実写パラレル/美しき悪夢 | ナノ
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23.いつかの記憶

泉に行きたかった
ゆっくりと微笑むあなたの大きな手に
導かれて
そうしたら あなたを
アークへ連れていける気がして
こんな私でも
奇跡を起こせる気がした
でも、無理だったみたい
ごめんね メガトロン


Beautiful Nightmare




ここは何処だろう。
まだ生きてるのかな、それとも死んだ後の世界なのかな。人がいる。
はしゃいだ人が肩にぶつかり、嬉しそうに話しかけてくる。

「───聞いたかエイリアル!!!メガトロンが騎士団長だそうだ」

エイリアル、って誰?私はレイラなのに。

「村で一番出生したな!!!」

村?

ダイオン

ダイオン、と口からでたその人の名前に自分でびっくりした。

「あんまり嬉しそうじゃないなあ、エイリアル」

だって、ここがどこかもわからない。なにを喜べばいいんだろう。

…だって
「大丈夫大丈夫、帰ってくるさ。あーうらやましい!俺も腕っ節が強かったら王都に行くのになあ」

思わずその言葉に微笑む。だってこの人ひょろひょろしている。
この人、ダイオン。
誰だっけ、ああそうだ、オライオンの友達。仲良しだった。小さな時からオライオンの後をついて行ってたっけ。


───あ、今度はどこだろう

耳をつんざくような爆発音がする。

「逃げろ────!!」

マシンガンの音、なにかに当たって何かが崩れる音。

「エイリアル、ここにいろよ!絶対に出てきちゃだめだ」

小さく聞こえたダイオンの声と、走り出した音。息を殺した。

「プライマスから力を得た娘を出せ」
「誰だおまえら!!エイリアルは─…エイリアルは俺がまも…」

銃声と共に、ダイオンの声が聞こえなくなった。
ダイオン、どうしたの、ダイオン…
声を出せない。
涙が溢れてくる。
焼けたにおい、金色の髪の青年が、天井からそっと私を見ている。
頭を撃たれると思ったのに、金色の髪の人はそうしなかった。
あれ、この人、私を助けようとしてる?
大きな青い目になぜか見覚えがある。

「おいらについてきて、助けてあげる」

小屋の裏から出してくれた黄色の髪の人は、周りに人がいないことを確認して、跪いた。

「センチネル・プライムの命で参りました。王国騎士団員バンブルビー、あなたを王都へ連れて行きます」

外はすでに火の海だった。村は焼けていた。人の声はしなかった。変わりに黒こげになった人の形を残した遺体が散乱していた。涙が溢れると同時に、人の焼けたにおいに思わずむせかえる。

「やったのはおいらじゃなくて、暗黒騎士団の奴等さ」

酷い…惨すぎる…


─また場面が切り替わる。この青い髪の人は、オライオンだ。知ってる、この人も。この人よく知ってる。

オライオン、いつも手紙をありがとう

ゆっくり微笑むオライオンは、どこか悲しげで、とうとう決心したように言う。

エイリアル、メガトロンは…

え?

遠征中に、黒の風に取り込まれた

─騎士団は前線で戦うんでしょう?
あなたとオライオンに
もしものことがあったら、私…

─俺達に"もしも"があると思うか?
殺されたって死なん気がするがな

─どうして、
他の人でもいいのに、
どうしてあなたとオライオンが行く必要が

─こんな黒の風も吹かん安住の地で
くすぶっているのには
忍びなくてな


─ずっと、
─?
─ずっと一緒にいられたらいいのに
─お前はそれしか言わんな…
─だって…
この地だからお前を残せて行けるのだ。
黒の風も滅多に吹かん此処で、お前は安心して俺達の帰りを待っていろ

─必ず、戦争が終わったらここに帰ってきてね
─ああ、名をあげたその時には…一緒になるか、俺と
──、
──いや、お前のような弱虫は御免だな。お前にはオライオンがいい。似たもの夫婦だ、ふん
─メ、メガトロン、私、私は、

あなたがいい。

──だがそれも見ていて腹が立つな、やっぱり俺のものになれ


…だが、君は私が守る

真面目なオライオンはいつも他人のことを先に考える。泣いている私を抱き締める温かい腕の中は、村にいた時の何倍も逞しくなっていて、話し方まで変わって、大人になった。自分だって悲しいくせに、絶対に人には見せない。だからみんなから必要とされるオライオン。なんでいつもそんなに優しいの、悲しい時は一緒に泣けばいいのに。

う…いやあ!
…抱き締めるのが、私ですまない

そんなこと言ってない!
オライオンだって悲しいはずなのに…

だが私が守る、たとえ命に代えても

命なんてかけないで

そんなこといわないで…!!あなたまで失ったら、私はどこに行ったらいいの

村は私のせいで焼けてしまって
帰る場所はなくなったのに


あてがわれた部屋から見える、窓の外に広がった城下町。バザーはたたみ出し、たそがれの時間の風景は、仕事を終えた人々が満たされた笑顔で家路を急ぐ。その向こうの山々に飲み込まれる、空に溶かされた朱色の夕日を見るのが、王都に来てからの唯一の慰めだった。いつまでここにいていいのだろう。

エイリアル

穏やかな低い声は背後で控えめに耳に届く。振り返った先にいたのは、幼なじみだった。
オプティマス?
違う、オライオン。
オプティマスって誰かな。とても懐かしい名前。

今夜も大聖堂に?

