実写/オプティマス | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

Reason

点と線、ここにいる意味

ピラミッドの中で仲良く眠るシモンズとレオを見やり、ユマはぼんやりと指輪を眺めた。
ものすごく疲れているのに、気を張りすぎて眠れない。

『ビーナス、大丈夫?』

腕の中のウィーリーが、そう言った。

「ん?」
『いやあ、ビーナスはあんまり笑わないよな、俺が鞍替えしたの、嬉しくなかった?』

ユマは目を丸くした。

「まさか。仲間が増えるのは嬉しいよ」
『ソウカ、よかったあ』

ユマはウィーリーをそっと降ろし、立ち上がった。

『どこ行くんだァ?』
「外の空気吸ってくる」

憂いをふくんだ微笑みに、ウィーリーは首を傾げたものの、すぐ頷いた。

『ひとりになりたいんダナ?わかった、邪魔しない』



ピラミッドの外は、昼間より涼しい乾いた空気が流れていて、見張り台で睦まじく寄り添いあうサムとミカエラが見えた。ユマはそれを見て一度微笑んだものの、何故か泣きそうになって目をそらした。とぼとぼと歩き出す。そんなに遠くは行けないが、ひとりになりたかった。
でも、ひとりでいたくなかった。

──ユマ、私はもうこんな安らぎを得られることは、永遠にないと思っていた───
───声が聞きたかった───
───君は、私にとっての最高の奇跡だ───

奇跡に、なれない。
なんの奇跡にも。
結局は蚊帳の外だ。
彼を助けることは、サムにしかできない。
きっと弱音を吐いても、思ってもいけない。気を張って急いでここまできて、考える余裕がなかったのは幸いだった。
でもいざこうして、少しでも時間が空くと、沈殿していたただの悲しみだけが渦巻く。
なぜ出会ったんだろう。こんな役に立たない人間と。
空を見上げた。満天の星たちが輝いている。
あなたはどこかで、失望しながらこれを見てるのかな、オプティマス、

『──眠れないのか』

背後の声に振り返ると、そこには擬態を解いたジャズが居た。

「あ、大丈夫」

ユマは目をそらして立ち上がった。

『─無理をするな』

ジャズを見上げると、ブルーのバイザーは取られていた。

「─…明日、生き返らなかったらどうしよう」
『信じることだ』
「何を、」
『─オプティマスを信じている、自分をだ』

俺も信じている、と続けて空を見上げたジャズの悲しげな眼差しに気づき、落ちていく涙を拭った。それから頷いた。
とにかく信じるしかない。自分の意味が見つからなくても。彼と出会えた"理由"が、見つからなくても。そう思っていたら、サムの声がした。

「ユマ、シモンズ、レオ!みんな起きて!」



サムは興奮している。
叩き起こされたレオは機嫌がわるい。

「天文学の教科書の47ページ、覚えてる?」
「…あ、いや、まだ二日しか授業受けてねえから」

ユマとミカエラは、近い場所でサムを見ていた。
サムはピラミッドの外に出て、朝靄の中で光る星を指差した。

「ギザの三大ピラミッド。これらはオリオン座のベルトと重なるように築かれていて──、あのオリオン座の三つ星は"三人の王"っていわれてる。アカバ湾の先端に立てば、そこから地平線上の朝日が上る位置まで線が引ける」

シモンズが早速GPS装置を操作している。ユマがつぶやいた。

「"暁がダガーの剣先を照らすとき、三人の王が扉を開く"、なるほど…間違いなさそうだね」
「あの向こうならヨルダンのペトラ山か。ここから412キロ先」

シモンズも続けた。



オプティマスの遺体を乗せ、ディエゴガルシアへ帰るC-17の乗員区画では、"マニュアル通り"の光景が見られた。緊急脱出の指示がパイロットからでたのだ。"エンジントラブル"で。
兵士たちは平然と、臨機応変にそれに応じ、パラシュート装着をてきぱきとこなしている。

「空軍標準仕様のパラシュートの取り扱いはご存知ですか?」

とレノックス。ギャロウェイは混乱しだした。

「知るわけないだろう!飛行機から飛び降りたことなんて一度もない!一体これはどういう…」
「パイロットのアナウンスはお聞きになったでしょう?」

ガタン、と機内が揺れる。レノックスは眉を顰めた。

「マズいな、これは…」
「さては君が何か企んでいるな」
「なにをおっしゃりたいのかわかりませんが、我々は規則に従っているだけです、あなたがそう指示された通りに」

ギャロウェイのベルトを固く締め上げたレノックスは、涼しい顔をしている。

「…君のキャリアは、終わりだな少佐」

貨物ドアが開くのを確認し、レノックスはそちらにギャロウェイを押しやった。

「いいですか、今から手順を説明しますからよーく聞いて覚えてください!!」
「な、なぜ君はパラシュートをつけていないんだ!?」
「VIPの安全が最優先です!!」
「待ってくれ、胃潰瘍なんだ、」
「降下したら捜索救助隊が助けにきてくれます!!いいですね!?その布製のウェピングはブライドルコードといって、メインシュートのコンテナを閉じているピンを押さえています!ここまではよろしいですか?!」

すごい風圧にギャロウェイはまたも混乱している。

「なにを言っているのかよく聞こえない!!」
「集中して!」

ペシンと頬をひっぱたかれる。軍人は荒い。だが崖っぷちで命をかけている兵たちは毎日これが普通なのだ。

「パイロットシュートが気流のなかで展開するとピンが抜けてメインコンテナが開きます!この赤いコードは予備!メインはこっちの青いコードです!!青い方を思いっきり引いてください!強く!」

指示されたコードを慌てて引っ張ったために、メインシュートが飛び出して開き始めた。

「ああっ!!今引っ張る馬鹿がいるかっ!?」

え、といわんばかりの表情を最後に、ギャロウェイは雲の彼方に消えていった。レノックスが安堵したように戻ってきた。

「あれ、あいつさよならは?」
「言わずに行った」

どうでもいっか、まあ、とでも言うような感じで、エップスはパラシュートが完全に視界から消えるのを眺めた。
NEST隊員は手際よくオプティマスの体に固定していたストラップを外し始める。
輸送機の機首が引き起こされ、オプティマスの機体は何の抵抗もなく後部の貨物ドアから滑り落ちていった。
まもなくパラシュートが開かれ、ゆっくりとそれが降下する。
予定通りだ。
すべて順調。
同じ時に、拘束されていたオートボットたちも行動を開始していた。レノックスから通信がきたからだ。

『俺をここから出せ』

アイアンハイドの低い声。憲兵たちは、いきなりこんな狭い機内で起きられてしまった巨体たちに、なすすべなく立ち尽くした。
サイドスワイプもいらいらしながら保護ネットをはぎ取った。
貨物ドアから異星の守護神たちが降りてゆく。
09/07/29