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ミスターサタンの娘さんのビーデルさん。
彼女はきっと、誰よりも、悟飯君の側にいる女の子で、それから、悟飯くんのことが好きなんでしょう。
勝ち負けではないと思うけれど、私は彼女に面と向かって、ライバルです、などとはいえません。
彼女と色々な面で対決する事なんてできないという、臆病な性格の所為ですが。
ビーデルさんは家柄もよく、頭も良ければ、運動神経もいい。
更に、見目も可愛らしければ、私が何をしようと、彼女の方が一般的に見て魅力的なのは当たり前です。
無言のまま考え込んでしまった悟飯君に私は行くところがありますので、と一礼して、その場を去ります。

「無理、なんて、わかっています。」

ビーデルさんに近づいた、女の子。
誰だったか、私は覚えていないけれど、確か、それほどビーデルさんと一緒にいる子ではない人。
彼女が言っていたのが見えてしまいました。
『あんな子には悟飯君は無理よ、気にしないほうがいいわ。』
読唇術、なんて興味で齧るものではないですね。
軽く自分を笑い、とりあえず、スーパーに足を向けます。
これでも、一人暮らしをしているので、全部自分でやらなくてはいけないんです。
今日の夕飯に必要な材料を買った帰り道、学校の方角を見ました。
が、突然の悲鳴がすぐ近くから聞こえ、そちらを振り向けば、銃を持った男の人。
どうやら、子供を人質に警察から逃げている最中のようです。
ちら、と犯人と思わしき男と目が会いました。

「そこの女、このガキが殺されるのと、お前が俺についてくるの、どっちがいい?」

にたり、と嫌な感じに笑った男は私を見つめたまま告げました。
冷水を浴びせられたかのような衝撃に思考が真っ白になりながら、どこかで叫ぶ声を聞きます。
子供の母親が、やめて、お願い助けて、と叫んでいます。
でも、彼女は私の命について考えてはいないのでしょう。
それこそが、正解なのかもしれません。
ぎゅ、と拳を握って、歯を食いしばります。

「その子、放してあげて下さい。」

恐怖で掠れすぎて、まともな声にはなりませんでしたが、男は満足そうに笑いました。
ぱ、と放された子は泣きながら母親のほうへ向かいます。
安心したような親子に、場違いなほどの怒りを感じながら、私は目を伏せました。
悪いのは、あの親子ではなく、この、犯人です。
銃を突きつけられ、もう、恐怖も通り越し、思考が空回りしかしません。
荒くなる呼吸に崩壊した思考。
ふと、警察と、ビーデルさんが現れました。
そこから、私の記憶は、モノクロの写真のようで、また、途中で途切れました。

目が覚めたのは、突然でした。
激しく肩が痛み、そして、肺の辺りと足も痛みます。
ぅ、ああ、と痛みに耐えるための呻き声しか発せられない私の視界に驚いたものが入り込みました。
慌てたような悟飯君と、お医者様、それからあの親子。
後ろのほうには警察の方もいらっしゃるようです。

「ぁ、…ぐ、ぁ、っは、」

喘ぐように呼吸をしながら、痛みを誤魔化します。
あまりの痛みに意識が朦朧としますが、手を包む暖かさに気がつきました。
子供が、泣いています。
ごめんね、お姉ちゃん、と顔をぐしゃぐしゃしにて。
それを見て、私は何を思ったか、無理矢理に笑顔を作りました。

「おね、ちゃ…は、だっ、いじょ、ぶ、…泣かない、で?」

あの子供が悪い訳ではない、と自分に言い聞かせて、歯を食いしばりながら、笑顔を維持します。
母親が、本当にごめんなさい、と頭を下げているのには、何も反応できませんが。
実際笑顔を作っているだけで、精一杯なところです。
警察の人に付き添われて、親子は退出しました。
瞬間、表情を崩し、足音が聞こえなくなってから、いたい、と搾り出すように叫びます。
それから、注射を打たれて、私は意識を失ったと思われます。

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