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手繰りよせる練習試合だか、合同練習だかに来いと言われ、面倒ながらも足を運ぶ。
階段を上っていると、上から一人降りてくる姿があった。
じっとみると、この間の女のようだ。
階段の途中で端に寄って座り込んでいる。
が、暫く経つと立ち上がってまた動き始めた。
休憩挟みながらとか、どんだけ体力ないんだよ、と思わないでもない。
徐々に俺との距離が近くなっていく。
「阿含さん?こんにちは」
「あれ、氷雨ちゃん、どうして此処に?」
「ポセイドンの子に頼まれた差し入れと、この間の阿含さんへのお礼をお持ちしたんです」
にこり笑ってから、眉を下げる。
「さっき神龍寺の方に渡してきてしまったんですが、此処で会えるなら持ってくれば良かったですね」
「でも、わざわざありがとう。何を持ってきてくれたの?」
「レモンの蜂蜜漬けです」
阿含さんが嫌いでも、どうにかして処理ができそうでしょう?
と、悪戯っぽく微笑んて、首を傾げた。
でも、差し入れついでに持ってきたってのが、引っ掛かる。
笑って、ありがとう、と言ってからそっちを問いかけた。
「ポセイドンには何を頼まれたの?」
「いえ、応援に来てくれと言われただけなので、手ぶらでは…と思ってスポーツドリンクを」
応援に来てくれ、と言われるくらいに親しい奴がいる、ということか。
何となくいい気がしない。
が、話はまだ続いていた。
「この階段で困ってしまいましたが、阿含さんのお兄さんが手伝ってくださったんです」
「は?」
「雲水さん、ですよね?」
思わず、素が出てしまった。
が、気にしないのか気付かなかったのか。
違いますか?とでも言いたげに俺をじっと見つめる。
「そうだよ」
「素敵なお兄さんで、羨ましいです」
何となく愁いを帯びた表情に一瞬黙った。
すぐに、よく喧嘩するんだけどね、と答える。
驚いたような表情を浮かべて、すぐににこりと笑った。
何か言いかけて、思い出したように首を左右に振る。
「試合なのにお引き止めしてしまってすみません、失礼しますね」
眉を下げて、頭を下げた。
「いいよ、大丈夫。それより、氷雨ちゃんは平気?」
「はい、ゆっくり降りていけば大丈夫です。ご心配ありがとうございます」
笑って、階段を下り始める。
暫くその後ろ姿を見送ってから、階段を一気に登った。
到着した途端に、雲子ちゃんに怒鳴られる。
言葉を返しながらベンチとフィールドに視線を向けた。
明らかに体を強ばらせたのが…全員。
だが、そっちに反応する前にカスチームの方がやってきた。
面倒だが、適当に相手をして、一休の言葉に一瞬黙る。
「写メ送れっつって、自分の顔の」
ふと、今から降りれば、追いつくんじゃないかと過った。
と同時に自分の思考に一瞬固まる。
追いついたとこでどうって訳じゃない。
ただ、送られてきた写メがまあ可愛かったから、行くだけだ。