実写/オプティマス | ナノ
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Confiance

生きる、星

『瓦礫が多いな。足元に気をつけろ』

ラチェットの声に皆が頷いた。
先頭を切ったバンブルビーが辺りを見回し、腕を武器に変えた。レノックスのチームは衛生兵を多めに含めた部隊で編成し、オプティマスの援護より先にサム達の救助に向かった。最初にプリテンダーが襲ってきた場所は要人向けのレセプションルームである。何もかもが外側から吹き飛んでいた。基地を形作っていた基礎がむき出しになり、張り巡らされていたのであろう床下に埋め込まれたケーブルがむき出しショートしていたり、千切れたりしていた。
まだ塵の舞う現場を、臨戦態勢で警戒しながらじりじりと辺りを見回しながら歩く。
横を歩くラチェットが悠々と通れるほどの風穴である。人間用に設えた施設だったが原型はない。エップスの所在を頼りに進んで行くと、進行方向から声が聞こえた。

「…おーい!」

サムの声だ。バンブルビーが小さく安堵したような電子音をあげた。

「サム!無事か!」

レノックスがそう叫んだのと同時に、部隊はエップスの顔も確認した。

「ああ、助かった!おい!ラチェットいるか!早くサイドスワイプを見てやってくれ!」

横たわるマギーとミカエラも、負傷してはいるが意識はあるようだ。素早く衛生兵が全員に駆け寄り安否を確かめる。レノックスはマギーの身体をゆっくりと起こした。

「…立てるか?」
「ええ、もう、大丈夫…」
「何が目的かは調べられたのか?」

マギーは苦しげに目を瞑った。

「それはわからないけど…、大統領がチームを作っていたのは本当の話よ。多分、本物のチームの人間は途中で殺されて入れ替わったんでしょうね。質疑も決められていたのよ。本来は武器の強化に対する交渉が主な目的だった。だけど、今は…」
「大丈夫か?あとで聞く」
「研究施設にはまだ人型の敵がいるはずよ、」
「その施設は別の部隊が封鎖しに行った」

目を瞑ったまま苦しそうに頷きふらついたマギーを衛生兵が抱える。

「あいつ…ユマに熱心に纏わり付いてたわ」
「……目的を持ってユマを捕虜にしたってことか?」
「…分からない、でも…無事だといいんだけど」





思わず目を瞑ったが、こめかみに続いて額にも硬く冷たい鋭利な感覚がした。なにかを突き立てられている。少しでも動くと、頭の中にそれが突き刺さりそうだと思った。その事がとてつもなく怖くて、思わず目を開けた。わけがわからず死ぬより、どのような道理で自分が死に至るのかは最終的には知っておきたいという本能がそうさせたように思う。
たしかに額に当たっているのは鋭利なものだった。目の前のいびつなトランスフォーマーの目は、濁ったブルーだった。

『動くなよ、脳に傷など付けると…厄介だからな』
「!」

怖くて声も出ない。
どうしたらいいのか分からない、頭の中がパニックだ。
逃げたいのに動けない、オプティマスは来てくれるんだろうか、ここがわかるのかな、携帯のGPSを辿って探してほしい、お願いだか
「───、がぁ…」
何度も意識が飛ぶ。───視界に青だか紫の色が入る。まるで眼球に色の付いたフィルターをかけられたかのようだった。ばちばちと頭の中が迸り、痺れを感じた。数秒前に考えていたことが抜け落ちる。そのことに脳が追いつかない。何をされているのか分からない、痛いとも違うし、ひたすらに気持ち悪い。頭の中に電流のような違うような微弱な振動と、体の中や頭の中に何か体外からの圧力がかかっているのを感じた。口の中も、車の油の匂いがした。

『…なぜ…』
『───ユマ!!』

目の前のトランスフォーマーの声と、誰かが名前を呼ぶ声が重なった気がした。オプティマスの声が今聞こえた気がした。考えられない頭の中でそれを思うと同時に、爆発音のような轟音が聞こえ、バラバラと小さな石が落ちてきた。
室内に光が射し込むのが分かった。とてもあたたかい、太陽の光だった。圧力と拘束から逃れ、身軽になった途端に吐き気に襲われた。

「う、う…」

見上げる余裕はなかったが、誰が来たのかは分かった。嗚咽が間に合わず嘔吐しながら、視界に赤と青の塗装がされたとても大きな足が見えた。地面がオプティマスの重みでひび割れ、そして目の前にいた濁った光を放つオプティマスよりもはるかに小さなトランスフォーマーは、軽々しく宙を舞った。

『───来たな、星の恥が!』





欠片の保管庫は、厳重に管理されている。外からの干渉を遮断する頑丈な外壁材を使っている。しかし破壊をせずに助ける事はできないと判断し、上向きに銃を向け建物の上部に穴を開けた。中を確認すると、見たことがないプリテンダーがユマを捕らえていた。
私を確認したプリテンダーは、まるで遊び飽きたようにユマを離し、こちら目掛けて素早く飛びつき撃ち込んできたが、その弾は間一髪カメラアイの横を通り過ぎて行った。弾は通り過ぎて行った先の壁にあたり液体に変わり、そこを溶かし蒸発させた。サイドスワイプを撃った弾もこれだと判断した。ユマは足元で拘束の負荷に耐えられなかったのか嘔吐していた。

