悪魔の寵姫 | ナノ



17
しおりを挟む


どろどろに甘やかしますので覚悟してください

その日、試合に向かう前に氷雨さんとアドレスを交換した。
水町にニヤニヤされたが、そんなもの思いっきり無視だ。
試合が終わって、彼女が座っていた場所を見る。
既にその場所には誰もいなかった。
ふと、考える。
次に氷雨さんに会えるのはいつだろうか。
あの様子だと、色んな試合を撮っていそうだから、次の泥門戦の会場にいるかもしれない。


泥門の主務のセナ君がスパイクを持ってきてくれた。
アイシールドの話になったとき、コンコン、とノックが響く。
水町が扉を開けて驚いた顔をしていた。

「どうした水町、誰、が、」
「氷雨さん?!」

俺の後を継ぐようにセナ君が叫ぶ。
にこり、笑った氷雨さんのエプロンはキミドリスポーツのもので。
首を傾げて、こんにちは、とこの間とは印象の違う表情を見せた。
あの時のような真っ赤なルージュではなくて、むしろ、淡いピンク色。
髪の毛も動きやすいようにか、首許で一つにしていた。

「泥門の知り合い?でもって筧の知り合い?」
「こんにちは、投手の小判鮫さん、ですね」

驚いた様子もなければ、焦った様子もなく、彼女は微笑んだ。
小判鮫さんは一瞬固まって、笑った。
何を言い出すのかと思ったが、その前に氷雨さんが持っている箱を差し出す。

「えっと、さっきセナさんが忘れたスパイク一足と、後一応ポイントカード?です」
「あ、ありがとう」

手渡した彼女は、ぱちり、瞬いた。
口元に人差しを当てて、何度か跳ねさせる。
視線で部室内を確認してから、軽く頭を下げた。

「またのご利用をお待ちしていますね」

上げられた顔には張りつけられたような営業スマイル。
その笑顔が気に入らなくて、席を立つ。

「送ります」
「大丈夫です。皆さんは練習があるでしょう?」

お気になさらず、と眉を下げる氷雨さんを無視して、隣に並んだ。
軽く背中を押すようにして、扉の外に誘導する。
営業スマイルが無くなって、動揺し始めた氷雨さんが可愛らしい。

「何処に送ればいいですか?」

問いかければ、彼女は口をへの字にして俺を見上げる。
ああくそ、可愛い。

「…氷雨さんは、何故アメフトを?」
「お世話になってる人が、何よりも優先してるから、ですね」

なんてことないように首を傾げた氷雨さんは、今じゃ、私が好きなスポーツになっていますけど、と笑った。
お世話になっている人、か。
保護者?だが、俺が見た限り、氷雨さんは被保護者ではなさそうで。
そんな俺に気がついたのか、彼女は苦笑しながら教えてくれる。

「私の知り合いは皆知っているんですけどね」

その表情に悲観的な思考は感じなかった。
明るく前向きな表情で、でも、少しだけ、自分の中に過去がないからか、空虚だった。

「これから…これから、作ればいいじゃないですか」
[前へ]/[次へ]

[ back to menu ][ back to main ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -