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■□天使とラブソングを

「ブロードキャストー」

走ってくる小さな補修員の声に、ブロードキャストは振り向いた。

『おー、どうしたのレイン』
「ちょっと相談があって…、聞いてくれる?」

少し言いにくそうに俯きながら、レインが尋ねる。

『なに?どうしたの?』

レインが頼み事なんて珍しい、と思い少しでも言いやすいようにブロードキャストは笑顔で聞き返した。

「談話室にカウンター作ったの、知ってるよね?」

それは、彼女のアイデアで生まれた新しいコミュニケーションの場であり、簡単にエネルギー補給の出来るカウンターのことで、そこで昼間も、そしてスリープモードに切り替えなくても大丈夫な夜にも、みんなで集まってたくさん話をする場所だった。ブロードキャストももちろんその場所が気に入っている。そしてそこで話をする彼女も、誰より大好きだ。

『ああ、もちろん。カウンターがどうかしたのか?』
「うん。みんな気に入ってくれないかもしれないんだけど、あの場所で話す時にね、音楽があれば盛り上がるんじゃないかな、と思うんだよね」

はにかみながら喋るレインを眺めながらブロードキャストは、気持ちに気づいてしまった方が負けだとよく言うけれど、俺っちには関係ない、自分の気持ちを貫くだけ、と楽観的に捉えることが出来るのも、また自身の長所だと思った。

『おぉ!!それ超ゴッキゲンな提案じゃん!!』
「でしょでしょ!!」
『で、俺に相談ってのは…』
「あ、うんその事なんだけど…、あんまり仕事の話と関係ないから言いにくいんだけど」

だんだん小声になるレインが、小さないたずらを考える時の子供のようで可笑しかった。

『なーんだい?もったいぶらず言いなって』
「うん。ブロードキャストのいつも流す音楽もカッコいいんだけどさ、ショップで試聴して何曲か曲をメモリーに入れてもらって、それをコピーしたのを談話室で流す、ってのはどうかな?」

こんないい考えないでしょ?と言わんばかりのレインにまた思わず可笑しくなって笑顔が洩れる。

『レイン、そーれ地球じゃやっちゃいけないことなんじゃないかい?CDは買わなきゃだめなんだろ?』
「あ…ま、まぁね。ただ、ここには歩くレコーダーがいるわけだから、その特性を最大限に使いたいわけよ」

ちょっとケチな考え方だけど、CDがかさばるよりいいでしょ?とレインは言う。

『なるほど。話は分かったからいいけど、いつ行くのさ?』

そう言うと、レインが後ろに回していた手を前に持ってきた。片方の手にはペンが握られている。

「ブロードキャスト、いつが非番??」

レインはペンを持っていないもう片方の手の甲を見つめ、聞いてきた。メモする準備は万端のようだ。

『え、えっと…今週は明日と…えー4日後?』
「明日…と4日後ってことは…」

レインは手の甲を丸め、ペンで書きにくそうにメモをしている。彼女が、ふだんより小さく見えた。

「じゃあ、明日行こっか。私、コンボイ司令官に外出許可願を出してくる」

忘れないでね!!と言い残して去って行ったレインを背後から呆気にとられて見つめながら、ブロードキャストは思う。

これってデートか?


うん、そう思っていいよね。


『イェーイ!ゴッキゲーン!』


その日1日、異様なテンションのブロードキャストが各所で目撃されたことは言うまでもない。









次の日へ続く。




:
事情を知っているマイスターが、ブロードキャストとレインを街まで送ってくれた。

「いってきます、副官」
『諸君の選曲を楽しみにしているよ。迎えに行くから、終わったら連絡を』
『了解!!マイスター副官!!』
『ブロードキャスト、あんまり羽目を外しすぎないように。今日は私はこの街の警備だから、何かあったらすぐに連絡を』
『ラジャー!』

走り去っていくマイスターを見送って、ラジカセからトランスフォームを解き、人間の姿になったいつもと違う出で立ちのブロードキャストがリサーチする。
レインにはその姿が新鮮に見えた。