取り繕った笑顔で頷けば、取り繕った笑顔を返される。まるで鏡を見ている気分になる。きっと私は、いまこんな風に笑ってるんだろう。

では共に行こう

メガトロンに会えなくなって十年、十年目で王都へ来て、ほんの少し期待していた彼との再会は、叶えられないまま終わった。

ありがとう、オライオン

私は祈る。いつか世界の役に立てる日がくるのかな。
大聖堂の天井は、村の教会の天井よりも遠くて、ちっぽけな私がいくら祈っても、天まで届きそうになかった。
ああプライマス、プライマスはなぜ、私にこの力をお与えに?
本当に私は、この力を使うことができるのでしょうか?
なにより、なぜプライマスはあの人を、なぜあの人を護っては下さらなかったのですか?
騎士の命というものは、かくも軽いと仰るのですか?
黒の風を浴びたメガトロン、熱くて苦しんだだろうか。凍りついて苦しんだだろうか。どんな苦しみだったのだろう。
ああ、せめて声が聞きたい。
夢だけでもいい。
もう一度、嘘でもいいから、帰ってきて、一緒になるかと、いってほしい。
あの言葉を支えに、生きてきたのに。







「…サイバトロン層の被害者が増えているらしい…」
「…また殺されたよ…」

話し声はガーデンから聞こえた。城下町から上層部に向かって、大きな無差別連続殺人が起きているという噂は、何度か聞いた。そばに立つ槍使いの護衛と、視線がぶつかった。黒い髪に、細い腰。小柄ながらしなやかな筋肉が程よくついたその体は、常に自分の体を気遣ってコントロールした賜物だといつも言う。

マイスター、"サイバトロン"とは何ですか?
「サイバトロンは、プライマスに力をいただいた種の方々の総称。王都ではそう呼ぶのが一般的だ」

些か苛立ったようなアクアブルーの瞳に、頭を下げた。

すみません、無知で…
「誰であろうと最初は無知さ」

慌てて繕うわけでもなく、静かにそう答えられ、いくらか安堵した。沈黙がゆっくり流れる。

マイスターは策の力、でしたよね

オライオンから聞きました、と続けると、ああ、という返事がくる。

「どちらかといえばボディではなくブレインだ。分析能力が足りん奴らが死に急がんために、俺がいる」

ニヤリ、と口角を上げたこの護衛に、思わず笑った。ものすごい自信だ。笑っていると、穏やかに言葉が続いた。

「俺ももとは平民だったんだ。バンブルビーも」

かぶりをあげる。

「バンブルビーと一緒に、金持ちのサイバトロンからめぼしいものを盗んでまわった。そしてそれを他の国で売り、金にし、高い税金に苦しんでる家に配ってまわった」

思わず驚く。義賊とはいえ、盗みを働いていた者が騎士になれるのかと、目を白黒させていると、言葉はなお続いた。

「力なんてなくても、世の中の役に立てると信じていたし、プライマスを信じていなかった」

こういう人もいるのだなあ、と、ただただ頷く事しかできなかった。

「だが、黒の風に吹かれ死にかけた時、あるサイバトロンに助けられたんだ。そいつはバリア能力を持っていて、俺とバンブルビーを取り巻く黒の風を、その力で守ってくれたんだ」

へえ、と頷くとすぐに、マイスターの表情が曇った。

「トレイルブレイカーっていうおっさんなんだが、結局その時、力を使い切り死んじまった」
え…
「死体を見た後気づいた。このサイバトロンから俺は色んなもん盗んでた。俺達が生きていられるのは、こうやって誰かが俺達を守ってくれてるからだってな」

夕日が山に飲まれ、空が紫色に染まる。

それで、騎士団に?
「助けられたこの命、使い方を間違えたくなくてな」
…使い方、か…私も知りたい

力も、命も、使い切る勇気、私にあるのだろうか。

─その力は一度しか使えません。発動するともう解き放たれた魂を元に戻すことはできない。それを覚えておきなさい

プライマスの口調は、羽根のように軽やかなのに、その言葉は鉛より重い。
そんな度量が自分にあるのか。

「プライマスが究極の力っていうんだから究極なんだろう」

マイスターは頷いて微笑む。

「お前は、じゃあなぜ戦えないんだと思っているかもしれんが、その力が戦う力ではないということは、この世の終わりに必要なのは戦いじゃないってことだろう」

夜の風が、窓から入ってくる。

「俺たちは戦う力しか得ていない。だから世界に必要なお前を、戦いながら護るんだ。それだけだ」