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「あー、赤ちん、桃ちん。」
「敦か、どうしたんだ?」
「あのね、お菓子をくれなきゃ、犯すぞ?」
恒例とも言えるその呪文に、いくら赤司といえども固まった。
ちなみに、桃井は何があったのかわからない顔をしている。
そのことを空気で感じ取ったのか、紫原がもう一度口にしようと、息を吸う。
「言わなくていい、ほら、ケーキをやる。」
「えっと、私は、これ、クッキー。」
冷静にケーキを差し出した赤司は、紫原が来ることは予測していたのだろう。
ただ、その、予想外な言葉を聞くとは思わなかっただけで。
桃井は赤司につられるように、女友達と分け合ったお菓子の残りを取り出して、はい、と渡す。
既製品であるからか、紫原は嬉しそうに受け取った。
「それはともかく、体育館に行くぞ。」
「ムッ君、練習行こう?」
二人に促されて、紫原は体育館に向かう。
その道中で、ケーキを鷲掴みにして食べていたのは言うまでもない。
「敦君、」
「氷雨ー!」
練習が終わった体育館に顔を出したのは、氷雨、紫原敦の最愛の人である。
練習の疲れを塵とも見せず、そのまま彼女に駆け寄って、ぎゅうぎゅうと抱きしめる彼。
苦しいよぅ、と可愛らしく言いながら、離れた彼氏に向かって、笑う少女は告げた。
「敦君、お菓子をくれなきゃ、犯しちゃうぞ。」
ハートでもつきそうな位、楽しそうに告げた氷雨は手を差し出す。
紫原はにこりと笑って、はい、と小さな飴を手渡した。
黄瀬から貰ったものとは違うそれは、大切に持っていたのだろう、紫原の体温で溶けかけている。
嬉しそうにそれを受け取って、彼女は笑った。
それに対し、紫原も笑って、しゃがみ込んだ。
「氷雨、お菓子をくれなきゃ、犯すよ?」
「んー、敦君なら何されてもいいけど、」
彼女は楽しそうにそう前置きしてから、はい、と手作りのスイートポテトを手渡した。
不満そうにする紫原。
「なぁに?」
「氷雨がいい。」
「私はお菓子じゃないよ?」
「んー、甘いからいいの。」
ぎゅう、ともう一度抱きしめて、彼女の首に噛み付く。
ん、くすぐったいよぅ、と紫原の肩を叩く彼女だが、正直言って、他のキセキの視点からさせてもらえば、襲われている。
それこそ、犯すぞ、の言葉が実行されているように見えても不思議ではない。
かぷかぷと甘噛みを続ける紫原に、氷雨が、もうだぁめ、と彼の頭を叩く。
仕方ないと言いたげに噛むのをやめた紫原だったが、決して氷雨を離そうとはしない。
困ったように彼を見る。
楽しそうに笑った紫原は氷雨の唇をぺろりと舐めて笑った。
「今日の氷雨は俺のお菓子でしょ?」