悪魔の寵姫 | ナノ



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好きすればいいさと息を吐く

「盤戸戦、上から撮ってますね」
「あ?」
「だって、まもりちゃんの登場もあるんでしょう?」

ふわり、と笑みを浮かべた氷雨は、楽しみにしてますね、と階段を上がっていった。
その小走りにさえ、ひやりと背筋が寒くなる。
あの程度は問題ないと知っている。
ダメなのは、本格的なスポーツであって、日常の動きではない。
自分に言い聞かせて、一度息を吐く。

「なぁに不安がってんだ、糞ジジイ」
「…別に、なんでもない」

そう返して、入場口に向かった。
入場と共に紹介がされる。
選手の紹介が終わり、姉崎も入場、先生の紹介もされた。
上からビデオを回している氷雨は、きっと微笑んでいるのだろう。
だが、それと同時に、疎外感も感じているに違いない。
一度ため息を吐き、会場を確認する。

「あそこだ」

ふと隣に並んだ蛭魔が一点を指差した。
そこに視線を向ければ、確かに氷雨がいる。
何か手を動かして、此方に伝えているようだ。
ちら、と横を見れば、蛭魔が笑う。

「頑張って、だとよ」
「当たり前だ」

俺の言葉を聞いて、蛭魔が何か合図をしている。
何を話しているのか知らないが、長いこと続いていた。
最終的に、ケッと笑っているんだか吐き捨てているのだか、よくわからない声を上げる。
確認するようにそっちを見ると、苛々したように見えるヤツが俺を見た。

「“王城の皆さんと泥門の活躍を確認していますね”」
「は?」

王城?
俺の言いたいことに気がついたのか、不機嫌そうに蛭魔は後で話す、と視線を逸らした。
確かに、今は試合に集中しなきゃならない。
一度ゆっくり瞬いて、意識を集中させる。
そして、試合は始まった。


試合が終わり、氷雨がカメラを持って、駆け寄ってくる。

「皆さんお疲れさまでした!」

ニコニコと笑いながら、一人ひとりを写真に収めた。
ロッカールームに戻ると、既にテンションの上がりきったヤツらが騒いでいる。
その様子に苦笑して、氷雨の頭に手を置いた。

「戸籍上は厳くんより年上なんだけどね」
「…戸籍はな」
「何その、それ以外は俺より年下だろみたいな返事」

不満そうに唇を尖らせる氷雨だが、それが子供っぽいと気がつかないのか。
他のヤツにも聞いてみればいいだろう、と肩をすくめる。
む、として、そうする!と言い切る姿に苦笑して。
騒いでいるヤツらに向かって小走りに駆け寄る。
だが、唐突に足を止めて、振り返った。
楽しそうに笑って、首を傾げる。

「厳くんのキック、格好良かったよ!」

でも年上の座は渡さない、と向けられた背中に、ゆっくり息を吐いた。

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