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■大気と自然と音楽と

『レイン!!!』

広すぎる基地内の廊下が、ますますイライラさせる。その広さに負けたくなくて、思いっきり大股でずかずかと、後ろで聞こえる声を無視して歩き続ける。

『レイン、待ってくれ!』

歩き続けた。何て言っていいかわからないから。百歩譲っても副官はひとつも悪くない。

『悪かった!!先に話せば良かったんだ!!』


ずっと追いかけてくる声は、いくら私が早足で歩いてるとはいえ、もう追いついてもいい頃だ。声の主は私の体の1.5倍以上はある(と思う)というのに。

『頼む、話を聞いてくれないか』

距離を保ちながら、なおかつほっとかずに追いかけてくる副官に、彼らしい優しさが見える。
…不意に何かがこみ上げて、なんで怒っているのか分からなくなって立ち止まった。
いつの間にか、自分の部屋はすぐ目の前になっていた。

「………マイスター副官……」

背を向けたまま、名前を呼んだ。

『おお、やっと話を聞いてくれる気になったかい?』

不機嫌な顔を作りくるりと振り返ると、青いバイザーからは瞳は見えないけれど、口元が少し歪んで、不安そうな表情が見て取れた。
その表情を見てから、もう不機嫌な顔は作れなくなった。

「…私…」
『なあに大丈夫、私がいるさ。君の部屋に入ろう』












基地の奥に特別に作ってもらった部屋は、私の自由に出来たので、大好きな観葉植物をいくつも買って、この無機質な空間に散らしていた。それだけで、人間らしさを保てる気がしていたから。

『やはり何度観てもいいもんだなあ。これはなんていうんだい?』

副官の言葉に思わず笑みがこぼれる。地球のことに興味を持ってくれるのが何より嬉しい。

「パキラです。鮮やかな緑が綺麗で好きなんですよね。ほら、元気でしょう?」


植物の説明するのをそれはもう真剣に聞きながら、副官は、うん、素晴らしいと何度も頷いた。時々、素晴らしい星だなぁここは本当に、とも言った。
それをみてまた嬉しくなって、さっきまでのモヤモヤが解けていくようだった。
しばらくそんな他愛もない話をしていたけれども、ある時副官はハッとしたような表情に変わって私の名前を呼んだ。

『……レイン』

突然の真剣な声に、あぁ、さっきの話の続きをするのね、と思わずうんざりした顔をしてしまった。

「はい」
『さっきの事なんだが、悪かった』
「なんでマイスター副官が謝るんですか?それに別に私、平気ですし」
『君の気持ちを知っていたからこそ言えなかったところもあったんだ。だがそれも、レインからすれば酷い事でしかなかったということだ』
「予想していた事でしたし、問題ありませんって」
『だが悲しそうだ』


ハッキリ言われて、ちょっと怯んだ。

「…仕方ないです」
『詳しく聞きたいかい?』

やさしい声で、また気持ちが解けていく。

「……もう、大丈夫です」
『じゃあどうしてそんな顔をしてるんだい』
「……もともとこんな顔です」
『いつもはもっと笑顔だ。私はそっちの方が好きなのに』

怒っている時にそう言われるとかなり困る。どんな顔をしたらいいんだろう。

「じょっ…情報を処理するのに時間がかかる生き物なんです、人間ってのは!!」
『あぁ、そうだった。いやはや悪かった。よし、音楽を流そうか?落ち着くようなのはどうだい?』
「………副官…」
『ん』
「私…ばかみたいです」
『そんな事はない。私は君の気持ちを尊重したいよ』
「でも、もう大丈夫!今まで色々聞いてくれてありがとうございました。落ち着いて考えたら司令官に恋人がいるって、調べもせずに舞い上がってたのが一番悪いって感じで…」
『そんな事はないさ』


なんだか話題を切り替えたくなってきた。すごく恥ずかしい。

「マイスター副官にはいるんですか?ウーマンサイバトロンの彼女!」
『残念、私にはいないよ。アイアンハイドやパワーグライドにはいるがね』

はっはっ、と少し笑って、副官が答えた。

「えっ!意外!!」
『私もそう思うよ』

真剣に頷く副官を見て思わず吹き出した。そしたらなんだか元気が出た。

「私、今まで以上に頑張ります。あー私、今超頑張りたいです、今まで以上に!」
『おいおい、いきなりどうしたんだ?』

少し戸惑ったように副官が言った。

「なんていうか、種族が違う相手を好きになるのは…、荷が重すぎたって事ですよね!なんだか軽くなりました」

しばし見つめられたまま沈黙する。

『……分かるよ』

少し困ったように頼りなく俯いて、けれど微笑んでその言葉を放った副官は、今まで見たことがないくらいに寂しそうな表情だった。
その言葉に、どんな意味があるのか分からずに、思わず副官を見つめた。
ここ何ヶ月も、副官は不確かな恋心を、幾度となく黙って聞いてくれた唯一の相談相手だ。話すたびに忍耐強い人(人、ではないけど)だと思って改めて感心していた。

『…ここは本当に素晴らしい星だな』

パキラの葉を黒くて大きな手が優しく包む。

「…副官は地球、好きなんですね」

副官の手をじっと見て言った。
何故かさっきまでしていた子供染みた失恋は、もうどうでもよくなっていた。


『……そうだな。地球は良い星だ。大気があって自然にあふれ、音楽を奏でて、………レイン、君もいる』
「……え」

今まで何度も何度も聞いていたその優しく穏やかな声が、全く別の声に聞こえる。

『種族が違う相手を想うなんて、荷が重すぎる、か』

私がさっき言った言葉を副官が呟いた。

「マイスター副官?」
『…………レイン』
「はい」

副官は立ち上がると目の前まで来て膝をつき、目線を合わせたあと、シュンッと音を立てて青いバイザーを上げた。
まっすぐ見つめられ、戸惑った。
今まで何度も会話をここでしたけれど、こんな態度の副官は見たことがない。

なぜか胸が高鳴る。

傷ついて卑屈になっていた、心の中の柔らかい何かがほぐれていく。


『こんな時に言うのは卑怯なのかもしれないが……』

こんなに至近距離で副官のバイザーを外した素顔を見たのは初めてだ。



『私では駄目かい?』


副官の迷いの無い笑顔が私の渇いた心を満たしていく。
でも分からない。
流されていいのかわからない。


「副官…」
『いつも、君から出る話は私以外の男の話だった。たまには私の気持ちを伝えてもいいだろう?』



あぁ、なんて私は愚かな人間なんだろう。
本当の私を分かってくれる相手はずっとここにいてくれたのに。
何から伝えたらいいのか分からないけど、その答えを伝えなきゃ。
今まで、大きな優しさで包んでくれた彼に、精一杯のありがとうで。






───────
苦しすぎる補足。
一番最初の設定としては、主人公は司令官に淡い片思いでした。仲間のだれかに司令官にはエリータがいることを聞いてしまって、以前から事情を知って相談を受けていた副官が、知ってたのに隠してたんだと思って、怒って走り去ったのを追いかける、みたいな(長!)
2008/10/09
初代で生まれて初めて書いた夢です
いろいろごめんなさい