悪魔の寵姫 | ナノ



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どっちでもいいはどうでもいい

「厳さん、どうかされましたか?」

きょとん、と首を傾げて俺を見るそいつ。
何でもねぇよ、と言いながらも、テレビで放送されているアメフトの試合から目を離せない。
そんな俺に気がついたのか、小さく笑って隣に座った。
だからと言って何を言う訳でも、何をする訳でもなく。
ただ、隣に座って、アメフトの試合をじっと見つめているだけだ。

「激しいスポーツですね」
「まぁな。…羨ましいのか?」
「少しだけ」

俺の問いかけに、小さく答える。
事故自体は酷くなかったらしいが、記憶喪失と少し内側に被害があり、激しい運動はできないらしい。
とはいえ、普通の生活なら問題なく行える。
行える、というだけだが。
羨ましそうに画面の中の様子を見ているその頭を撫でる。
少しだけ潤んだ瞳で、俺を見上げた。

「大丈夫です。それより、やらなきゃいけないことがありますから」

似ている、のかもしれない。
だからこんなに親身になれるのだろう。

「それに、厳さんがきてくれますし」

にこり、と先ほどの様子を見せずに微笑んで、ね?と首を傾げた。

「ついでだ」
「それでも、嬉しいですから」

じゃぁ、私は行きますね。
立ち上がって、点滴を引きながら病室に戻る。
その後ろ姿を見送りながら、ぐ、と拳を握った。


見送っていた氷雨の背中が、今隣にいる。
姉崎と同じように自転車に乗っているが、それでも思わず確認してしまう。

「厳くん、大丈夫だよ」
「…わかってる」

俺の視線に気がついたのだろう彼女が、苦笑気味に言う。
それを聞きながら、頷きはするものの、やはり、不安になる。
無意識のうちに眉が寄ってしまっていたのか、はぁ、とため息を吐かれた。

「心配してくれるのは嬉しいけど、そんなに脆くはないよ?」

その言葉に何も言えず、口を噤む。
どう考えたって脆いだろう、と口にすることは簡単だ。
だが、それを俺が言うことができるのか?
同じ立場にありながら、あっさり裏切った形になる俺が、何を言える?

「私の分まで背負う必要はないんだよ」
「っ、」
「厳くんが来てくれるだけで嬉しいですし」

勝ってくれたら、もっと嬉しいです。
そう続けて笑った氷雨に、口角をつり上げた。

「ついでだ」
「ふふ、どっちが、ですか」

その言葉にさぁな、と返して、向けた視線の先に佐々木がいる。
勝負、か。
決着をつける、という言葉を肯定し、真っ直ぐ前を向く。
隣で氷雨が笑っていた。

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