カリカリと、紙にペンを走らせる音が室内に響く。
傍らには大量に積まれた未処理の書類。そして、その隣に処理済の書類が同じ位の高さに積まれている。

やっと、はんぶん。

書類の山を視界の端に留めると心の中でそう呟き、同時に小さく溜め息を吐く。
朝からこの紙の束と向き合って、既に半日以上。
今日一日の残り時間と束の高さ(厚さではなく高さで量っている辺り、最早束と呼んで良いのか疑問だが)を考えると、今夜の睡眠時間が無事に確保出来るのか不安になってくる。
加えて、長時間同じ姿勢を取り続けて、首も肩も背中もガチガチだ。
溜めてしまったのは自分なので、仕方ないのだけれど。


「はぁ……。」


再び、今度は先程より少し大きく溜め息を吐くと、羽ペンを机に転がし、椅子に背中を預ける。
仕方ないとは思うけれども、そろそろ集中力が限界なのだ。
固まった筋を解すように背中をぐっと伸ばした所で、背後から暖かい感触に包まれる。


「終わったのかよ。」


ロイだ。


「ううん、あと半分。」

「はぁ?!」


半日以上かけて半分しか終わっていないという事実にショックを受けているらしい様子に、ちょっと申し訳ない気持ちになる。
ロイは、朝訪ねて来てから今までずっと待っていてくれたのだ。


「どんだけ書類溜め込んでんだよ、アンタ…。」


いつまで俺を待たせるつもりだ、とげんなりしながら言う彼に、ゴメンねと返しながら、それでも終わるまで待っててくれるんだと思うと酷く嬉しい気持ちになる。


「…何笑ってんだよ。」


自身の言った言葉の意味に気付いたのか、僕の背中に張り付いて不貞腐れる姿に、ますます笑みが深まる。


「何でもないよ。……ありがとう、ロイ。」


そう言うと、チッと舌打ちしながらそっぽを向いてしまったので、彼の肩口に頭をもたせかける。

あったかい。

触れた所から、じわじわと染み込んでくる温もり。
ロイの体温はいつも、泣きたくなる程温かい。


「ね、ロイ。」

「あん?」


だから、いつも思うのだ。
この体温に、全身を包み込まれてしまえたら、と。


「もっと、ギュッてして。」


そう言って、甘える様に彼に擦り寄る。
僕のその言動に、ロイは一瞬驚いた顔をして、それからニヤリと笑った後(ロイの顔は見えないけど、気配と勘で分かる)、僕の背後から隣へと移動する。


「いいぜ。……ほら、もっとこっち来いよ。」


そうして僕の背中に腕を回し、体を強く抱き寄せる。
僕もここぞとばかりに、ロイの体に密着する。

ああ、でも

『包み込む』には足りないな。


「……ロイって華奢だよね。」

「なっ…!?ア、アンタにだけは言われたくねぇ!!」(ちょっとショック)


思わず僕が不平を溢すと、一瞬の間を空けてロイが怒り出す。ついでに機嫌も急降下してしまった。
……どうやら禁句を言い当ててしまったらしい。

でも僕も、悔しく思ってるんだけどな。
ロイが、僕と変わらない体格をしていること。

ロイの背に回した腕に力を込め、彼の胸に埋めた顔を更に強く押し付ける。


「……王子さん?」


ロイが不審がりながらも、抱く力を強めてくれる。


例えば、ロイの背がもっと大きかったら、
例えば、この身体がもっと小さかったら、
この心地良い体温に、全身を閉じ込められて仕舞えたかもしれないのに。


顔と体格が同じだからこそ、ロイと出会えた訳だけど。
解っていても、やっぱりちょっと残念に思う。


「ロイの中に入れたら良いのに。」

「はっ?!……いや、俺としては逆のがいいんだけど。」

「?…逆?」

「……何でもねぇ。」
(どうせ、そんなこったろうと思ったけどよ…。)


包み込むのが無理でも、せめて今だけは、二人が離れることのないように、と。
祈りにも似た気持ちで願いながら、ロイの背中で、手を強く組み直した。






密閉してほしい




(あぁでも、抱き締めた時に背中でしっかり手が組めるこの体格は、心底愛おしいかもしれない。)




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