悪魔の寵姫 | ナノ



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おねだり上手な君、ねだられ上手な俺

俺の言葉に、氷雨さんは足を止める。
それから、泣きそうな顔で笑って、うん、と小さく頷いた。

「ありがとうございます、駿さん」

同時に浮かべられたふわりとした笑顔。
一瞬で体中の血が逆流したかのように感じて、ただ、視線を逸らす。
ちらり、彼女を確認して、深呼吸。

「協力なら、いつでもします」
「…じゃぁ、クリスマスボウルが終わったら、お誘いしてもいいですか?」

その言葉に、こくり、頷いた。
確認した顔は嬉しそうだが、どこか気落ちしたようにも見える。
不審に思って、声をかけた。
氷雨さんは、口を開いてから、何も言わずに唇を噛み締める。
少しだけ俯いて、すぐに顔を上げた。
その顔は諦めたような微笑みで、思わず眉を寄せる。

「でも、断ってくれてもいいですからね」
「え?」
「今約束したからって、絶対に協力しろなんて言いませんから」

では、失礼します。
頭を下げて、俺が何かを言う前に彼女は背を向けた。
追いかけて捕まえることもできたが、俺にはそうするだけの気力が既に無くなっていて。
拒否、されたのだろうか。
考えてみるが、俺は彼女じゃない。
答えが出る訳でもなく、そのまま学校に戻る。
途中で、氷雨さんからのメールがあった。

『私のことは、絶対に気にしないで、ただ、試合に集中してください』

心配されなくても、そのつもりだ。
高さで圧倒しているとは言え、勝敗は五分五分。
他の何かに意識を割いている時間はない。
だからこそ、彼女はクリスマスボウル、と言ったのだろうか?
ふと、不思議に思う。
あの言い方はうちの学校が勝ち抜くと信じていた訳ではない。
頑張ってください、とも、彼女は口にしなかった。

「そういうことか、」

答えは一つ。
対戦校の関係者、ということだ。
8強のガンマンズ、フィッシャーズ、ファイターズ、スパイダーズ、パイレーツ、ホワイトナイツ。
それから、今度の対戦相手のデビルバッツ。

「ンハ!どーした?」
「水町か、いや…氷雨さんが、対戦校の関係者だとわかっただけだ」

告げれば驚いたような顔をして、それから納得したようにああ、と頷いた。
その反応を不思議に思って問いかければ、何でもないことのように告げる。

「だって、携帯のアドレス帳見せてもらったとき、グループで泥門だけ分けられてたしー?」
「んなっ、」
「あれー?筧知らなかったっけ?」

いつも通りの能天気な顔をしている水町にイラッとした。
俺がその事実を知らないと氷雨さんは気がついていて。
だからこそ、協力しなくてもいいと告げたのだろう。
俺を騙している状態になっている彼女は、きっと、今週末のことで心を痛めたのかもしれない。
とりあえず、一発水町を殴る。
それから、携帯を取り出して、メールを起動させた。
少し考えて、彼女に伝える。

『アメフトでは敵だとしても、俺は、氷雨さんの思い出作りに協力したいです』
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