口を開いたままその三人を見つめる。
何、この、俺たちは知ってますみたいな対応…!
しかも、妖ー兄とムサシャンはわかるとして、モンジはなんで?!
なんて思っていれば、ハーフタイムが終わるギリギリに氷雨姐は帰ってきた。

「話せる状況になってたから、大丈夫みたい」
「で?お前はまた無理したんだな?」
「え…いや、小走りしかしてない…と、思います」

ムサシャンに怒られながらも氷雨姐はホッとしたように、カメラを手に持つ。
その後のフィールドを見る顔は、前半までの怖い顔じゃなくなっていた。

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