実写/オプティマス | ナノ
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Reason

星の砂、あなたのぬくもり

何光年 離れてたのかな
奇跡のような偶然と
必然のような運命と
この旅で 私を必要だと
言ってくれた 彼を信じて
早く帰ってきて オプティマス



5


司令室に入ってきた技術兵の手には、一枚のメモがある。

「将軍、これを」

モーシャワーはそれを取り上げて素早く目を通した。

─"北緯29.31 東経35度を攻撃せよ レノックス"─

「……この座標は確認したのか?」
「はい、アカバ湾です」

差された先に写っていたのは、三カ国の国境線が集まる場所だった。それを慎重に眺めながら、頷いた。

「…彼は何か知っているな。援軍を出せるよう準備しろ」
「了解」
「将軍、例の少年の居場所が判明しました。あの座標から、160キロの位置です」
「……始まるな」



オートボットでの移動は最速だった。赤茶けた荒野を眺め、予測よりもかなり早くペトラ遺跡付近に到着した。

「多分この辺だ…」

足場の悪い地面に気をつけながら歩く中で、シモンズがGPS装置を片手にそうつぶやいた
見上げると───、
古代人がいくら背が高かったにせよ、こんなに凄まじく高い入口はない。聳える遺跡はオートボットさえ小さく感じるようなものだった。神秘的で、時間から置いていかれたような場所。
その口を開けて、旅人を待つその扉に入っていく。
手をついてよじ登る。巨大な入口は、スキッズとマッドフラップが肩車で協力しないと入れないほどだ。

「ここにあるはずだ」

しかし、入った先は何もなく、今いるメンバーが全員ギリギリ入れるくらいのスペースがあるだけだった。

「本当かよ?あんなポンコツブラックバードのいうこと、真に受けるのか?」
「いやなかなかだぞ、こんな大きな扉は生まれて初めて見た」

沈黙したあと、レオがもううんざりだ、と云わんばかりに答えた。

「で?調べてみよう。──ない。なーんにもなし。エイリアンの墓なんてない。あればとっくに考古学者がきて調べてる」

シモンズは言い返した。

「虹の彼方へ来てみても、雲を掴まされる事だってある!」

そんなやりとりの中、ユマとミカエラは、座り込むサムを心配げに見ている。

「…まだ終わってない」
「終わりだよ」

サムの低いつぶやきにも、レオは否定的だった。そうしていたら、マッドフラップが今度は喋り出した。

『オレもうお前についてくのやーめた。コイツがオレに何してくれたってーの?』

それは言い過ぎだと思い、マッドフラップ─…、とユマが声をかけようとしたとき、片割れのスキッズが先に言い返した。

『メガトロンを殺しただろ?』
『それも失敗、ヤツは生き返った』
『なんだ?ビビってんの?』
「やめろよ」
『何だとこのブサイク!』
「おい!」
『俺たちは双子だろーが、頭悪いな』
『やる気か?』

ひっつかみ合って、投げ飛ばし、殴り合ったりしだしたこの双子の喧嘩を、全員が止めようとする。スキッズが投げ飛ばしたマッドフラップの背中が、奥の壁にぶち当たり、壁にはひびが入った。
ジャズがため息をついて、それからバンブルビーに顎で示した。
優秀な斥候は電子音をあげて頷き黄色と黒の手が、暴れん坊双子をひっつかんだ。

『あっ、バンブルビー!』
『おわっ、バンブルビー!バンブルビー!』

そして、シンバルよろしくガッシャ──ン!!と二体を衝突させると、まるでゴミ収集車にゴミ袋を投げ入れるように、外へ放り出した。ア──という二人の悲鳴が聞こえたが、もう中の人間たちにとってそれはどうでもよかった。
マッドフラップがあけた壁から、風が吹き込んでいる。

「─………」

サムとシモンズが割れた壁面の漆喰をえぐり出す。そこにあったのは、渦を巻くような曲線に絡み付いた金属と、異星の文字の羅列だった。

「これだよ、このマーク…」

サムが呟く。
彫られた文字を、ユマとサムは指でなぞった。

「これ…」
「プライム…」

サムが視線を外さずに「ビー!」と叫んだ。

「ここを撃ってくれる?」

人間たちは全員退避した。ジャズは腕を組み、ただ黙って撃ち抜くバンブルビーを見ていた。
遺跡内に爆音が響く。
仕事をやり終えたバンブルビーが、武器を収めた。
瓦礫をかき分け、中に入る。サムに続いて、ユマ。
そこはトランスフォーマーがいる部屋ではなく、トランスフォーマーの、なかだった。
その身を犠牲にしたプライムたちは溶解して、そしてひとつになって固まっている。

