■雪合戦は突然に!!
最高気温1度。基地内の温度設定は、この中で一番温度の耐性がない人間であるレインを優先し、26度を常に保っている。
サイバトロン基地の周りは、駱駝色の裸の荒野だが、今埋め尽くすのは、一面の銀世界。
今年の寒波は例年よりも酷いため、各地で積雪のニュースが放送されているのを、テレトラン1で眺めていたレインとサイバトロン居残り組は、基地の周りの一面の風景に思わず驚きの声をあげる。
居残り組、というのは、積雪で少なからず影響が出てしまった各区域の除雪を兼ねたパトロールに行かなかったラチェット、マイスター、バンブル、ホイルジャック、レイン、そしてダイノボット達である。
『これはしばらく溶けなさそうだなあ』
『久しぶりにこんなに積もったのを見たよ』
マイスターとラチェットがそう言うか言わないかのうちに、グリムロックが割って入った。
『俺グリムロックあそこ踏みたい。足跡つくか?』
レインが笑顔で答える。
「足跡つけたいの、わかる!!外、行ってみようよ」
『俺スラージも今おんなじこと考えてた!』
『俺スラッグ、面白いことならなんでもした〜い!!』
ダイノボット以外のサイバトロンの面々は、エネルギー補給の準備をしながら、わいわいきゃぴきゃぴの「大きな子供たち」と、その中ではしゃぐ純粋な彼女を穏やかな眼差しで眺めている。雪を丸く固めて雪遊びをすることを懸命に説明するレインに、ダイノボット達はかなり興味津々で、スラッグなんて興奮し過ぎて口からだけではなくて鼻からも炎を出してしまっている。大丈夫なのだろうか。
『行っておいで。我々もエネルギー補給をしたら追いかけるよ』
ラチェットが優しく促す事で、レインが万弁の笑みを浮かべる。
「ありがとうラチェット!!」
『もうすぐパトロールからみんな帰ってくるよね、おいらコンボイ司令官に連絡しておくよ』
『わが輩もこれが終わったら鈍った体を動かしまっせ!』
バンブルもホイルジャックも参加決定!!
レインとダイノボット達は、やる気満々で基地の入口へ向かっていった。
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歩くたびに、ぎゅ、ぎゅ、と小さな結晶が軋む音がする。その足音を気に入ったのか、グリムロックはその巨体全体重で空気を含みながら積もった雪を踏みつけた。次第にグリムロックの周りはスケートリンクのようにつるっつるに固まり始める。夢中で足踏みしていたグリムロックと、隣にいたスラージが二人してつるりんと派手にひっくり返った。レインがそれを見て爆笑している。
「二人ともドジだね〜」
そう言ってレインは、グリムロックとスラージに小さな雪玉を投げつけて笑いながら逃げる。
『俺グリムロックドジちがう!』
そう言って立ち上がろうとしたグリムロックがまた足を滑らせて、隣で立ち上がろうとしていたスラージがまたしても巻き添えをくう。
『俺スラージ、おもしろくもなんともない』
スラージがそう言って一踏みすると、地面がぐらぐら揺れて、途端にレインの近くに立っている雪を被った木々が揺れて、レインに覆い被さった。
雪に埋もれたレインをスワープが助ける。
『レイン、だいじょぶか!!俺スワープ今いく!』
プテラノドンに変形したスワープが雪の中からレインを救い出した。
「ありがとうスワープ!!」
にっこりとスワープに微笑むレインへ、かなり巨大な雪玉が向かってくる。雪玉の犯人はもちろんスラージとグリムロックだ。いつの間にそんなでっかいのを作ったんだ!というほど大きい。ドラム缶より大きい。なんていうか、当たると絶対死ぬってくらい大きい。
「ま、ま、まじすかーー!!!!」
『俺スワープ、巻き添えー!!!!!』
慌てて逃げようとするレインだが、足が抜けない。スワープはその間にしっかり安全圏まで飛んでいってしまった。
あんな塊がこの速度でぶつかったら多分、明日からリペアどころか、自分が入院だ、いや、入院で済めばいいけど。と飛んでくる間に色んな事を考えた。
もうだめだ。
レインが雪玉(巨大)直撃を覚悟して叫びながら目をつぶった瞬間、ふわふわとした虹色の光がレインと雪玉(巨大)の間に現れた。そして、雪玉はふわふわとその軌道を外し、ゆっくりと雪の上に落下してくずれた。
