悪魔の寵姫 | ナノ



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恋はそのうち

第一試合、泥門対神龍寺戦。
会場に着くと、泥門側の観客席に氷雨さんが座っているのが見えた。
元々泥門側から見ようと思っていたこともあり、ちょうどいいと近づく。

「こんにちは、氷雨さん」
「高見さん、それに王城の皆さん!こんにちは」

此方側にいらっしゃったってことは、泥門を応援していただいてもよろしいんでしょうか?
くすくすと悪戯っぽく笑う彼女は、きっと、応援してもらおうなどと思ってはいない。
俺たちは敵同士である、と知っているのだから。
ただ、戦いたいのだろうという意志を知っているからこそ、そんな言葉をかけただけで。

「さあ?どうでしょうね」
「あ、そういえば、高見さん知ってます?」
「何を、ですか?」
「高見さん、関東の格好いい選手アンケートで、一番コメント数が多かったらしいですよ」

笑いながら、俺を見つめる彼女は、何処か楽しそうだ。
彼女の言葉に口を噤んで、見返せば、首を傾げられる。

「なんでご存知なんですか?」
「実はですね、その格好いい選手について一人ひとりの解説コメントをしたんです」

あと、桜庭さんと清十郎さんと、アイシールド21に妖一さん、阿含さん雲水さんに駿さん、健悟さん。
と、指を折りながら、続けた。
何処か楽しそうにしている氷雨さんは、幼く見える。
自分より年上であろう人に、可愛らしいと思ったのは、久しぶりだ。

「その顔は、今は色恋なんて気にする暇はない、って顔ですか?」

覗き込むように顔を見つめられて、思わず眼鏡をあげながら遮る。
そうかもしれないな、と返して、笑った。

「隣に座らせていただいても構いませんか?」
「ええ、どうぞ」

立ち上がって、奥を勧められる。
桜庭と虎吉が入り、俺が座った。
その横に氷雨さんが座って、その前に、少し不満そうな進が移動する。
不満そうな理由が簡単にわかって、それでも隣を譲ろうとは思わない自分に笑った。

「高見さん?」
「いいや、何でもないよ」

氷雨さんが好きなのか、と言われたら、頷けはしない。
それは敵チームであると言うことも理由の一つかもしれないし、まだ良くわからないと言うだけかもしれない。
もしかしたら、どちらも異なって、年上と言う理由なのかもしれない。
だが、それでも、気に入っているのだ、この女性を。
大人っぽく、子供っぽく、脆いのに強がっている彼女が。

「氷雨さん、」
「はい?」

進が下から声をかける。
その視線は真っ直ぐで、彼女はただ首を傾げた。
じっと見つめていた進は、何かを言おうとして、口を閉じる。

「清十郎さん?」

ぱちり、瞬いた氷雨さんは静かに手を伸ばした。
ぽん、と頭の上に乗せられた手は、進の黒髪との対比でいつも以上に白く見える。
ゆっくりした動きで左右に動いたそれは、そのまま流れるように肩に触れた。

「…筋肉すごいですね、羨ましいです」

突然の言葉に一瞬言葉を失う。
が、進がいえ、と声を出したことでハッと意識を取り戻した。
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