「ジェットファイアがいってた…、亡骸?」

ユマはなぜか押し迫ってきた温かさを感じていた。この、言葉にできない感じ。
風化した香りに包まれた空間で思わず、瞳を閉じた。
オプティマスを思うというか、オプティマスを感じるのだ。
似たようなもののような、全く同じのような。とても神秘的だ。
だがすぐに、イヨーゥ!イヤーァ!と反響する仲間たちの声に、現実に呼び戻されて目を開けた。
シュールな彫刻の中のようなこの空間で、目的のものを最初に見つけたのは、サムだった。
ユマも同じ瞬間に、それを見た。サムには確信があった。

「…マトリクスだ…」

銀色に輝く神秘的な光をたたえたそれは、プライム達の体が囲む中心にあった。
サムがゆっくりと拾い上げた。しかしその瞬間、パラパラとそれは黒い砂となり、もろく崩れ去った。
全員が、言葉を失った。

「…そんな…」

サムが呟く。息をするのも忘れて。シモンズは冷静だった。

「何千年、何万年単位だ。長い年月でさすがに塵に還ったんだろう」

サムはただ首を振った。

「そんな…そんな…こんな」

その時、外で航空機の音のようなものが聞こえた。シモンズとレオが入口に向かって走り出す。
サムはまだ、その場を動けなかった。絶望とはこのことだ。

「生き返らせるなんて無理よ」

ミカエラが悲しげに声を震わせ、そう言った。
ユマはゆっくりと周りを見た。今自分たちを包んでいる、プライムたち。オプティマスのルーツ…彼の先祖、兄弟、家族。そのすべてで守ろうとしたものは…

「大丈夫だよ」

ユマは黒い砂をかき集めた。

「…ユマ…」
「大丈夫。これを入れられる袋かなにか、誰か持ってない?」

サムが靴下を脱いだ。
ユマはそれに、するすると砂を入れだした。

「これを守るためにプライム達が命をかけたんだから、時間がたって土に還るなんてありえない」

サムが何度も小さく頷き、もう片方の靴下も脱ぎ、それを手伝いだした。ミカエラは、泣きながらそれを見ている。

「…絶対にうまくいく。みんなが僕の知識を追いかけてる。これには力があるはずだ」

サムの言葉に、ミカエラがかぶせた。

「どうしてそう言えるの?」
「…僕がそう信じてるから」

二つの靴下に、黒い砂は綺麗に入り、口を縛ったサムが、そのうちの片方をユマに手渡そうとした。しかしユマは首を振った。

「サムじゃないと無理だよ」
「僕だけじゃだめだ」

そう言ったサム見つめ合うと、その真剣な眼差しに負け、涙が溜まっていく。

「君の愛がなきゃだめだ、ユマ。君が必要なんだ」

ユマの力のない手に、それが渡される。マトリクスの砂。

「僕の知識に、君の愛が手伝ってくれて、そしたら絶対にうまくいく。ユマが持っていて。オプティマスが目覚めた時に、そばにいるべきだ」

力強く握りしめて、ユマが頷いた。



「C-17だ!空軍がきた!味方だ──!」

入口でシモンズの声がしている。サムとミカエラが、プライム達の中から走って飛び出す。ユマもつられて追いかけようとしたが、もう少しここにいたかった。

『ユマ、何してる?行くぞ!』

ジャズの声が聞こえた。入口で待っているようだった。
ユマは走り出したものの、一度振り返った。指輪を急いで両手に包んで祈った。

「─…何もかも済んだら、必ず、あなた方の最後の"希望"を、ここに連れてきます、どうか見守っていてください、お願いします…!」



「よし、デカブツを落としたな…」

シモンズとレオが確認した。
サム達に少し遅れて、ユマも遺跡から飛び出した。

「その砂で生き返るのか?」
「ああもちろんだ。行こう!!」



無事に着地したNEST隊員たちはすぐに集合した。廃村だが人は若干いる。それをすばやく排除し始めた。はけて行く現地人の中には、オプティマスの遺体を物珍しげにつついたり触ったりしている者までいる。

「オプティマスを隠せ!!」

オプティマスをカバーで覆う作業が続けられる。

「砂漠のど真ん中に10トンのロボットを落としたが…うまくいくかな」

警戒しながら、エップスが聞いた。

「いくといいが」

とレノックス。その時、建物の上で警戒していた兵が叫んだ。

「見つけました!!イエローチーム!!!距離4キロです!!」

レノックスが頷き、素早く指示を出した。

「よし、照明弾!」

09/07/30