G1/全軍 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

■□サンタクロース

基地の談話室でエネルギー補給をしているブロードキャストは、隣で自分の計器の調整をしてくれているレインに目を移す。
はっ、と目を丸くして何かに気づいたような表情をしたレインがブロードキャストを見つめ返した。

『ゴッキゲンなサウンドでしょ』
「うん、私も同じ事考えてた!!良い曲だね!」

間髪入れずにレインが反応したので、思わずブロードキャストは微笑んだ。

談話室内に流れている曲は、R&Bの曲を集めたオムニバス。
そのうちの一曲に2人とも動きが止まった。

『いい曲だなぁ』
「歌詞が私の国の言葉じゃないから分からないけど…」
『大丈夫大丈夫、歌詞なんて分からなくても、音楽は宇宙の共通言語さ。俺とレインは、曲の好みが似てるよな』

そう言ってブロードキャストは今聞いているアルバムの曲目リストを検索した。

「私、音楽はすごく好きなんだけど、実際にライブとかに行ったことがないんだよね」

計器を調整する作業に戻ったレインが何気なく呟いた。

『もーったいない!!こーんなにたくさんの音楽で溢れた星なのに、ライブに行ったことがないなんてさ』
「いつか行けたらいいけど…忙しいしね。はい!!出来た!」

ブロードキャストが見てみると、計器の目盛りはすっかり元の数値を差していて、プレートも見やすいクリアなものに取り替えてあった。

『おーっ!見やすいよ!ありがとう!!』
「いえいえ」

そう言ってにっこり笑ったレインに、何か思いついたという含み笑いをしながら、少しだけその巨体(レインにとっては)を近づけた。
レインが困ったような笑顔で、近づいたブロードキャストのアイセンサーを右左交互に見る。

『行こうよ』
「え?」

ブロードキャストが微笑む。

『行こう!この曲歌ってるの、今検索かけたら、今度ライブをやるらしいよ』

レインが目をきらきらさせる。

「ほ、本当に!?」

ブロードキャストは大きく頷いて、笑顔を返した。

『行きたい?』
「も、もちろん!!いつなの?」
『あーちょっと待って。今検索…』

わくわくした目で見つめられて、検索途中のブロードキャストもさすがに目をそらした。

『12月えー…24日。クリスマスイブって日らしいね、なんだい?それは』

レインが今までに見たことのないような笑顔で答える。

「すごい!行ってみたかったんだクリスマスライブ!!さっそくじゃあチケットを…予約、予約…」

小さな携帯を開いて、レインが画面に向かって文字を打っている。
その姿を、ブロードキャストは微笑んで眺めた。
こんな小さな体で、毎日毎日、機械に囲まれているだけの生活はあまりに可哀想だ。
どこかに連れ出してあげたいと思う反面、レインは自ら志願してこの仕事を選んだといつも言うので、誘うのをためらっていた。

「…できた…」

レインが瞳を潤ませてブロードキャストを見つめる。うれしそうに。

「二人分、チケット、取れちゃったー!!」

そう言ってハイタッチを求めてきたレインに、思わず吹き出してブロードキャストは応えた。

金属の手のひらと、柔らかい手のひらが、歯切れの悪い鈍い音を立ててぶつかる音が響く。

音は悪くても、ハイタッチ。レインとブロードキャストは笑顔だった。

『たっのしみぃー!!』
「うん!!わくわくするね!」








12月24日。
気温は、下がるばかり。

『あんまり遅くならんようにな』
『わーかってるってえ!』
「ありがとう、ストリーク!」

レインとブロードキャストは会場の近くまで送ってくれたストリークにお礼を言う。
ブロードキャストは降りてすぐ人型にトランスフォームした。

『じゃあ、楽しんで!』

そう言い残し走り去っていったストリークに笑顔で手を振るレインを、ブロードキャストはあらためて見つめた。

いつも髪は邪魔にならないように束ねて、作業服を捲り上げて、スパナーを持って、油にまみれて皆を修理するレインとは明らかに違う彼女が、そこにはいた。
髪は規則正しく下ろされていてさらっとしているし、唇も輝いていて、服も、作業服ではなかった。
他に言葉は思いつかないからこう言うしかないけれど、本当に綺麗だった。

「ん?」

気がついたら、レインがこちらを向いて立っていた。ぼうっと見つめていたブロードキャストが我に返る。

笑顔で首を振った。

『行っちゃおうか!!』

なぜかこみ上げてきた、抱きしめたい気持ちを抑えて、明るく振る舞った。

「うん!!行こう行こう!」

夕方から予想以上に気温が下がっていて、レインの指先の温度が急激に下がっているのがうかがえる。

『冷たいだろ?』

そう言って立ち止まり、ブロードキャストが手を差し伸べる。
きょとんとしたレインの表情に、一瞬怯むものの、もう決意を固めたブロードキャストは退かなかった。

『つなごう』

レインは少し戸惑いながらも、差し伸べられたブロードキャストの手をゆっくり握る。

『よし。じゃ、行こっか!』

レインが優しい笑顔を返して、頷いた。

ふわふわと舞い落ちる雪は、地面に落ちた瞬間溶ける。
それを繰り返し見ながら、ブロードキャストとレインは会場までの距離を歩いた。

手を温めてくれているのに気づいて、レインは両方の手をブロードキャストの手に絡ませる。
ブロードキャストがびっくりしたような表情でレインを見返した。

「あったかくてつい…」

申し訳なさそうに笑ったレインに、ブロードキャストは優しく答えた。

『いいよ、このまんまで。あっためてあげるからそうしてればいいさ。あと10分は歩くから』

手をつないで、歩く。

目の前を、カップルや、楽しそうに笑う親子が通る。

『なんだ?みんなライブに行くのかな?やけに今日は、道行く人がみんなゴッキゲンなんだけど』

不思議そうにブロードキャストは人々を見ながら呟いた。

「そりゃ、クリスマスイブだもん」
『ああ、気になってたんだけどそれ、何だい?』

レインが微笑む。

「クリスマスは平たく言ったら、イエス・キリストの生誕を祝う記念日みたいなものかなぁ?幸せが降りてくる日ともいわれていて、サンタクロースが子供にプレゼントを持ってきてくれるんだよ。で、今日はイブ。教会歴ではね、日没が日付の変わり目で…」


ブロードキャストは真剣にレインの話を聞く。一生懸命順を追って話すその姿に心を和まされながら、レインの背後で交互に揺れる並木道に飾られたイルミネーションが、レインに重なるときにまた綺麗だ、と思った。

そうこうしているうちに、興奮が伝わってくるライブ会場の入口に到着した。
入口の列に並ぶ。

「ふう、着いたね!楽しみ!」

鼻を赤くして話すレインが子供のようで、可笑しかった。可愛く思えた。

『この雰囲気は好きだね!!クリスマスは最高!』

それからしばらく談笑しながら、開演を待った。
会場に入る。
暗い場内では、場内放送と、待ちきれないファンのガヤガヤとした声が響く。席につくなり、そわそわとしたレインに、ブロードキャストは微笑んで手を握った。


"merry Christmas!!"


声がするステージにスポットライトが当たって、大音量で音楽が流れ出す。見つめていたレインの横顔が一瞬で笑顔になった。

「いいね!!本当に来て良かった!ありがとうブロードキャスト!!!」

歓声の中、かき消されそうなレインの声が聞こえる。

『レイン』

本当は、知っていた。

「んー?」

手を耳に当て、顔を寄せてきたレインを見る。交互にステージを見る。

『今日は何の日か、知ってたんだ』

ブロードキャストは呟いた。

『大切な人と過ごす特別な日、だよね。だから、連れてきたかったんだ』
「えー?ごめんブロードキャスト、何て言ったのー?」

優しく微笑むレインに、たまらず笑顔を作る。

『ゴッキゲンな曲じゃないの〜って、言ったの!!!』

音量を上げたブロードキャストの声は、今度は確実に聞こえたようだった。

「うん!!」

きっと誰か違う人と過ごしたかったに違いないのに。
ブロードキャストはそう思った。


ライブ中、終始笑顔で、でも時々寂しい笑顔を浮かべながらありがとうと言って此方を見るレインに、少し罪悪感にとらわれた。

寂しく笑いかけるくらいなら、笑いかけないで欲しかった。
こちらが寂しくなった。
だけど、そうしてでも今夜は、君と過ごしたかった。









『─騒音ライブは終わったのかい?─』

ライブ会場の外で、通信機からラチェットの声が聞こえる。

『騒音?これだからわかんないやつは』
「あははっ!ラチェット、悪いんだけど誰か迎えを…」

レインが全て言い終わる前に、ラチェットが答えた。

『─ああ、そこから近い臨時基地にいるトラックスに頼んでおいたよ。気をつけて帰っておいで─』

ラチェットとの通信を終えると、レインが提案した。

「ちょっと歩かない?」
『いいね。トラックスが来るまで時間がまだ少しあるはずだしね』







脇道にそれて、静かなポプラ並木の道を歩く。

「今日、誘ってくれて本当にありがとう」

レインはあらためてブロードキャストにお礼を言った。

『なんのなんの!』

ブロードキャストは努めて明るく振る舞った。

「今日ね」

レインが、呟く。

『なんだい?』

違う人と過ごしたかった、そう言いたいのか、とブロードキャストを先を読む。出来れば聞きたくない。

「クリスマスって、大切な人と過ごす特別な日でもあるんだよ」
『そうなのかい?』

後にひけなくなったブロードキャストは、続きを促すセリフしか出てこない。

「うん。あ、もしかしたら知ってるかと思ってた、やっぱり知らなかったよね、あははっ」

レインは寂しそうに照れ笑いした。

「あー、あー…そんな日だったのに、独り占めしちゃって、ごめんね、知らなかったことをいいことに」

レインは歩きながら、言いにくそうに次の言葉を考えている。
ブロードキャストは黙っていた。

「でもそんな特別な日に、ブロードキャストが誘ってくれて、良かった。嬉しかった。自分じゃ誘えないし」

レインは言葉を選びながら話す。
ブロードキャストは話が自分の恐れている事とだんだん食い違っている事に気づき始めた。

「イブを大切な相手と過ごせるなんて、しかも、行ってみたかったライブにまで連れて行ってくれたし」

ブロードキャストの言葉を待つより先に、沈黙に勝てずレインがつっかえながら話し続ける。

「私、なんていうか、あー…」

沈黙に勝てなくなったレインの目に、涙がたまり始めた。

「な、なんとか言ってよ」

涙目で鼻を赤くしたレインを、ブロードキャストはたまらず抱き締めて、髪を撫でた。

『よしよし、いい子だ。泣きべそかいちゃう子供には、サンタクロースがプレゼントを持ってこなくなっちゃうよ?』
「こっ、子供じゃないよ!」

レインがブロードキャストの体を引き離そうとじたばたしている。

『…子供じゃん』

あははっ、と笑ってレインを見て、優しく微笑んだ。

「ブロードキャスト!」

声にならない声で悔しそうに泣いているレインを心底可愛いと思った。

『サンタクロースとは"赤い"って事ぐらいしか共通点はないけど』
「?」
『そんなプレゼントを貰えない可哀想な子供に、俺が代わりに』

ブロードキャストとレインは、ポプラの並木道の下で、初めてのキスを交わした。
冷たくなった涙も、口の中に入ってきた。

唇を離して、見つめ合う。

「なんで、サンタが赤いって知ってたの?」

顔を真っ赤にしたレインがたずねる。ブロードキャストはあっけらかんと、

『あ、俺っちクリスマスについては知ってたよ』

と言った。

「へ?」

『─お二人さん、会場に着いたが、今どこにいるんだい?─』

トラックスから通信が入る。

『あら、意外に早かったんじゃなーい?』

見つめ合ったまま、心底残念そうな表情をしたブロードキャストが、陽気に答える。

「ねえブロードキャスト、今のどういう…」

混乱したようなレインの表情にブロードキャストが笑う。



『─現在地確認っ!寒いだろレイン、すぐ行くよ─』

トラックスの通信がまた入る。

『よし、帰ろうぜえ!子供ちゃん!』
「………」
『イェーイ!!ゴッキゲーン!!』


「……………?…あ!?」

陽気にステップを踏みながら公道に向かって歩き出すブロードキャストに、取り残されたレインは、やっと状況が把握できた。

「ちょっと待って!!ひどいんじゃないのそれ!!なんでさっきなんにも…」

腹を立てて追いかけ出そうとしたレインは、ふとポプラ並木に目が止まる。

「あ…」

キスをした場所と一番近くに生えているポプラに、ヤドリギが青々とからまっていた。

レインは笑顔を抑えて、ブロードキャストを追いかける。

クリスマスは、幸せが降りてくる日。

私に舞い降りたのは、赤い体でカセットレコーダーに変形する、優しくて陽気な、サンタクロース。


(おまけ)
帰る道すがら、ライブでの音楽を再生されながら帰ったトラックスが、グロッキーなクリスマスを迎えてみんなに同情されるのは、翌日のこと。

2008/12/19
企画/Xmas 7days

アンケート7位ブロードキャストでした。一応補足ですが、クリスマスにヤドリギの下でキスすると、永遠に結ばれるという欧米の言い伝えを使わせていただきました。アンケートで票を入れてくださった皆様、ご協力ありがとうございました。