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■みんなのえいゆう

補足:こちらのお話は旧サイトでやっていた「番外編連載」のさらに番外編です。現在公開していないギャグ連載ですが、読まれたことがない方でもこちらの内容は分かると思いますので掲載します。いろいろそちらから設定をひっぱってきてます。リクエストで書いたものです。





ここは、サイバトロン基地の談話室の一角─…
精密な機械の体を持ち、日々戦いに明け暮れる彼らも、心の拠り所を求めていた…
磨かれたカウンター、そのスツールに腰掛け、芳醇なエネルゴンをひと口飲めば、彼等の秘密が解かれていく…いつもは。

けれど今日はそんな普段のカウンターを飛び越えた、二人っきりのお話。







クリスマスツリーを撤去した夜、皆がスリープモードに切り替えた頃、通信機が光った。"OPTIMUS PRIME"と赤く点滅した通信機は、湯上がりのリラックスした気持ちを、急に反転させた。

「こちらレインです、どうしました?」

いまだに司令官と話す時は緊張する。通信機からもれる穏やかで、優しくて、それでいて力強いその声は、電子音も混じらない、とても人間的なものだ。

『─悪いが、談話室へ来てくれないか、エネルゴンサーバーの使い方がわからんのだ─』

司令官にもわからない事があるんだなぁ、と思いながらも、突然の呼び出しに気持ちが弾む。

「分かりました、すぐ行きますね!あ…、でもすいません、着替えて来るんで少しだけ待っていただけますか?」

たどたどしく返事をしながら、姿見の鏡に写るパジャマ姿の自分をいまいちだと思い、とりあえず明日着ようとしていた作業服に腕を通しながら、答えた。

『─いや、サーバーの使い方を教わるだけだ、どんな格好でも構わないが…─』

いつになくリラックスした口調の司令官の声は、なんとなく夜を思わせる。この時間に会うことは修理中でもない限り滅多にないので、胸の中がざわざわした。そしてわくわくした。

「…じゃあ、お言葉に甘えますね。すぐ向かいます」

通信機を切って、柔らかなニットのカーディガンを羽織って通路に出ると、足が勝手に走り出す。司令官に早く会いたかった。





談話室のスライドドアを開けると、司令官はカウンターに背中を丸めて座りながら、手招きした。
思わず、笑みがこぼれた。

「意外です、司令官にもわからない事があるなんて」

そう言ってカウンターにまわる。司令官がフェイスマスクをスライドさせて、口元があらわになった。優しく微笑んでいる。

『誰しも完璧ではないものだ』

司令官は立ち上がり、カウンターに回り込んだ。

「こうやってレバーを引くとエネルゴンが出てき…」

使用方法を説明している後ろから、エネルゴンサーバーのレバーに、司令官も手をかけた。
互いの手が重なった。

「………」

なんの躊躇もなく触れられる。その潔さにびっくりして、司令官に重ねられた手を見つめた。自分の顔よりもはるかに大きなその手は、金属であることが嘘のように温かく優しかった。

『ここを引けばいいのか。よし分かった。これからは自分で使えるな』

そう言って何事もなかったかのように手を引き離すと、エネルゴンの入ったグラスを持ってカウンターに戻った。

『レイン』

ぼうっとしていた。

「あ、はい」
『一緒に飲まないか』

司令官はそう言うと、隣のスツールを指差した。落ち着いた表情の司令官を見て安堵する。
頷き、さっと自分の分を作る。それを持って司令官の隣に腰掛けた。

『いつもは賑やかだからな』

誰も見たことのない、穏やかな司令官だな、と思う。その横顔を見上げると、グラスに落とした青く光るアイセンサーは、いつもより落ち着いた雰囲気で、いつもより魅力的だった。
小さく脈打つような電子音が聞こえる。二人きりの時間は、数えるくらいしかないけれど、幸せだった。こうして基地で手伝いが出来て、皆と暮らせる。皆優しいし、常に危険と隣り合わせでも皆明るくて、一緒にいて楽しい。そして、隣には司令官がいる。こちらを見つめていた司令官が視線に気づいて、思わず微笑んだ。

『なんだ』

不思議そうにグラスを持ったまま尋ねられて、一瞬答えに困ったので首を振った。そして答えた。

「司令官と二人で飲んだことのある人間って、私が最初ですよね、多分」
『ん?ああ、そうだな』
「だから嬉しいんです。あ、おかわり作りますね」

グラスが空になっていることに気づいて立ち上がろうとしたとき、司令官がこちらの手を抑えた。

「え?」
『一つ聞きたい』
「は、はい」

眼差しを背けない司令官に手を掴まれたまま、また固まって司令官を見つめ返した。

『正直に答えてほしい』

トランスフォーマーは人間ほど表情豊かではないけれど、今の司令官の真剣な表情は読み取れる。

「…司令官?」

真剣な表情に戸惑ってはいけない気がして、必死に困惑を隠しながら答えた。

『私のことをどう思っている?』

依然変わらずにその真剣な表情を向ける司令官に、じっくり考えて答えた。

「皆のよき司令官だと思います」

司令官はこちらを黙って見つめたままだ。

「いつも仲間を思っていて、正しい判断をされます」

こんな事を言いたいわけじゃないのに。

「勇敢で、力強くて、それから…」
『それから?』

握られた手の温もりが、緊張を解していく。

「時々"いい考え"は失敗しますけど…」
『ん、痛いところをつくな』

一瞬困ったような表情に変わったものの、すぐに穏やかな表情に戻った。

「でも、そんな完璧じゃないところが…すごく好きです」

『………』

沈黙に勝てなかった。

「…好きです…」

司令官がその大きな手で体を掴み、カウンターに座らせられる。司令官と向かい合って見つめ合うかたちになった。

「あ、あの……」
『君が私といるときに様子が変わることを心配していた』
「え?」
『君に恐れられているか、もしくは嫌われてしまっているかのどちらかだと思っていた』

司令官はグラスを置くと、頭を指で優しく撫でた。

『だがそうではなかったと知って、安心した』

もう一度掴まれ、カウンターの向こうに体を移された。

「えっと………」
『作ってくれ』

そう言ってグラスを目の前に差し出される。司令官がカウンターから身を乗り出す。後頭部に手が回され、引き寄せられて口づけを交わした。カウンター越しのキス。
見つめ合い、お互い微笑んだ。



私たちは、幸せになるために出会った。

お互いの笑顔に、その願いを込めながら。


───サイバトロン基地の夜は今日も更けてゆく…


【本日の出演】
・コンボイ司令官
・レイン

Thank you!!!!
リクエスト作品

2009/3/-
ヒロさまへ!