『ユマ、逃げろ!』

必死に声をかけたが顔の周りを素早く動くプリテンダーに視界を取られる。サイバトロンの言葉で勢い良く怒声を放ったプリテンダーは、私の右のカメラアイの奥に繋がる神経回路を的確にサーベルで切った。驚いたのと、右の視界がなくなったので、思わずよろけた。


『なぜ…!なぜいつもこんな無意味なものに拘る、貴様は!オプティマス!』
『……お前は…』
『この人間に何がある?』
『お前は誰だ!』
『貴様こそ誰だ!プライムの資格などないくせに!』
『!?』
『センチネルの無念を晴らす時が来たのだ!!』

驚愕した。とても懐かしい響き。先代のプライムの名だ。

『…師事していたのは貴様だけだと思っていたのか!』
『……!?』
『種族の違う私に命のあり方を教えてくれたのはセンチネル・プライムだ、貴様はプライムを名乗る資格などない!』
『お前は…一体…』

ユマが吐ききり、よろけながら走り出したのを守る為に掴もうとしたが、腕を撃たれた。普段なら避けられる。しかし、…
私は今とても動揺している。

『この人間には何もなかった!何もない!何もないんだ!!!』
『ユマに、…ッ、何をした!?』

強力なワイヤーで首を巻かれる。思わず唸り、名乗らぬプリテンダーの身体を掴もうと試みたが失敗した。視界が定まらない。まさかこんな劣勢をしいられるとは誤算だった。

『目的は…、なんだ』
『仲間を増やし、別の惑星で新たなサイバトロンを作る。あの輝く白銀を取り戻す為に…、あの方の為に!この…この欠片で!』
『これはこの星との絆の証だ!』
『星を棄てた者が持つ叡智ではない!』

右へ左へ高速で飛び回るプリテンダーの名前を知らないのだ、私は。

『知らないよなぁ、俺の名前なんぞ』
『……』
『星の方式がそうさせた、貴様のせいじゃないだろう、しかしなぁ』

ユマが震えている。震えてこちらを見上げている。それが痛々しい。撃つのは簡単だ、しかし私は答えが知りたかった。この小さなトランスフォーマーの目的が知りたかった。

『公算が欲しかった!プライムの系統など糞食らえだ、何故野心は報われない!?何故───、貴様はここで何をしている!?こんな虫ケラと手を組み───、何をしている!?』
『戦っている、守る為に』
『何を!何をだ!』

プリテンダーは強化ガラスを突き破り、欠片を掴んだ。照準を合わせられなくなった。撃ってしまえば欠片諸共消える。

『なんにも…ない、希望もない、ここは、…ただの、炭素生命体の蔓延する未熟な星だ』
『……』

なぜか今、宇宙で宛てなくオールスパークを見つける旅をしていた時のことが記録回路から流れて来た。皆で希望を、探していた。
皆で光を探し続けた日々。
それを思い出していた。

『何故…何故貴様がプライムに!?なぜ星を棄てた貴様が選ばれた?』

サイバトロン語で発したその言葉は、心底苦しそうな声。

『貴様がアークに乗れば良かったのだ…!』

怒りと悲しみがないまぜになりほとばしった。

『貴様が、アークに!乗れば!よかったのだ!!』

いつか誰かに、そう言われるのではないかと思っていた。

『貴様らに未来などない…貴様らがいくら手を組み足掻こうと、この宇宙のどこにも!!生きていく場所などない!!』

プリテンダーが私に照準を合わせた。

「───オプティマス!」
『!』

プリテンダーを引っ掴む。ユマが無知ゆえの純粋な眼差しで私を見ている。彼女の瞳の中に映る私だけが、

『守るものが出来た、この星が、』

本当の私だ。
プリテンダーを力任せに握りつぶした。

『───私の生きる場所だ』

手の中でバラバラになったプリテンダーの名前は、最後まで分からなかった。





オプティマスが小さなトランスフォーマーを殺すまで、かなり時間をかけたようにみえた。なにかを激しく言いあったりしていたのは分かったが、会話の半分も分からなかった。なにを言っているのかも。サイバトロンの言葉だったのか、どうなのか。
頭が割れるように痛く、とても気持ち悪かったので、それを考える余裕すらなく、ただ行く末を見ているしかなかった。
ただ、小さなトランスフォーマーが言葉を強く発している間、オプティマスは元気がなかったように感じた。
小さなトランスフォーマーがバラバラになって、鉄屑が頭上から降り注いだ。オプティマスが見下ろしている。青くて、透き通った光の目が好きだ。

『怪我はないか、ユマ』

さっき握りつぶした小さなトランスフォーマーの身体を放り投げた大きな銀色の手が、ゆっくりと差し伸べられる。
身体を掴まれた。

「…オプティマス…」

オプティマスが発光する瞳と瞳の間に身体を近づけた。
彼の大きな頭部でいう、額に身体があたった。

『無事でよかった、本当に…』

心底安堵したようなその声に、無意識に泣いていた。そうしていると、とても眠くなった。眠いというより、感覚が遠のく感じだった。とても疲れた。オプティマスの手の中で、ぷっつりと意識が切れた。

2014/09/26