『楽しそうなことやってるじゃないか!!』
『俺グリムロック、何でじゃまするトレイルブレイカー』
グリムロックが向こうで、あともうちょっとだったのに!ねえ!とスラージとぷんすかしている。
それを見てトレイルブレイカーが笑う。
『いやいや、おたくら無邪気だからその行動が許されるがなぁ、あれはさすがにレインにとっては致死量だよグリムロック』
「た、たすかった〜、ありがとうトレイルブレイカー」
フォースバリアーが消えて、レインがトレイルブレイカーに歩み寄ると、パトロールに行っていた面々が、次々と帰ってくるのが見える。
「おかえりなさーい!!!」
レインが帰還するコンボイたちに大きな声で手を振って、あっ、と何かを思いついたようにトレイルブレイカーを見た。
『ん、なんだい?』
「雪玉!トレイルブレイカー作って!ダイノボットのみんなも!!帰ってきてるみんなに当てちゃおう!!」
『俺グリムロックおもしろそう、やるやる』
そう言ってごっそりと雪をショベルカーのようにすくったグリムロックにハッとして、レインが慌ててグリムロックの手の中にある雪の量を減らした。
「だめだめ、小さいのをたくさん作って!」
『何を計画してるんだい?』
後ろでマイスターの声がする。居残り組がわらわらと基地の入口からこちらに集まった。レインは、マイスター達を巻き込んで、雪玉を作る。
もう、それは町内会でかり出されたお母さん達がお昼になるまでに子供たちのために必死になっておにぎりを量産する作業に似ている。
その作業を、臨時で作った雪の岩に隠れて居残り組全員でやっているのはものすごく地味だった。
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『いやあコンボイ司令官、今日は人々の役に立てて良かったですね!』
ストリークが心底嬉しそうに声を出した。
『ああ、そうだな。雪は一つだと小さな結晶だが集まると膨大な質量で人間たちを苦しめる要因にもなりかねんからな』
『それにしても、もうクタクタだ、早いとこエネルギー補給をせんと』
プロールがくたびれたような声をあげる。
『ん、なんだかおかしなものが飛んでくるぞ!』
先頭を走っていたチャージャーが慌てて大声を出した。
『う、うわぁ!!なんだい、これ!!』
トラックスの"美しい"ボンネットに、白くてパサパサした塊が勢いよくぶつかって弾けた。
『よ、横殴りの雪です司令官!!』
アイアンハイドが二発食らって口を開いた。
『いや違う、これは攻撃だ!サイバトロン戦士、トランスフォーム!!臨戦するぞ!!』
『『『『はいっっっ!!!!!』』』』
コンボイの指令で皆が一斉にトランスフォームする。
『基地のみんなは無事なのか!?』
サンストリーカーが心配しながら、銃を構えた。
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『ちょ、ちょっとまって、みんなこっちに武器を向けてるよ』
バンブルが指差した先には、怒りの形相のコンボイ達がずらりと並んでいる。
「な、なんで!?そんなにたくさん投げてないのに、みんな怒っちゃったのかな!?」
レインがあたふたし出すと、つられてグリムロックもあたふたし出し、とうとう足を滑らせて本日3回目のすってんころりんとなった。そして臨時で作った雪の岩にダイブしてしまい、しかも今回は居残り組を全員巻き込んでしまう。
「きゃー!」
『ぐ、グリムロックつ、つぶれる!!』
『わ、おいらもう掴んでられないよ!!』
『ま、待て私のウルトラサウンドアタックで雪をどけよう!!』
『お、わが輩もう無理でっすわ!!』
『『『『『「うわああぁあぁあああぁ!!!!」』』』』』
居残り組全員を巻き込んだ雪玉は、陽気な音楽を大音量流しながら真っ直ぐコンボイ達に向かって転がってくる。
『し、司令官!!物凄く巨大な雪玉です!!!』
『撃ち方用意!!』
と、かけ声をかけたとたん、ゴングが何かに気付く。
『あ、あの足は…み、みんな撃っちゃダメだ!!あの中には仲間が巻き込まれてるぞ!!』
『で、でも向かってくる!!』
『逃げろーーー!!!!』
巨大過ぎる陽気な雪玉に唯一逃げなかったのは、コンボイだ!!!
