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ここまで周りにばれてるってある意味すごい西部と太陽の練習試合の映像を見る。
圧倒的な西部の強さに、栗田君が画面を消した。
もう一度つけ直して、続きを見る。
勝つために、できることを、と、言う訳で、作った暗号をヒル魔君に見せる。
ポセイドン戦の時は氷雨さんがいたから何とかなったけど、いつもそうとは限らない。
パラパラ、と確認してすぐにそれに火をつけた。
「氷雨」
「はい?」
「お前の暗号はそのままでいいからな」
「え、」
「同じ動きが別の意味で使えるからな、万が一読まれたときも安全だ」
ヒル魔君の言葉に氷雨さんは何度か瞬いて、嬉しそうに頷いた。
安心しているような顔に、前に言っていたことを思い出す。
“私は妖一さんひいてはデビルバッツのお手伝いが存在理由ですから”
今にも泣きそうな顔で、無理矢理に笑っていたのが、今でも引っ掛かる。
そして、その言葉が真実だと言うように、身を粉にして働いてた。
動いているときは楽しそうに、嬉しそうな表情をしている。
時々、私はいない方がいいのか、と思うもある。
そんなときに限って、氷雨さんがまもりちゃんがいてくれて良かった、と笑うのだ。
一緒に頑張る相手がいて、とても嬉しい、と。
そのときの表情は、信頼さえ浮かんでいて、何とも言えない気持ちになる。
「氷雨さん、聞いていいですか」
「はい、なんでしょう?」
「氷雨さんは…、」
ヒル魔君の役に立つから、デビルバッツの手伝いをしているんですか。
喧嘩を売るとかではなく、ただ、疑問に思っていた。
でも、これは私が聞いていいことじゃない、と思い至る。
それに氷雨さんは、多分、誰よりも疎外感を感じているのだと、わかっている。
高校生でもなく、トレーナーでもない。
ただただ、協力しかできない立場で、歯がゆい思いをしているのだと、知っている。
「氷雨さんは、お休みの日に何してるんですか?」
「毎日がお休みですよ?まもりちゃんたちみたいに学生でもないですし」
その言葉に首を傾げた。
待って、まさか、此処に来ているのもお休みの一環とでも言うつもりなのだろうかこの人。
思わず口元を引きつらせる。
「なら、今度一緒にショッピングに行きませんか?鈴音ちゃんも誘って」
「私でいいんですか?」
きょとん、と首を傾げる彼女に頷く。
と、花が咲くように笑った氷雨さんがすごく嬉しそうに頷いた。
それこそヒル魔君に対して見せるような、嬉しそうな顔で。
「初めての女の子同士のお出かけです!」
ウキウキとした様子を見て、言葉を聞いて、気がついた。
普段は全然そうは見せないが、彼女には記憶がない。
それから、過去も存在しない。
なんで、気がついてあげられなかったのだろうか、と思う。
彼女はきっと寂しかったのだ。
そして、苦しかったのに違いない。
家族も、友人と呼べる人間もいないで、だから、友達記念なんて言って、嬉しそうに笑って。
「そのときに、3人でプリクラ撮りましょうね」
「え?」
「お友達記念です」
笑って言えば、うん、と氷雨さんが頷いた。
「それから、一緒に頑張りましょう」
「うん。…まもりちゃん、ありがとうございます」