実写/オプティマス | ナノ
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Reason

2009年謎解きの旅

素早く電話を切ったシモンズが、頷いた。

「CIA情報だ。古代シュメール人がアカバ湾のことを"ダガーの剣先"と呼んでいた。島の一部が剣先のようにエジプトとヨルダンを分けて突き出している」

シモンズがGPS装置で座標を調べた。

「場所もわかる。北緯29.31、東経35だ」
「…とにかくそこに、オプティマスを運ばなくちゃ」

後方で、レオが当たり前のことを聞いた。

「でもどうやって運ぶんだよ?」

ユマもミカエラも、心配げにだが黙ってサムを見ている。だが、サムも、レオが言ったように当たり前のように答えた。

「…電話する」

周りは緊迫しているが、サムは慎重で、真剣だ。
その時、前方に二台のパトカーが見えた。

「警察だ!!」

世界を救おうとしているのに指名手配なんて、つくづく可哀想だと思うが、そんな心配はオートボットがそばにいれば平気だ。バンブルビーも、ジャズも、双子も、それをかわす能力に溢れている。
レオはまだ捕まりたくないとか言っているが、もうあまり誰も耳を傾けなくなっていた。
優秀なオートボットの斥候と将校に乗り込んだ5人は、無事カイロ市街へ逃げ切った。
軒先の洗濯物から拝借したショールを巻きつけ、そのダークブラウンの瞳だけを見せたユマと、ブルーの瞳だけを見せたミカエラが、走り去った追っ手を確認した。

「行ったわ」
『ハン、馬鹿な警官』
『見たか!この忍者並みの隠れ方』
『黙ってろ、顔にパンチ入れるぞ!』

ジャズがスキッズを、バンブルビーがマッドフラップを壁面でぶら下げている。異様な風景だが、幸いこの裏通りにはひと気がない。
擬態を解いてもさほど問題ではないのだ。
ホッとしている暇さえないのは、皆わかっている。サムが急いでユマに相談した。

「とにかくこの事をレノックスに知らせないと」

そうだね、とユマが頷く。だがシモンズは違った。

「だめだ!お前は今世界ナンバーワンのお尋ね者だ。あっというまにFBIだのCIAだのがわんさかやってくるぞ」

シモンズとサムが、ユマを見る。

「…………」
「…………」
「……ん?…え!?私!?」

サムが頷いた。

「そんな大事なこと、第一普通の周波数の電話は絶対的に傍受…」
「直接的な言葉を使わなければいいんだ、ユマ、君なら伝えられるよ!!」
「なん…」
「旦那を生き返らせたいんだろ?だったらやれ!」
「…………」

…旦那て。



オートボットが、まるでデトロイトのスクラップのようにコンテナにつめこまれ、ネットにかけられ、ディエゴガルシアに送り返されようとしている様子を、ただ黙って見ているしかないレノックスとエップスは、どこにやりようもない憤りを感じていた。

「基地に戻すのか…、大きな間違いだ」

レノックスの呟きはもちろん、オートボットのすべてが聴覚センサーで捉えていた。
抵抗と反撃をしようと思えばいくらでもできる。だがオプティマスもこういう形を望むはずだと、残された全員で判断して、おとなしく従っている。
もちろん不本意な処分だ。だが冷静にオートボットは話し合った。報復すべき相手、すなわち本当の敵はディセプティコンだ。だが人間だけではディセプティコンにはかなわない。本当の敵を倒せないなら、倒せる敵をでっち上げるしかない。
その結果が、これだ。
仕方がない。解決への道は、時間だけだ。
何がどうだとしても、敵は人間ではないのだ。
基地に戻る輸送機を眺めていたレノックスとエップスの背後で、声がした。

「─レノックス少佐!!」

振り返った二人に敬礼をする呼び止めたNEST隊員は、慎重に話した。すぐ背後には、よくない存在がいたから。鼻持ちならないあの補佐官だ。

「お電話が入っています」



こういうのかなり苦手!
泣きそうになりながら、シモンズが繋いでくれた砂まみれの大きな受話器を両手で握りしめる。
ああどうしよう、なんていえば伝わるかな、私の名前を言ったらレノックスさんはわかるけど、絶対ディセプティコンもわかるよなあ、ああ、神様、私どうしたらいいですか?ああほんとどうしよう、オプティマスどうしたらいい?オプティマス…

「……」

…大丈夫大丈夫、心の中には宇宙イチのオプティマスが…ついてる!頑張れユマ、お願いレノックスさん、伝わって!

「───レノックスだ」

きたああああ!!!

「あ、あ、…オ、オ…ぷ…」

固唾を飲んで見守るサムとシモンズが、必死で手をクロスさせながら、ダメだ!と小さく呟く。そうだ、"オプティマス"は禁句だった。

「──?」
「オッ─…オッ…ちゃん!」

オ、しか合ってないし!伝わる訳ないじゃんばか!ユマのばか!