『私にいい考えがある!待ってろ、今助けてやる!!』
ゴロゴロと転がってくる雪玉はところどころラチェットの足とか、トレイルブレイカーの手とか、マイスターのスピーカーとか、グリムロックのホイッスルと見間違えるような頭とか、スナールの尻尾とか、なんか色んな物を巻き込んでいてさながら塊魂のようである。
コンボイは、迫り来る雪玉に一体、何をしようというのか!?
『はあっ!!!!!!!』
雪玉がバラバラに崩れていく。体当たりをしたコンボイの考えは、一瞬いい考えのように見えた。
ところがだ!
「きゃぁあぁあぁ!!」
その衝撃ですっ飛んだのは、トランスフォーマーより遥かに軽量のレインである。
空中浮遊状態の彼女をみんなが放っておくわけがない。
『今助けてやる!!』
プロールが駆け出してレインをキャッチしようとする。レインはなおも叫びながら空中浮遊を続けている。
『ここは俺の出番だぜっ!!!』
ここに来てしゃしゃり出てきたのは、サンストリーカーだ!!
プロールを飛び越えてレインを掴もうとしてさらに邪魔が入る。
今度は誰だ!?トラックスだ!!
『いやいや、ヒロインを助けるなんて役は、この俺以外にいないのさ!!』
そんなトラックスに飛びかかったのは、アイアンハイドだ!
『待て待てぃ!!コンボイ司令、この俺がレインを助けてみせます!』
そんなアイアンハイドの行く手を阻む、巨大な、雪だるま!
『な、なんだ!この雪だるまは!!』
驚くアイアンハイドにこんにちは、と雪だるまの中から顔を出したのは、なんとマイスターだ!!
『雪だるまじゃない、スノーロボットさ!!レインを救うのは副官たる私のつとめ!!』
スノーロボットの意味がわからん!!と吹っ飛ばされながらアイアンハイドは思った。
そして吹っ飛ばした方のマイスターは、意気揚々と彼女をキャッチ!!…したかのように思えた。が、目の前の木に気づかずに、またもや衝突!!
レインはマイスターの手を離れ、ふわっと空中にまた浮いた。
『俺グリムロック今いく!!』
グリムロックは、まるで高価な宝石に触れるように、レインを優しくキャッチして、手に載せた。
「ありがと…う…グリ…」
空中の冷たさに凍え、キャッチされた安堵にパタッと手のひらで力尽きて倒れたレインを見て、グリムロックが発狂したような声をあげる。
『レイン、しっかりしろ!俺グリムロックついてる!!レイン!!』
皆がグリムロックの所に集まってくる。
『とにかく基地につれて帰ろう、レインを温めなければ』
ラチェットが言うと、皆が頷いた。ボロボロになった「助けてくれた王子様」になり損ねた面々をみて、またリペアかよ!!と思いながらため息をひとつ、ついて基地に戻った。
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温かいレインの部屋で、グリムロックはレインのそばに座っている。"レインの額に当てられた濡れタオルが、熱くなったら冷たいのと取り替える"任務を、今、グリムロックはやっている。
レインは、2日ぶりに目を開いた。
『レイン!!だいじょぶか!』
ぼんやりと、力なく頷いたレインに、グリムロックは心からほっとした。このまま目覚めなければどうしようと、思っていたから。
「ありがとうグリムロック」
『俺グリムロックごめん、俺が雪あしあとつけたいと言ったからこうなった』
グリムロックはごめん、ともう一度言った。
「なんでそんなこと言うの?楽しかったからいいんだよ」
レインは優しく微笑んだ。グリムロックは、昔チャーから聞いた、天使の話を思い出した。天使は優しく笑って、いろいろ許してくれると、多分もっといろいろ聞いたけど、そこしか覚えていない。レインは天使みたいだなと、思った。
「今度は雪だるま作ろう」
『あ゛ーでも、レインが寝てる間に雪溶けちゃった』
レインと雪だるまが作りたくなったから、その事実をグリムロックは今、嫌になった。
「来年、また積もればいいね」
『うん。俺グリムロック積もらせる』
できるの?といいながらレインは、起きたての時よりも元気に笑った。
来年の約束が出来る事の幸せと、まっすぐで無邪気な彼の優しさに、まだ眠ってるのか、起きているのか分からない甘やかな穏やかさを感じて、また重たくなった瞼を閉じた。
Happy Birthday 八満さん!