悪魔の寵姫 | ナノ



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どうやったら君の興味をひける?

打ち上げは基本的にジュースだったが、何故か酒も混じっていた。
おいおい、と思いながらも、問題さえ起きなきゃいいかと肩をすくめる。
楽しそうなヤツらを見ていると、氷雨がいないことに気がつく。
不思議に思って、観戦席に出れば、フィールドでは決勝戦が行われていた。

「あれ?厳くん?打ち上げはいいの?」

上から声がかけられた。
見上げると、カメラをフィールドに向けたまま、こちらを見ている顔。
ああ、と頷いて隣に向かう。

「王城の応援か?」
「何言ってるの、私は泥門の応援しかしないよ?」

そりゃぁ、他のチームに勝ってもらいたいって思うことはあるけど。
続けた彼女は、眉を下げた。
映像を撮りながら、苦笑するように続ける。

「鈴音ちゃんみたいにチアはできない、まもりちゃんみたいにマネージャーも主務もできない
 どぶろく先生みたいにトレーナーもできなくて、手伝うことしかできないけど、それでも」

泣きそうな顔で笑いながら、フィールドを見つめた。

「それでも、せめて、何かできれば、って思うから」
「馬鹿か」
「酷いなぁ、これでも真剣なんだよ?」

本当に馬鹿だと思う。
既に泥門デビルバッツの一員なのにも関わらず、どこまでも自信がない。
自信がないのは、過去がないのが一番の理由だろう。
確固たる自分が持てずに、いつだって不安になっている。
一緒にいる蛭魔も言葉数が多い方じゃない。
十文字は気付いていても、そこに口出しができる位置じゃない。
姉崎は気がつくのが遅かった、だからこそ、寄り添うことしかできずにいる。
はぁ、とため息を吐いた。

「お前の過去がどうだろうと、悪魔から逃れられると思うなよ」
「え?」
「いや、悪魔って言うと蛭魔一人か。俺たちがお前を逃すと思ってんのか?」

鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
その顔に思わず吹き出して、頭を撫でた。

「俺たちを信じろよ、アメフト以外でもな」
「…ん」

下唇を噛み締めているのがわかった。
カメラを持っている手が小さく震えていて、それでもフィールドを写し続けていて少し呆れる。
その手からカメラをとって、録画されてることを確認。
完全に声はいってんなこれ。

「…厳くん、」

わたし、めいわくじゃない?
ほぼ泣いている状態で、俺に視線を向ける。
今にも涙がこぼれ落ちそうだった。

「誰にも頼らず、抱え込まれるのは迷惑だ」

氷雨が頼らないなら、こっちで勝手に背負うしかないだろ。
言いながら、フィールドに視線を戻す。
軽く、服が引っ張られた。

「じゃぁ、頼る…胸貸して」

肩をすくめて、氷雨の好きにさせる。
俺に抱きつくようにして、試合が終わるまで静かに泣いていた。
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