『この先に3件あるね』
「じゃハシゴして、試聴出来るCDを片っ端からあたろっか!わーい!楽しくなってきた!!」

一件目はロック特集で、かなりブロードキャスト好みだった。ヘッドフォンをかわりばんこに当てながら、時々見つめ合って曲を吟味する。笑顔が絶えなかった。

聴いていれば自然と録音されるブロードキャストの体質は大いに役立った。

充分に試聴ボックスで堪能したあと、二件目に行く途中、レインの足が止まる。
視線の先では、店員が両手を使ってベリー類と白いバニラアイスをまぜ合わせている。ヘラの使い方が巧いね、とレインが指差してブロードキャストに語りかけた。甘い香りが漂う。

ブロードキャストは笑顔でカウンターに歩み寄り、

『2つ、ください』

と言った。レインが驚いている。

『たまには甘いものもいいね。はい』
「あ…ありがとう…」

無造作にたっぷりとアイスの乗ったコーンを片手に、いつの間にか2人は手をつないでいた。

どちらともなく。

二件目は、ヒットチャートに沿ったCDが試聴ボックスに入っていた。人気歌手の、ベストアルバム。この中でも2人の好みのものを、何曲か拝借した。


3件目に行った時に、事態が変わった。
試聴ボックスにはジャズとクラシックが入っていて、その中で真剣に選曲しているレイン達を、じっと睨むように見つめる、店員。

ヤバい、選曲してるのがバレた。
ブロードキャストは確信した。

店員に背を向けるレインは、その視線に気がついていない。

そして、店員がこちらに向かって動き出した。


ブロードキャストはレインを抱きかかえると一目散に走り出した。

突然の出来事にビックリしたレインは思わず「きゃあ!!」と叫んだ。


いくら人間にトランスフォームしているとはいえ、そこは機械の体、生身の店員が追いつくはずもなく、事なきを得た。
が、レインの提案で、しばらくこの薄暗い路地裏で様子をみることにした。

追っ手はないようだ。
ほっと胸をなで下ろす。



「危なかったね」
『気づかないんだもん。手を引いて逃げるって余裕もなかったなー』

ブロードキャストが呆れたように言う。

「ごめんね、助けてくれてありがとう…」

申し訳なさそうにレインが頭を下げた。

『いいよ』

ブロードキャストは短く答えた。

「怒ってる?ごめんなさい…」

少しレインの目が潤んでいる。


ブロードキャストは今までにない焦燥感に戸惑った。なんだ、この気持ち。

『………』
「…」


さっきまであんなに楽しかったのに。こんな計画立てなければよかった。レインは、結果迷惑をかけてしまって罪悪感にとらわれた。

ブロードキャストは、壁に手を押し付け、その腕と腕の間にレインを閉じ込めた。

「ブロードキャスト…?」

半分涙目のレインの瞳を見つめたのを最後にブロードキャストは自らの唇をレインに重ねた。

とうとう貫いてしまった。
戻れないところへ引きずり込んでしまった、と思った。

レインの息づかいが荒くなる。

そうか、人間には呼吸というのがあったんだった!
心配になり思わずその肩を引き離した。

『ごめん!レイン……ごめん…』


朦朧とした目からは涙が溢れていた。
深く傷つけたと、思った。もう口も聞いてくれなくなるだろうか。
ブロードキャストは突然現れた衝動に、なすすべなく従っただけだった。

だが、レインがとった行動は思っていたこととは逆だった。

レインはゆっくりブロードキャストに抱きついた。一度息をつき、抱きしめた腕は、強くなった。そして少し、震えていた。
ブロードキャストもそれにこたえるように、レインを抱き締めた。

『……』
「ありがとう…」
『ん?』
「帰ろうか」
『あ、あぁ…』
「また、曲探しに行こうね」
『も、もちろん!!』






:


今日も基地の談話室は、音楽で溢れている。
あの日の思い出が蘇るのは、2人だけ。
アイスクリーム、手をつないで、息が止まるくらい、キスをした。

直接リンクして耳に響いたあの歌詞。
キスの間流れていた、あの歌。
あなたは気づいてたのかな?キスの間私に流し続けて伝え続けた、あの歌を。


受け入れて
不器用なこんな僕を
笑って誤魔化すしか
能がないこんな僕
君に行けと言われたら
どんな所でも行けるよ
君を守るためなら
塵になっても構わない
受け入れて
不器用なこんな僕を
君を愛するしか
能がないこんな僕
2008/11


(どういう原理だよ!
というクレームを入れた方には凪の苦笑いをプレゼント!)