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3


「氷雨さん?目が覚めましたか?」
「悟飯、君?」

首を傾げ、彼の存在に驚くと同時に、自分自身の体に違和感を覚えました。
利き手である、右手で身体を支えようとして、気がつきます。
右手が肩から存在しません。
その事実に気をとられていると、警察の方がいらっしゃって、悟飯君が出て行きます。
話を要約すると、あの犯人さんは元・格闘家だとか。
で、動機云々以上に、私がどうしてこういった状況になっているかの方が重要でしたので、そちらを。
聞くと、説得に失敗し、私はまず、足を打ち抜かれました。
…仕方ないので強行突破しようとしたら、私を盾にされ、私の腕を粉砕、修復不可能に。
のち、犯人が逃亡する際、邪魔になった私は投げられ、避けられ、肋骨が折れたと。

「賠償金は?勿論もらえるんでしょう?」

これで怒るなという方が無理だ。
巻き込まれただけで、片手を失う?しかも、原因は警察?
許されるものか。
しかも、利き腕だぞ?
キッと警察を睨めば、勿論だ、という返事。
ただし、と続けられた責任逃れのような言葉に更に腹が立つ。
片手がなくてはつける仕事も限られるし、今から左利きにならなくてはいけないなんて…。
思わず、はぁ、と溜息をつく。
これからの生活、自分で頑張るとしても…と考え、嫌になる。
しかも、犯人は逃げたとか、警察使えねぇ。
…とりあえず、お金の話などは後で来てほしいとつげ、出て行ってもらう。

何度か深呼吸して、怒りを抑えます。

「氷雨さん、」
「そういえば、悟飯君毎回いますが、何で此処にいるんです?」
「心配だったんです、貴女の事が。」

困ったように笑う、悟飯君にどきり、としました。
こんなときにまで恋する乙女は有効なんですね。
というか、そんな心配してもらう仲でもなかったと思うんですが…。
嬉しいのでこの際そんなことは気にしません。

「ありがとうございます、悟飯君に心配してもらえるなら、すぐ退院できそうです。」
「っ!?」

驚いたようにして、照れくさそうに笑う悟飯君。
ふと、思い出したように告げます。

「学校の授業ノートとか、とってあるから、その、」
「ありがとうございます。」

にこり、笑ってお礼を言います。
でも、と右手を見て、少しだけ眉を下げました。

「多分、返すのは凄い遅くなっちゃうと思います。」
「その、迷惑かと思ったんですが、氷雨さん用に別のノートを作ったので、」

氷雨さんのものにしてください、と照れくさそうに笑った彼に泣きそうになります。
でも、こんなところで泣いたら、と我慢しているうちに、目の奥が痛みました。
じわり、じわり、と涙の膜が視界をゆがめます。

「!氷雨さん、何か気に、」

触りましたか、といおうとしたのだと思います。
確認するように私の顔を覗き込み、近付いてきた彼に抱きつきました。
驚きで、体が硬くなった悟飯君に構わず、涙を流します。

「あり、がとう。…怖かったの、全部、ぜんぶ。」
「氷雨…さん、」
「突然、犯人に声かけられて、強制で人質選択させられるし、痛いし、起きたら腕ないし、」

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