レノックスは首を傾げた。おっちゃんとは失礼だ。そりゃ娘はいるが、失礼だ。まだまだ現役だ。横で聞いているエップスも、眉をひそめた。だれ?という仕草をしている。それを受けて、レノックスは苛立ちながら首を傾げた。

「わざわざ軍用周波数なんか使ってかけてきたのに失礼だな。誰だ?用がないなら切るぞ」
「あっ!まってまってまってください!!」
「──?」

とりあえず、落ちつこう。サムとシモンズが呆れている。ミカエラも心配そうだ。

「…………」
「──もしもし?」
「あの、自分でも信じられないんですけど、他とは違うものにどうしようもなく惹かれることってありません?」

突然のまくし立てに、レノックスは混乱した。だいたい、

「??きみは誰だ」

聞き覚えは、ある気がする。だが誰かわからない。レノックスは、エップスにも受話音を分けた。意図を汲めないまま、エップスはイヤホンを受け取る。

ユマはとにかく自分が誰なのかを伝える事が先決だと思った。めったに話なんてしないレノックスさんに、自分を思い出してもらわなくてはならない。

「他にもたくさん格好いい"車"はあるのにほら、"ソルスティス"とか、"コルベット"とか、"カマロ"とか。でも私どーーしても"トラック"に惹かれちゃうんです、街でトラック見るともう興奮しちゃって!変だって分かってるんですけどでも"私の乗るトラック"が一番だなって思ったりしちゃって。自分でもどうしてか分からないんですけど、車高は高くて乗ったり降りたりするのに掴まらないと乗れないし変な計器はいっぱいあるし背が…じゃなくて車高が高すぎてずっと"見上げてる"と顎とか首とか痛くなるのに、どーしても"トラック"が"一番"好きなんです、大きな"トレーラーのトラック"。
…で、私が誰かわかります?」

ユマは息があがった。心臓が飛び出しそうになりながら、レノックスが電話を切ってしまわないことを願った。
エップスとレノックスが顔を見合わせた。おそらく、ユマだ。ユマが電話してきている。仲間であり、戦友であるオプティマスと種族を超えた関わりを持つ人間だ。彼女とは何度も会っている。
レノックスは頷いた。
何より、彼が死んだ事を彼女は知らないかもしれないのだ。だが、今このタイミングで電話をしてきたこと、そして名を名乗らないこと、何か意味がある気がした。レノックスは慎重に答えた。

「──ああ、聞いてる。"趣味"はいろいろさ。そこに"愛"があればいい。で?それがどうしたんだ?続きを話してくれ」

どうにか伝わったようだ。ユマは胸をなで下ろした。

「はい、それで、一番"お気に入り"のが今"エンジンがかからなくて"、ほら、レノックスさんに"預けてた"じゃないですか。今私、離れ離れになってるのが寂しくて"傷心旅行"に来てるんですけど、一緒にきてくれた"ドクター"が、ほら、レノックスさんも何度か会ってますよね。"トラックとかカマロのことなら何でも知ってる、ちょっと今世界的にホットな人"、彼が"なおしてくれる"って言うんです。"復活"できるんです」

レノックスとエップスは、さらに顔を見合わせた。ユマは今あの少年と一緒なのだ。

「でも、レノックスさんもお忙しいでしょうし、"直せる設備"が"整った場所"があるんで、そこに"私のトラック"を落として欲しいんですよね。ああ、ちょっと!誰か1ドル札持ってない?今どーしても"1ドル札の裏に載ってるあそこ"に行きたい!"ツタンカーメン"の!」
「──わかった、じゃあそんなに欲しいんなら俺がその"トラック"と一緒に1ドル札も"落として"やるよ。"修理料"としてな。何枚欲しいか言ってくれ、"出来るだけ正確に"」

エップスの声だ。ユマは安堵して微笑んだ。シモンズからGPS装置を受け取る。

「じゃあ、諸経費も入れて、29コンマ31くらいでどうですかね?東には35枚。それだけあれば"確実に大丈夫"だって、"ドクター"は言ってます」

そこまで言ったところで、公衆電話が壊された。

「きゃあ!!」

背後にいたのはターバンを巻きつけた男だ。

「俺だよ!!レオだ!!」

警察だ、と言ってまくし立てられ、5人は急いで場所移動を開始した。
ユマはといえば、なんだか不安感はあれど、なんとなく解放された気持ちになっていた。
こんなに公衆の面前で「トラックが好きだ」と言っても変態扱いされない。
それが少しだけうれしかった。
それは事実だ。
ユマは、ファイアパターンのあのトラックが大好きなのだ。
友達として、そして、恋人として。

09/07/25