実写/オプティマス | ナノ
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Confiance

再会

輸送機から降り、ビークルモードのままオートボットの訓練施設へ向かった。擬態をときハンガードアをくぐった瞬間、オートボットが人間の友人たちに訓練をつけている向こう側に、小さなユマを見た。焦点を合わせて拡大すると、ユマはアイアンハイドを見上げ、涙を溜めていた。情報を処理する機構に一瞬の遅れが生じた。最後に会った時と比べ、いくらか頬が痩けたように感じる。アイアンハイドがこちらに気づき、何かを言うと───、ユマは勢いよくこちらを向き、溜まっていた涙が弾けた。視線がぶつかり、何秒か動けなかった。

───最後に残った民間人、つまりユマは、明朝身柄を解放する、人間の政府はそう決定した。我々が人類と関わることに対しては、今まで通りの許可を得ることができた。
”名もなき騎士の反乱”は、謎の部分を残したままではあったものの、人間の政府に対し説明するには十分の情報と引き換えに、とりあえずの収束を得た。
明日ディエゴガルシアへ帰還する予定だったが、新たな任務が入る前に何としてでもユマの顔を見ておきたかったので、今日中の帰還を希望する旨を伝えた。希望は、貨物輸送機に空きが出て、あっさりと受け入れられた。幸運だった。
輸送機の中では、ジャズから転送されてきたデータを読み込んでいた。

──これはオプティマスが持っておくべきだよな
──これは何だ
──開けば分かる、”名もなき騎士の反乱”のファイルから、引っこ抜いておいた


ディエゴガルシアに着くまでの間、静かにそれを己の中で開いていた。
───その中では、ユマの精神が、幾多の星のような世界から解放され飛び交い、光速でどこか狭いところに入り込み、細胞が列をなし、小さな小さな生命体になったところから始まった。母体を傷つけ、己を傷つけながら、ユマは肺に酸素を取り込む。己が産まれ解き放たれたという衝撃に泣き叫んでいる。抱きとめられる温もり、涎を垂らし成長の為に食事をすることを覚える。夏の日差しを浴び、おぼつかぬ未熟な足で地球の土の柔らかさを知り、それを喜んだ。波打ち際に燥ぎ、月を見上げ青空を仰ぎ木々や花を眺め、美しいものを覚えた。物語を読み心を養い、その手で己の荷物を持ち、周りの人間達に溶け込み、学び、思春期を迎え、人間の男性に青い恋をする。弾けるような激情、喜び、悲しみや嫉妬、怒り、後悔、慈しみ、全て。まだまだ人生の途中である彼女を取り巻いてきた、生涯の全てがそこにはあった。彼女自身も忘れていること、彼女自身も知らぬこと、それが入っていた。人間それぞれにこの物語がある。これを奇跡と呼ばずして、何と呼ぶのだろうか。それは、オールスパークと同等の価値がある。少なくとも、自分にとっては。
…そして、私の名が光る携帯電話、青白い指輪、大きなファイアパターンと、眩しいヘッドライト、握ったハンドル、私の声、たくさんの記録が流れてきた。
これは、今を生きる彼女の私に対する記憶。このデータが一番多かった。こんな尊い生命の世界に、私は、住んでいるのか…
そう思ったところでファイルは終了を知らせた。

───顔をくしゃくしゃにしたユマは、足早に向かってくる。目線を合わせるために、しゃがみ込み準備した。
私の自由が、走ってくる。





思わず走り出していた。オプティマスがいる。とにかく会って謝りたかった。どこから説明したらいいのか、何から伝えたらいいのか、どうすればいいのか、走りながらそれを整理しているつもりの頭の中。
ああ、走るとでも頭に響く。
頭痛が怖くなり早歩きに切り替えた。
オートボットの視線を感じた。訓練中の兵士の視線も感じた。しかし形振り構わずオプティマスへ向かった。オプティマスがこっちを見て、しゃがみ込んだ。膝を折り、…目線を合わせてくれるときにしてくれる仕草。それだけで頭が弾け飛びそうになるくらいいろいろな言葉に出来ない気持ちが溢れそうになって、代わりに涙が溢れた。走りながら思わず腕を口にあてて、う、と洩らした。ほっといたら、すごい大声で泣いてしまいそうだったから。
オプティマスの目の前で立ち止まると、感情が制御できなくて息が切れそうになった。

「…オプティマス…!」

やっとの思いで名前を呼ぶと、オプティマスの青白く発光するカメラアイが思慮深く左右に動いた。

『…間に合ってよかった。話がしたい』

息を整えながら2、3度頷くと、オプティマスはゆっくりと時間をかけてビークルモードへ変形していった。その躍動感に思わず後ずさる。ピータービルトのトラックに偽装したオプティマスが、運転席のドアを勢いよく開けた。

『乗ってくれ』

飽和した涙を一度拭って、久しぶりに足をかける。つかまり、勢いをつけて乗り込む。やっぱりビークルモードでも、オプティマスは背が高い。

『───オートボット、言い訳を頼む』

エンジンのかかったオプティマスを見つめて呆気に取られたようなオートボットたちの後ろで、アイアンハイドが片手を挙げた。アイアンハイドがそうするだけで安心する。トラックのオプティマスは、ゆっくりとハンガードアの外まで後退すると、基地の出口の方向へ走り始めた。


2014/10/23