実写/オプティマス | ナノ
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Reason

泣いている暇はない

ある程度走りまわって、石切り場に出たシモンズらは、砂塵で真っ白になってしまったスキッズから降りた。

「もう、追ってこないんじゃない?」
「いや、甘いな」

向こうに見えるピラミッドに、ジェット機が二機、変形して降り立ったのが見えた。シモンズが双眼鏡でそれを確認する。あの姿は見間違えない。何度も何度も見てきた、NBE-1だ。

「…ぁぁ」

最悪だな、と思ったが、言葉に出来なかった。



ピラミッドに降り立ったメガトロンが、周囲を見回す。
スタースクリームが跪いた。

『メガトロン様、悪い報告で申し訳ありません、人間どもがこの地にプライムの死体を運んできました!』

それを聞くと、静かにメガトロンは唸った。

『小僧がマトリクスを手に入れたな。奴をオプティマスに近づけてはならん!ディセプティコン!
攻撃を開始せよ!!』



隕石が落ちてくる音が、落下した瞬間砂に埋もれくぐもった音になる。ボロボロになった廃壁に連なった鶏を退けたレノックスは、向かってくる隕石から変形したプロトフォームのエイリアンを確認した。

「敵の数は!?」
「ざっと13です!」

参った、これはさすがに。

「おいマズい…、これマズいぞ…こりゃケツの毛むしり取られるぞ」

エップスの不安ももっともだと思った。素早く召集をかける。

「いいか!敵の狙いはサムだ!サムは何らかの方法でオプティマスを蘇らせようとしている。我々はサムを見つけ、オプティマスのもとへ運ぶ。左から攻撃を引きつけろ、偵察隊を出せ」

アイアンハイドが動いた。

『俺が先導する』

走り出したアイアンハイドをみて、レノックスが続けた。

「アーシーとアイアンハイドとともに突破しろ。いいか、サムを見つけたら柱の陰に誘導し緑の煙をたけ!では行くぞ!出撃!!」



その頃石切り場ではシモンズもレオが、カラフルだが厳つい雰囲気を出している柄の悪いミキサー車とか、クレーン車だとか、ブルドーザーが眼前に集まるのを呆気に取られて見つめていた。

「あ…あ…」

いずれも、運転席に人が乗っていない。ちいさく、シモンズが呟いた。

「"OK牧場の決斗"、お前見たことあるか?バート・ランカスターとカーク・ダグラス」
「…いいや」
「同じことが起きる」

レオはその旧い映画をまだ観た事がない。

「…いいこと?」
「……大勢の人が死ぬぞ」

みるみるうちに七台のディセプティコンは、目の前で巨大な音を立てながら合体し始めたのだ。あるものは腕に、あるものは足に。
あっという間に、それは、信じられないがひとつにまとまった。


『デバステーター!!!!』

メガトロンの声が響くと、それに反応したように巨大な合体ロボットは、ギュィィィンと音を立て始めた。
風圧に押される。

「なんだ、うわ、」
「逃げろ!!!」

シモンズとレオは、車の陰に隠れた。
どんどんどんどん砂や砂利や石が巨体に吸い込まれていく。

「いやだー死にたくないー!」
「男は死に際は潔くだ!」

吸引がどんどん強くなっていく。ギュンギュンいって吸い込んでいくのはとうとう建物の壁、不運な人々、車にまで及んできた。
それを後退りしながら、ツインズは呆れて見上げた。砂だらけだ。

『ひっでえな』
『ああ、悪いロボットってのは最悪だな』



送られてきた無人偵察機が捉えた映像は、やはり予想通りだった。黒煙と炎に包まれた砂漠の映像。これこそ本物の今の戦況だ。
衛星まで調整されていたとは。
モーシャワーは叫んだ。

