「あ、王子様だ。」


釣りの最中に聞こえたフェイロンの言葉に振り返ると、吊り橋の上で件の人物が女王騎士連中を従えて、見張りの兵士と何やら話をしていた。


「何だか、ちょっと眩しいね。」


それはアイツの髪のことか。それとも単に逆光のことを言っているのか。


「しっかし、こうやって見てると、ロイとは全然、大違いだよね。」

「…何がだよ。」


いつの間にか近寄って来ていたフェイレンの言葉に、思わずムッとする。
全然大違いって、どんだけかけ離れてんだよ。


「だってさ、いくら顔が似てるって言ったって、雰囲気から何から全然違うんだもん。」

「当ったり前だろ、別人なんだから。」

「王子様はロイと違って馬鹿なことしないし。」

「んなことしたらリオンが卒倒するだろ。」

「……王子様はロイと違って気配りも出来て優しいし。」

「俺だって優しくしてやってるだろうが。」

「どこが?!」

「散々面倒見てやってんだろうが!」

「兄貴がね!っていうか何で一々上から物言うわけ!?」

「ふ、二人共…その位にした方が……。」

「「あぁ?!」」

「いや、あの、王子様が見てるし…。」

「「……え?」」


フェイロンに言われて再び吊り橋の上に視線を向けると、王子さんがこっちを向いて嬉しそうに手を振っていた。


「……ロイのせいで、みっともないとこ見られちゃったじゃん!」

「何で俺のせいなんだよ。」


顔の向きは変えずに、フェイレンと尚も小言を言い合っていると、王子さんの口が動いているのが見えた。


「……何か言ってるね。」

「王子様も釣りがしたいのかな?」

「違うよ。きっとロイに、女の子をいじめるなって言ってるんだよ。」

「誰が女の子だって?」

「湖に突き落とすよ……!?」


そんなやり取りを繰り広げながらも、俺は王子さんの言ってることが、あと一歩で分かりそうで必死で考えていた。
あの口の動きには、何となく見覚えがある気がするのだ。


「も〜、だから二人共止めなって。」

「……兄貴はそうやって、いっつもロイの味方をするんだもんね。」

「いや、だから二人に言ってるんだけど……。」


………あ。
分かった…って、いうか……。


「あ!ちょっとロイ!!」


気付いた瞬間、フェイレンの静止を振り切って、走り出していた。
城の中を走り抜け、階段を駆け上り、王子さんがいるだろう吊り橋へと急ぐ。


「おい、コラ!てめぇっ!!」


着いた瞬間、息が切れるのも忘れて大声で叫ぶ。
周りの奴等は、何事かと目を白黒させている。


「おっ前…!何こっぱずかしいことしてやがる!こんの馬鹿王子!!」


まさか王子さんを馬鹿呼ばわりするとは思ってもみなかったのか、周囲の目は点になってしまっている。
そんな中、いち早く再起動したリオンが反撃を繰り出す。


「ロイ君!王子になんてことを言うんですか!!」

「あーもう、うっせぇな!お前には関係無いだろ!!」

「関係無くありません!王子が侮辱されるのは、私が侮辱されるのも同じことです!」

「一々大袈裟過ぎんだよ、お前は!」

「大袈裟じゃありません!私にとって王子は…」

「それで、ロイは?」


リオンがこれから渾身の一撃を繰り出そうかというところを遮って、王子さんがようやく声を出した。
……ちょっと助かった、気がする。


「だから!恥ずかしいことしてんじゃねぇよ!って言いに来たんだよ!!」

「うん、ごめんね。で、ロイは?」


やっと本人に届いた抗議だが、しかしあっさり受け流されてしまった。
しかもその上、訳の解らない疑問付き。


「はぁ!?」

「だから、ロイはどうなのかなって。」

「……………!」


しばらく間を空けて、ようやく何のことか思い至った。途端に顔に熱が集まるのを感じる。
正面には、したり顔の王子さん。
そんな表情すら可愛く見えて、俺は自分の負けを悟った。


「〜〜〜〜っっ俺もだよ!!」









きみにしか聞こえない











(ロイ、大好き!)





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