Reason
ツインズ・パワー!
石切り場のレオやシモンズ、そして双子のオートボットにも脅威は続いていた。何がなんでも、このデバステーターはここにある何もかもを吸い込みたいらしい。
レオは頭上で車が飛んでいくという場面を、おそらく人生で初めて経験した。しかし、それを味わう余裕はない。これこそ超リアルスクープだ。もういやだ、ごめんなさい。風向きの変わり目に、ようやく一番大きな建物の階段の手すりに(といっても、もうもはや骨組みだけしか残っていないが)しがみつく。人間よりも頑丈な双子のオートボットにとっても、もう深刻な問題になっていた。スキッズも骨組みにしがみつく。しかし、マッドフラップはつかみ損ねた。思わずスキッズの頭にしがみつく。
『つかまってろ、頑張れ』
ものすごい吸引力だ。手がちぎれそうだ。シモンズの手が離れた。
「シモンズ!」
慌ててレオがシモンズを掴み、間一髪吸い込まれないままですんだ。しかしマッドフラップには限界がきてしまった。
『おわっ!!』
スキッズから手が離れると、
『ぎゃっ!!』
何回かバウンドし、
『うおぷっ!!』
地面から浮き上がる。
『死にたくない!!死にたくないよお!!』
しかしデバステーターの巨大な口にまっすぐに吸い込まれつつあるマッドフラップは、覚悟を決めた。
『カンフー・グリップだ!オレの生き様見せてやる!!』
おいしくいただきました、といわんばかりにデバステーターの口が閉じられた。風が弱くなる。
スキッズが途方にくれた。悲しげな電子音。
『…食われちまった…』
あーんとめそめそ泣き出したスキッズに、シモンズが叫んだ。戦況をなんとか打開せねば。もう第二波が来ようとしている。
「真下だ!あいつの真下が一番安全だ!走れ!!」
二人と一体は走り出した。風が強まる前に全速力で。そうしていたら、何を思ったのか、デバステーターが立ち止まった。
しかもよくよく耳を澄ますと、バゴン、バゴンと内側から音がする。その瞬間、デバステーターの右目が内側から吹き飛び、中からピンピンしたマッドフラップが飛び出した。
『よくも俺を食いやがったな!もう勘弁してやらねえ!』
マッドフラップはその小さな体を存分に活かし、右から左からくるくる動いて機関砲を至近距離から何発もぶち込んだ。
『顔をグッチャグチャにしてやる!』
『その調子だマッドフラップ──!』
スキッズは心底嬉しかった。連携技はオートボットでは右にでるものはいない。何故ならふたりは二体でひとつだから。
スキッズがデバステーターの足から這い上がり、マッドフラップへケーブルの先端を飛ばす。
マッドフラップはそれをつかみ、ターザンよろしくデバステーターを軽々しく横切りながら攻撃した。
『イ──ハァァァァ!!』
『ツインズ攻撃をくらえっ!!』
しかし、ケーブルに二人同時に乗ったところで、やはり間抜けなマッドフラップはしくじった。
スキッズの顔を撃ってしまったのだ。
『あぁ、悪ィ』
『ア゛───!』
間抜けに双子は落下した。だがオートボットの働きとしてはまずまずだ。マッドフラップは満足した。スキッズは満足しなかった。というか痛かった。
『てめえ!オレの顔撃ちやがったな!?』
戦況は悪化していた。
ヨルダン軍が来たぞ!というエップスの朗報も、わずか20秒足らずであっけなく悲劇に変わった。ヨルダン軍の応援は、ディセプティコンに砲撃された。まっすぐに落ちてくる二機は、援軍ではなくもはや爆撃に近い。
「逃げろ──!」
散り散りに兵たちは散った。ヘリが爆発する。混乱した戦場から早く離脱しようと進路を変えた最後の一機は、もっと最悪なことに、ピラミッドの上で戦場を眺めるメガトロンにあっけなく撃たれた。石切り場に墜落していく。デバステーターがさっき綺麗に掃除機をかけた場所だ。
もうそのデバステーターは、掃除には興味がなくなったらしく、メガトロンから命令が下ったのでそれに従いその場を去っていた。あの巨体で石切り場を登り始めたのだ。落下したヘリから負傷者を助け出す。シモンズが兵士から無線を受け取った。同じように負傷者を助け出していたレオの肩を一度だけ抱く。
「お前に会えてよかったよ。覚えていてくれよ、私が祖国のためにしたことを」
何をしようとしているのかは、レオには分かった。シモンズが死を覚悟しているということも。無線を持ち、デバステーターを追いかけるシモンズに叫んだ。
「正気かよ!?」
オプティマスの足が見えた。早く走っていきたい。あそこに、何も考えず走っていきたい。
しかしこの状況がそれを許さなかった。廃壁の間から、戦場のど真ん中を三人は見つめた。
「あと800メートル」
サムが言った。
『サム!ユマ!』
アイアンハイドと、アーシー、それからクロミアが見えた。
「アイアンハイド──!!」
サムが叫ぶ。
ユマは声を出せなかった。オプティマスに砲弾が当たらないか、そればかりを気にしていた。何が最優先なのか、もうわからない。
『サム、ユマ!私たちが案内するわ!』
フレアアップがそう言った。
その瞬間、アイアンハイドや、アーシーが撃たれている姿が目に入る。苦しそうなアイアンハイドの声が爆音で遠かった。
『柱へ向かえ!!!』
三人は走った。
スタースクリームのセンサーが、虫けら三匹を捉えた。スタースクリームは素早く通信した。
──ランページ 罠にかけろ───