その他 | ナノ



4


ぽんぽん、と背中を叩いてくれる悟飯君に甘えます。

「しかも、利き手だし、料理も作るの大変になるし、授業だって、」
「はい、」
「犯人捕まってないし、強行突破を言い出したのは警察じゃないとか言われるし、」
「っ、はい、」
「も、やだぁ。学校も怖い、家も一人だし、外出るのやだよ。」

えぐえぐ、と幼子のように泣き喚きながら、残った左手で悟飯君の服を掴みました。
過呼吸になりかけながら、自分を落ち着かせます。
そっと髪を撫でられて、自分が何をしているのか、唐突に理解しました。
驚きのあまり涙も引っ込み、小さな声で、悟飯君に告げます。

「…取り乱して、ごめんなさい、」
「いえ、ところで、質問なんですが。」
「?」
「僕が、一緒にいても、不安ですか?」

ふるふる、と首を振りました。
にっこりと、笑った彼は、嬉しそうに手を差し伸べてくれます。

「なら、僕と暮らしましょう。」
「…え?」
「家族にも了解を取ってあります、だから、いいでしょう?」

私がその手を取ったのは、彼が好きだということと、それから、恐怖に怯えない日々のためでした。
にこり、綺麗に笑ってくれた悟飯君はとても嬉しそうで、少しだけ、もしかして、と思います。
でも、期待するとその分、落ち込みが激しいので何とか理由をつけて、自分を誤魔化しました。

それから、一週間後、退院させられた私は、そのまま、悟飯君のお家に連れて行かれました。
あまりに遠かった事に驚くよりも、悟飯君が飛べたことのほうが、驚きが大きかったです。
悟飯君のお母さんのチチさんはにっこり、優しい笑顔を浮かべて歓迎してくれました。
弟君の悟天君はお姉ちゃん、と呼んで親しんでくれます。
今日からは、ここが私の帰る家になるそうです。
ちなみに、私の両親はもっと離れた土地にいるので、今回の事はこれっぽっちも知らないと思います。

それからというもの、悟飯君は異常さを感じるほど私にべったりでした。
基本的に、教室で席は隣です。
私の手のことも考えて、定位置は私の右側に悟飯君。
ノートは私も一生懸命とろうとするのですが、勿論、左手で上手く、早く書けるわけもなく。
さらに、消しゴムで文字を消すのもままならない状況でして。
ほとんど、悟飯君にノートを見せてもらっています。
それから、食事は一緒です。
最近はお箸を使おうとしているのもあって、私の食事はかなりゆっくりなんです。
で、休み時間が終わりそうになると、はいあーん、の刑、になります。
いえ、好きなので、いいのですが、彼はいいのでしょうか、と思います。
行き帰りも勿論、彼と一緒ですし、悟飯君がヒーローなのだというのも教えてもらいました。
お家で、チチさんのお料理を手伝おうとするときも、真後ろに立っています。
ちょっとした恐怖すら覚えますが、チチさんは豪快に笑って済ませます。
兵です、猛者です。
また、悟飯君のお師匠様だという、ピッコロさんという方にもお会いしました。
初めまして、とご挨拶したら、ああ、と驚いたように返事が返ってきました。
なんとなく、私が今まで関係していなかったところまで踏み込んでいる気がします。
ちなみに、悟天君のお友だちのトランクス君ともお会いしました。
お姉さん強いの?と聞かれ、手がないので弱いです、と返したらつまんねーの、と言われました。
最近のお子様は怖いです。

「氷雨、」
「悟飯君、なんですか?」

極めつけはこれです、呼び捨てに変化。
そして、口調も、丁寧語から、ちょっと荒っぽいものに。
素を見せてくれているという点では喜ばしいことなのですが、私の領分をはみ出している気がします。
これ、逃げられないのでは、と時折ふと思うのです。

「敬語じゃなくていいって言ってるのに、」

[前へ]/[次へ]

[ back to menu ][ back to main ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -