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■その男ゴキゲンにつき

☆フリーリクエスト作品☆
"ローリングストーンズのIt's Only Rock'n roll(But I Like It)な夢"です



俺っちの心の奥底
深く探ってみたらさ
想いが洪水みたいに
溢れてるんだ
それは君を
満足させられるかな

それとも全然
気にも留めないかな

こんな奴は
狂ってると思うだろ?

たぶん狂ってるのさ




リペアルームは静かだった。毎日忙しいとはいえ、時間が空く日がないわけではない。

『今日は暇だから、今からオフにしたらどうだい?』

ラチェットがメンテナンス器具を定位置にしまい込みながら、レインにそう告げた。
彼女はうっすらと額にかいた汗を不快そうに手で拭って笑った。

「うん、ありがとう」

同調したので、視線を外し作業に戻ったラチェットだったが、かさかさ小さな彼女専用のカルテを捲りながら、でも…と呟いた小さな補修員を再び見た。
カルテは、必要ないと言ったのに、彼女は毎日、しっかりと記録するのだ。

「…ちょっと心配なひとが、一名」
『ん』
「ブロードキャスト」
『どうした』

ラチェットが歩み寄って、カルテを覗き込む。あー、と唸った先輩軍医は、腕を組んで、顎をつかんだ。

『問題はないと思うけどね』
「でも気になる」
『まあ、そういうんじゃ仕方ない。探しておいで』

うん、と笑顔で頷き、リペアボックスを抱えて、外にでた。通信機のボタンを押す。

「─ブロードキャスト、聞こえ…うわっ!」

通信機が壊れるくらいの大音量だ。流れているのはもちろん、彼の好きなロックだ。

『─誰だい?今ちょーっといいところだから、またにして!』

…これがもし緊急事態の通信だったら、彼はどうするんだろう。
…本当に音楽好きなんだなあ。
そう思ったレインは微笑んだ。

「─お楽しみのとこごめんね、ちょっと心配な箇所があるの、少しだけ、見せてもらえないかな」
『─えー?だから今いいところだからまたにしてってば』

一方的に、通信を切られた。

「…………」

重たいリペアボックスをよいしょ、と持ち直し、とぼとぼと基地を歩く。
ブロードキャストは、微弱な出力信号でさえ難なくキャッチできる優秀な通信員だが、同時に地球のロックが大好きだ。
一度なんて、ライブ会場から基地に向けて生中継したことがあるそうで(それはいくらなんでも犯罪だ)、もちろん趣味の合うレインにとって、音楽を聴かない連中ばかりの場所でこんな同志を見つけられるなんて思っていなかったからうれしかった。
それ以上の気持ちはあっても、言わない。
二人で基地を抜け出して、談話室で流す音楽を探しにいったあの日の思い出は、誰にも言ってないし、そのことについてブロードキャストとも話をしたことがない。

くまなく、談話室やもちろん彼の部屋も、メインルームも探したものの、彼はいなかった。

基地は広い。
スライドドアを開けては落胆して閉める、を何度も繰り返しながら、丁寧にブロードキャストを探した。



『それで、結局バイトしたのかい?』
『そう!!俺っちの身にもなってよーって感じで』


談話室のスライドドアが開く音と同時に、アイアンハイドとブロードキャストが入ってきたのをアイセンサーがとらえたので、ラチェットは談話室でホイルジャックと話し込んでいたが、おーい、と手を挙げた。

『ブロードキャスト、直ったかい?』

いきなりそう言われたブロードキャストの表情が止まった。

『え?』

スツールを後前逆にしてやんちゃに腰掛けたブロードキャストに、ラチェットが訝しげに首を傾げた。

『レインに会っただろう?』
『いいや?』
『そんなはずはない、レインは君を探しに行ったんだよ』

ブロードキャストが停止する。

『…俺っちを?』

なんだい、どうしたのかね、と二人に尋ねてくる外野のアイアンハイドとホイルジャックに、ラチェットが答えた。

『ああ。再生装置のモジュールに不具合があっただろう?調子が悪くなかったかい?』

あ、そういえば。

ブロードキャストが気づいたようにそう呟いた。

『通信上問題ないと思ったんだが、レインは別の事で心配していたよ』
『え?』
『"好きな音楽が綺麗に再生できないから"と言っていた』
『………』
『問題ないと何度も言ったんだけどね、』

ホイルジャックが、割って入った。

『して、そのレイン君は、どこにいるのかね?』

それには、ブロードキャストが首を振った。

『え、俺っち会ってないぜ?今日は』

今度はアイアンハイドが割って入った。

『もしかしたら、まだ探してるんじゃないか?』

それに対して、もう、かれこれ二時間くらい前だ、とラチェットが呟いた。

『…嘘だろ!?』

そう言って更に、あ、と思い出したようにブロードキャストは声を洩らした。

『どないしたんやー?』

ホイルジャックの問いに、ブロードキャストはしまった、という顔をした。

『もしかしたら、あの通信は…』


─心配な箇所があるの、少しだけ、見せてもらえないかな


『……………』
『ブロードキャスト?』
『どうしたんだい?』


急いで立ち上がったブロードキャストは、談話室のスライドドアを勢いよくこじ開けた。

『俺、探してくる!!!』



手が痺れてきた。
探すのは諦めるかな。
あの部分を直せば、もっときれいに聴けると、思ったんだけどな。

基地の端で、リペアボックスをおろした。

ゆっくりと、その場に座り込む。つかれた。

「は──…」

ため息をついた後、部屋に戻るか、と立ち上がった。立ち上がってまた、ため息。

とぼとぼと歩く。

この通路の広さだけで、自分と皆との体格差を感じ、毎日、それでも皆が好きな気持ちを抑えられずに、役に立ちたい一心で、リペアをする。


─今ちょーっといいところだから、またにして!


彼らにとっては、だいたい、いわば私は、本来必要のない存在なわけで、

「は───……」

時々卑屈になるのは、ここにいる皆が自分とは違いすぎて、比べる対象が少なすぎるからだ。
でも、自分で選んだ道。
自分の道。



『うおおおお────い!!!!』


ガッシャンガッシャンと走ってくる赤い体に、そんなぼんやり感は一気に飛んだ。

「ブロードキャスト…」
『ごめんごめんごめんなさい!!!!』

うおおおお、俺っち最悪だ、わああ!!と叫んでいるブロードキャストに、たじろいだ。

「な、なにが?」
『俺っちを探してくれてたんだよな?本当にごめん!!』

大きな手をかしゃり、と組んで祈るように謝る彼に、思わず吹き出した。

「ううん、ちょっと気になったとこがあって」

ブロードキャストは、小さな補修員を見つめた。重たいリペアボックスを抱えた手のひらは真っ赤だ。
不意に、気持ちがいっぱいいっぱいにせり上がって、ブロードキャストは本気で謝った。

『もう、いつもこうなんだ!聴いてる途中はもう夢中でさ』

平謝りをするブロードキャストを、ただ微笑みながら見て頷くレインに、ますます罪悪感は募っていった。


『直して!!』
「え?」
『もう、俺っち全部、改造してよ!!』
「え!?」
『レインの命令だけを聞けるように!』
「それじゃ通信員の意味ないよ!」


あはは、と笑うレインは、何故かうるうると涙を溜めている。笑いながら。

『ああ!やっぱり傷ついたよな!?本当に、ごめん…』

ゆっくりとレインをすくい上げて、ブロードキャストはただ俯いた。


重苦しい沈黙が続いた。


「…聴きにくかったでしょ?降ろして、直すから」

ぽつりと、微笑んでそう言うレインに、ブロードキャストは顔を上げる。

座って、と言われて、かしゃり、とその場に腰掛ける。
レインはリペア器具を出して、ブロードキャストの胸部をゆっくり開いた。

リペアする音がする。それだけしか、通路には響かない。
基地の端で、レインはブロードキャストをリペアしだした。


「どうして音楽を好きになったの?みんなあんなに音楽嫌いなのに」

その苦しむ皆を思い出したのか、クスクスと笑ってそう聞いてきたレインに、あー…と記憶を掘り起こす。

『無線を受信してたらさ』
「うん」
『たまたま拾ったんだ』
「ふうん」
『音が組み合わさって、流れる、何で今まで思いつかなかったのかなって、あの時の感動は忘れられないよ』

レインはリペア箇所に目線を置いたまま、口角をあげた。

「そっか」
『みんなが言うように、聴く人によっては騒音だったりするだろうけど』
「あー、うん。文化になかったら、仕方ないかもしれないよね」
『たかがロックンロール、わかってるんだけど、でも俺っちはそれが大好きなんだ』


かちゃり、とパネルを閉じる音がする。
できた、と静かにレインが言った。

『おお、サンキュー!!』

ゴッキゲーン!!と軽やかにトランスフォームしたブロードキャストが、気取った口振りで提案する。

『お嬢さん、一曲いかがかな?』


リペア器具をボックスにしまいながら、レインは吹き出した。

「うん」
『そうこなくっちゃ』

ゆっくり音楽を聴きながら、ふふ、と笑うレインを、ブロードキャストはじっと見つめた。

『なんでレインは、』

え?と振り返る彼女の束ねた髪が、揺れた。

『なんで俺達をリペアし続けるんだ?プロールへの恩義にしちゃ、深すぎない?』

あー…、と今度はレインが考えた。それからほどなくして、あかるく微笑んだ。


「…たかがトランスフォーマー、わかってるんだけど、でも私はみんなが大好きだから」


柔らかい沈黙は、ブロードキャストの笑い声にかき消される。

『"たかが"ってなんだよ!』
「だって、心配してもしても、そんな心配よりもロックンロールを選んじゃうような相手を、毎日毎日…」
『それはごめんって!!…って、え!?心配してくれたの?』
「………」
『レイン、』
「うるさい!黙って音楽流してて!」
『レイン、ダイッスキだ!!!!』
「大きいよ声!!」


遠くの方で、みんなの声が聞こえる。


『ブロードキャスト、音量を考えろ!!』
『イェーイ!!ゴッキゲンじゃないのォーー!!』
『『「ブロードキャスト!!」』』



そう、ただの
ロックンロールさ
俺はわかってるんだ
でも大好きなんだ
俺がずっと孤独だった事が
わかるかい?
それを君は そばで聞いてくれた
ただ一人の 運命の人


●The Rolling Stones
『It's only rock'n'roll(but I like it)』よりイメージ

2009/-
銀月夜闇さまへ!