悪魔の寵姫 | ナノ



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君の可愛らしさなんて僕以外にはわからないでいい

ついにやってきた泥門戦。
あのメールに返信はなくて、彼女の気持ちは聞けていないままだ。

「氷雨さん?!」
「やーん、氷雨姐似合うー!」

泥門ベンチ側からそんな声が聞こえて、思わず、そちらを見る。
そこにいたのは、泥門のチア衣装を着た氷雨さん。
恥ずかしそうに眉を下げて、頬を染めている。
何か言い合って、フィールドから逃げるように去っていった。

「…可愛い」
「筧先生?!」

思わず呟いていたことに気がついて口元を覆う。
声をかけてきた大西に何でもない、と手を振り、眉を寄せた。
自分で思っているよりも、重症らしい。
軽く頭を振って、思考から氷雨さんのことを追い出した。
偽アイシールドに思い知らせる。
それだけだ。


『お疲れさまです。
 私が泥門デビルバッツの一員だと黙っていてごめんなさい。
 健悟さんは気にしなくていいと笑い飛ばしてくれましたが、そうもいかないと知っています。
 この間のメール、とても嬉しかったです。
 ありがとうございました』

絵文字のない、淡白なメール。
思わず眉を寄せて、ため息を吐く。
全く伝わっていないと、そういうことか。

『会えませんか』

ただその文章だけを送る。
メールで話すと、表情もわからないし、声の調子もわからない。
だから、伝わらない部分が絶対に出てくる。
だったら、会って、しっかり話して、それで納得してもらいたい。
なんて、自分にかっこつけて言い聞かせているが、心臓が激しく動いている。
携帯が気になってしまうのを避けるため、自分の部屋に携帯を置いて、風呂に入ることにした。
風呂から上がって、携帯を確認すると、チカチカと光っている。
メールの受信を知らせるそれに一度深呼吸して、開いた。
一件目がメルマガで出端を挫かれたが、次のメールは氷雨さんからのものだった。

『わかりました。
 ご都合のいい日を教えていただいてもいいですか』

なんだか、別れ話をしているカップルかなにかのようだ、と眉を寄せる。
だが、実際はそうではないし、会ってくれるらしい。
よかった、と胸を撫で下ろして、スケジュールを確認する。
その行動で、負けたのだと、実感した。
もう、来シーズンまで、俺たちに大会はないし、クリスマスボウルへ行く機会もない。
押し殺すように息を吐いて、自分を落ち着かせる。
それから、なるべく近い日にちを考えた。
大会のない、休日。

『明日、体育の日の午後は、どうですか』

返信はすぐ来た。
了承の返事に、ほっとして、待ち合わせ場所と時間の提案。
あっさりと予定が決まる。
彼女に会う前に、何を伝えなきゃいけないのか、考えなくては。
それから、どうやって伝えたら、俺が伝えたいように伝わるのか。
紙に書き出した方が早いか?と紙に書き出していて思った。
二人っきりで、待ち合わせして話をする。
…これは、デートに入るのか?
その考えに至った瞬間、がた、と慌てて立ち上がり、クローゼットを開けた。
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