実写/オプティマス | ナノ
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Confiance

目を開けたら命がありますように

レノックスは基地内で出撃するということにどうしても違和感を拭えないまま、しかし冷静になることに重きを置いていた。いつもこの厄介な問題と直面する時、いつでも平常心で物事を考えられるように、(想定内だ。すべて想定内)と思う事にしている。しかし…、今回はやはり何かが変だ。なぜ今まで内部にディセプティコンがいる事に誰も気がつかなかった?オートボットは体にたくさんの武器を付属させてはいるが、平和主義で冷静な奴らだ。そんなオートボットたちが、どうして敵が潜んでいるのを見抜けなかったのか。彼らが少なからず技術を提供してくれたディセプティコン反応をかならずキャッチする探知機が、なぜこんな近くで作動しなかったのか。オートボットに関わる戦う術を持たない民間人の招集は、もちろん私情が混じるから彼らが冷静さを欠くには充分な理由だが、それにしてはこの最高峰のセキュリティで、なぜ潜んでいるディセプティコンを見つけられなかったのかが本当に疑問だった。
頭のなかで通信していたのであろうオプティマスが急に、何処だ!と、叫んだ。しばらくカメラアイだけを思慮深く左右に動かして、今助けに行くから動くな!とも言った。あの冷静なオプティマスが。はっきり言って、…くどいが、"あの"オプティマスが、だ。事態はそんなに深刻なのか?だいたい、誰と交信してるんだ?サイドスワイプか?まったく自分には関係ない出来事にもかかわらず、冷静さを失いつつあった遠い異星の司令官に親近感がわいた。とりあえずその親近感は置いておくとして。大丈夫だ、全部想定内。問題に取り組むまえにそうワンクッション置けば、直下型の自分の価値観や性格をひっくり返すことができる。それが冷静さを生むのだ。自分が今死んでもおかしくない。その覚悟も冷静さを生む。いつもそう思うようにしている。…死にたくはないが。

「少佐!」

武器を揃えている間、エップスとの通信を試みていた隊員がモニターを見ながら名前を呼んでいる。モニターの映像は固定のワールドマップだが、参謀本部との通信は遮断されている。奴らお得意の妨害電波だろう。しかし、そのモニターからは長年連れ添った部下の声が拾われてくる。エップスは無線の向こうで構わず喋り続けている。聞こえるか、聞こえているか、と何度も。思わず身を乗り出した。

「エップス!無事か!」
「───民間人が…捕虜…なった、一人…ユマだ!しかも…ターゲッ…は大統…が派遣したとかいう…あいつだ!あいつがエイ…アンだった!」

途切れ途切れのエップスの報告に、すぐに返事が出来なかった。愕然としたのだ。目の横で汗が伝ったのを感じた。いくらか通信状況がよくなった。

「…なに?なんだ?」
「───しかも武器が違った!あんなの見たことねえ!」
「?…どんな武器だ!」
「───わからねえが…、サイドスワイプの片腕が溶けかけてる」

ちょっと頭を整理したい。もちろん先日の事件は映像で見たし、よく覚えている。高度な技術をもったメタルのエイリアンに対して敬意がこめられていない、と奴らには言われるかもしれないが、あの映像の中のトランスフォーマーは小型で、人の大きさくらいしかなかった。そして、使っていた武器もオートボットの主力メンバーが使うような、大きくて高度な破壊力のあるものではない。あの時のプリテンダーとはレベルが違うということか?

「───逃げた方向からして、奴らカケラの保管庫に向かってる!こっちも負傷しててすぐに助けに行けない!至急応援を頼みます!」

だいたい把握できた。さっきオプティマスが交信してたのはユマだったのか。敵はあのバナチェックとかいう男と、それを取り巻いていた…あの全員がディセプティコンなのか?なぜオプティマス達は気づかなかった?

「了解、今オートボットがそっちに向かってる」
「───何事だ!レノックス!報告しろ」

エップスと話す傍ら、参謀本部との回線が一時的に復旧し、今度はモーシャワー将軍の年季の入った怒声がひびいた。つとめて冷静に答える。全てを把握している"ふり"をするのには慣れた。現場の自分達が取り乱しては全てが狂うという事を、毎回身を持って勉強している。ハッタリでいいのだ。

「基地の内部で襲撃です、報告では、民間人の負傷者がでています、先だってオートボットのリーダーが向かいました。我々も続きます」
「───ちょっと待て、オートボットだと?」
「申し訳ありません、許可をいただく時間がありませんでした、捕虜になった民間人の命がかかっています」
「───なぜそんな事になった?大統領が派遣したチームはどうなってる」
「…報告ではその大統領が派遣したチームの人間が…、"変形"したと」

