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その理由を考えてみなよ「男湯うるさーい」
鈴音ちゃんの言葉に乙姫さんも続く。
くすくすと笑う氷雨さんを思わず、じっと見つめた。
私の視線に気がついたのか、氷雨さんが私を見返して、他の皆も氷雨さんを見る。
「うん、まも姐の言いたいことはわかってるよ」
鈴音ちゃんが頷く。
巨深のチアの子たちもこくり、と頭を動かした。
本人は何のことかわかっていないらしくて、首をただ傾げている。
「氷雨姐、おっぱい大っきいよね」
「服着てた時は、あんまり大きく見えなかったけど…」
鈴音ちゃんの言葉と、乙姫さんの言葉に氷雨さんが目を見開いて、自分の体を見た。
「…そう、なの?」
「そうなの!ねえ、ちょっとでいいから触っていい?」
鈴音ちゃんの勢いに押されたらしい氷雨さんは頷く。
ヤー!と声を上げた鈴音ちゃんは、そっと手を触れた。
そして気がついたように、パッと顔を上げる。
「どうしたら、こんなに柔らかく大きくなるの?」
「え、私も触りたい」
「ぅえ?!」
鈴音ちゃんの言葉にキャッキャと巨深の子たちが氷雨さんに群がった。
や、ちょ、やめてください、と聞こえる声にオロオロとしていると、鈴音ちゃんが笑う。
その後すぐ逃げてきたらしい氷雨さんが、私の影に隠れた。
胸に手を当てて、呼吸を整えている氷雨さんに申し訳なく思う。
「でも、本当に大っきいよね、人にぶつかったりしないの?」
「人にって、そんなこと…普通はないよ」
普通じゃなきゃあるんですか?と聞き返すと、氷雨さんは一回、と言い難そうに口にした。
そこに何かを感じたのか、鈴音ちゃんと他数人が一気に近寄る。
首を左右に振った彼女に話すか、それとも、という脅しがかけられた。
困ったように眉を下げた氷雨さんが、あー…と話し始める。
「転びかけたときに、前に座ってた人の頭にちょうどぶつかったことが、一回あります」
「ヤー!恋の始まり?」
「まさか、お友達ですよ…あ」
氷雨さんって案外うっかりしてるんだなあ。
なんて思ったが、やはり、気になる。
じっと見つめていると、キョロキョロと視線を動かして、小さく囁いた。
「え!元ジャリプロの?!」
「ちょ、声が大きいです」
あわあわ、とし始めた氷雨さんは、気がついたようにザバァと立ち上がる。
それから私たちを見て、片手を上げた。
「お先に失礼しますっ」
脱衣場に急ぐ後ろ姿を見送りながら、大変そうだなぁと思う。
ただでさえ、ヒル魔君があんなに気にかけているんだもの。
それに、武蔵君とも仲がいいみたいだし、なんて思いながら嫌に静かな男湯に気がついた。
お風呂から出ると、氷雨さんがニコニコ笑いながら、皆の分、と飲み物を買っていてくれた。
女の子は特別ね、とウインクする彼女は、先ほどとは別人のようで。
あと、さっきすごい音したけど、大丈夫だった?と首を傾げた彼女に大丈夫です、と頷いた。
ならいいんだけど、と笑う氷雨さんに何故か、安心する。
銭湯から出て、誰か急ぐ人はいる?送ってくよ、と大人の顔で笑った。