「やはり罠だった!ファイアストーム作戦決行!海兵隊を向かわせろ!」



ユマ、サム、ミカエラの三人は、なんとか廃村までたどり着いたのはよかった、が、廃屋の向こうに見た機体に息をのんだ。スタースクリームが飛行している。

「…向こうは気づいてない」

急いで陰に隠れ、それから一度だけ息を整えた。そこで初めて、いつの間にか髪を束ねていた髪がほどけていることに気がついた。俯くと、ダークブラウンの髪が落ちてくる。スニーカーはボロボロ、ジーンズは汗だく、重ねたキャミソールもジップアップパーカーも汗だくだ。それに気づかないくらい夢中で走っていたのだ。

「サム、ユマ!」

小声で背中をかがめたミカエラが、廃屋の扉を開けて二人を呼んだ。三人でそこに入り扉を閉めた。息を潜める。
廃屋にこもる暑さで、頭がおかしくなりそうだ。サムがユマとミカエラに歩み寄る。

「いいかい?僕は隙をみてオプティマスのところに走る」
「生き返らなかったら?」

ミカエラが涙ぐんでいる。そうだ。一秒先もわからない。オプティマスが生き返る生き返らない以前に、オプティマスにたどり着けないまま吹き飛ばされて死んでしまうかもしれない。このうちの誰か一人が、あるいは、二人、最悪、三人とも。

「大丈夫、絶対うまくいく」
「ダメだったら?」
「大丈夫、信じて。ユマも、一緒に来てくれる?」

ユマは頷いた。怖い。でも泣けない。オプティマスのところへ行くまでは、誰にも縋るわけにはいかない。もう誰にも甘えない。守ってもらった。もう充分すぎるほど。毎回こんな風に極限状態で戦っていたであろうオプティマスに、何度も守られてきた。知らずに甘えてきた。今、自分達のために犠牲になった彼に出来ることはそれしかない。

「絶対うまくいくから、大丈夫ミカエラ、信じて」

そう言った瞬間、外で轟音とトランスフォームした音が聞こえた。サイバトロン語だ。
思わず端々に散り、三人は息をひそめた。サムが近くにあった剣で脆くなった壁を貫く。そこに広がっていた世界は、地獄のようだった。荒々しいトランスフォーマーたちが部屋で探し物をするように家屋を壊し、スタースクリームが怒っている。ガタン、ガタンと地面が揺れる音と電子音、それから金属音。誰かが歩いている。
ミカエラは必死で涙をこらえながら声を殺し、口に手をあてた。震えている。
多分スタースクリームだと、ユマは思った。張り付いた髪をはらうこともできない。息をも止めた。三人は懸命に目配せした。
サムが貫いた壁穴から、虫のような電子音が聞こえる。ユマとミカエラは、視線だけをサムに向けた。
サムが掴んだのは、超小型のディセプティコンだった。
ゆっくり指先で、首もとからひねりはずす。断末魔の声を上げ息絶えた小さなディセプティコンは、小さいながらも、死に際に仕事をやり終えた優秀な兵だった。通信は、スタースクリームに届いたのだ。この廃屋の中に少年がいると。外がやけに静かになった。
その何秒かが、不安を募らせた。そしてその静寂で確信した。絶対に見つかったと。
そう思った瞬間、隠れていた小屋の屋根が巨大な音を立てて剥がれた。太陽を遮っているのは、赤い目をした、スタースクリームだった。ぐしゃぐしゃに潰されてしまう。三人は慌てて逃げ出した。裏口から飛び出し、そのまま階段を駆け上がる。廃屋はスタースクリームの手で、案の定ぐしゃぐしゃになった。
今走り終えた場所を、別のディセプティコンが武器を叩きつけて瓦礫に変える。背後にはスタースクリーム。
隣の建物まで、三メートル半ほどあった。しかし他に方法がない。サムが叫んだ。

「ジャンプするよ!」

勢いも充分につけられないまま、三人はジャンプして飛び越えようとしたが、スタースクリームの砲弾で失敗した。瓦礫が背中や頭に飛んでくる。背中に飛んできたのが一番痛かったが、それ以上に目下の路地に落下してしまったのが一番効いた。足を擦りむき、ジーンズが焦げるほどに摩擦して破け、砂まみれになった腕が傷だらけになる。幸い、骨は折れなかった。サムがミカエラを起こし、ユマを起こす。三人は再び走り始めた。

09/08/05