モニターの中にいる将軍は一瞬だけ眉を顰め制止した時間があったが、仕方なさそうに二度ほど小さく頷いた。

「───…ではNEST部隊出動、オートボットの援護を許可する。何かあった後の責任は…、私が取ろう」
「…感謝します、将軍」

なぜ、を考えていったり、突き詰めていくものが多いというのはとても難儀だ。分からないことがその先の不安を肥大させるからよけいに。しかし、知らない方が勇気を出せる事もある。分からないことだらけの相手をシガニー・ウィーバーみたいに生き残りながら倒していくには、逆に余計な知識が足を引っ張る時もあるのだ。
しかし納得いかないまま倒してしまうのは腑に落ちない。同じモニターを覗き込んでいる隊員の肩を軽く叩いた。

「負傷者の中に、マドセンという女性がもしいたら…、いや、いると思う。ここに運ばれてきたら、話を聞きたいと伝えてくれ。いいな?」

分かりました少佐、という返事を最後まで聞かないまま走り出した。





「…う、…」

ゆっくり目を開けた。青くて黒くて、暗くて、ちょっとカビ臭い。ここはどこだろう?

『気づいたか』

ぼやけた視界がはっきりしてきた時、目の前には銀色で邪悪な生命体が立っていた。自分の持っているトランスフォーマーのイメージからすればずいぶん小柄の。声はバナチェックだ。とはいえ、声の記憶なんてあてにならない。立ち上がって逃げようとしてはっとした。体が固定されている。容赦なく銃を向けられた。銃を向けられる事自体生まれて初めてだ。

『用が済めばすぐにウチに返すから』

化けの皮が剥がれても、変わらず穏やかに話す男だ。

『…プライムにも』
「……」
『原型を留めて返せるかは、お前次第だ』

頭が痛い。それから寒い。とても怖かった。

「だ、誰…」
『誰、だと?お前に教える必要があるか?』

エフェクトのかかった声は、人間の姿を形どった時よりもずっと低い。腕の付け根から金属で出来たたくさんのコードが目の前をゆらゆらしている。まるで生きているかのように、メデューサの蛇の髪のように、ひとつひとつが意思を持って動いているように見える。話を続けないと死んでしまうような気がした。何かされて死んでしまうと。

「目的は…」

聞いても絶対にわからない。それはわかっているんだけど、話を続けないと死んでしまう。この気持ち悪い金属の蛇に締め付けられて。なんとかこのエイリアンの気が変わる事を願った。

『…それを理解する力はお前にはない』

早く誰かに助けてもらいたい。そう思った時視線を別の場所へ移し、鋭利な金属の指でそちらを示した。ゆっくり振り返ると、そこにはたくさんの象形文字のような模様が描かれた燻した鉄のような質感のいびつなかたまりが、博物館に保管されている貴重な歴史の遺物のような扱いで、保存容器に入れられていた。不思議なのは、そのかたまりが容器の中で浮いている事だ。このかたまり自体に不思議な力があるように見える。それは素人目にもわかる。これが、オールスパークの…欠片だろうか。

『我々の星の大いなる遺産、…叡智の塊だ』

ゆっくりと歩み寄ったエイリアンは、欠片を囲った強化ガラスに丁寧にふれた。愛しそうに。

『複数の次元が混在するこの銀河で、これ程までに完成された存在はない』

少しずつ、エイリアンと距離を取っていく。出口に行きたい。逃げる方法を考えていた。話はそっちのけだ。しかし聞いているふりをしなければ。

「…でも…、あなた達ディセプティコンは、それを独裁の道具にしようとしてる」

エイリアンは強化ガラスにすり寄せていた体を起こし、こちらを睨みつけた。

『ディセプティコン?あの野蛮な欺瞞の衆と一緒にするな』

どういうこと?彼らは…ディセプティコンではない?

「じゃあ、あなた達は、オートボッ…」
『あの偽善者達と一緒にされるのはもっと忌々しいな。我々はどこにも属さない。もう星は捨てた。低俗な闘いに毒されたあの惨めな星は、我々の問題じゃない』
「……」
『もっと重要なことがある』

わからない。全然わからない。オートボットでもディセプティコンでもないトランスフォーマーがいるの?それ以前に、このエイリアンは、何がしたいんだろう。

「こ、これが欲しいだけ?この、欠片を…」

エイリアンは何度かその淡いブルーの目を瞬いて、それから遠くを見た。

『ああ。欲しいな。この中に詰まった膨大な量の奇跡を。…しかし箱だけ手に入れても、中身が取り出せない。鍵がいる』
「?」
『だから待っている、お前の一番大切な者を』

オプティマス?
オプティマスを、おびき出そうとしてる?これは…

『待つ間に、お前の中にある素晴らしい遺産を抽出したい』
「───……え?」

メデューサの髪のようなコードの先が、蠍の尾のように危険に反り上がった。左右からこめかみめがけて突き立てられる。
頭の中が真っ白になり、わずかに金属特有の重たさを持つ鋭利な感触に、ぎゅっと瞳を閉じた。

2011/10/03