実写/オプティマス | ナノ
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Reason

真実


擬音としては、

ッポ────ン!!!
だった。自分がミサイルにでもなった気分だったかもしれない。死にたくなくて弾き飛ばされないようにしがみついていたのに、最終的にどうしようもないかたちで、全員が弾き飛ばされた。最初は質量の多いオートボット達。まだユマやサムたちが気づくのは先だが、彼らも巻き込まれていたのだ。

『ぎゃああああ!』
『ああああ!』

スキッズとマッドフラップが飛び出した。

『─────!!!!』

バンブルビーも電子音をあげる。

『うぉぁ!』

さすがのジャズも、叫び声をあげずにはいられなかった。
少し遠い場所で、ジェットファイアが体を起こす。恐らく最初に着地したのだろう。その頭にボールのように当たって弾き飛ばされたのは、ウィーリー。

『ああ、まあまあか。違う惑星でなければいいが』
『オイ!スゲエ痛かったぞ!』

そして人間たち。何度かに分けてイジェクトされた。

「ぐおおおお!!」
「うわああああ!!」
「おおわああああ!!」
「キャ────!!!」
「ひゃあああああ!!」

サムは最悪な事に、落ちた衝撃と摩擦で指を負傷した。
ミカエラはラッキーだった。レオの上に覆い被さる形に落下出来たのだ。
ただ、その下にいるレオは本日二度目の衝撃だった。

「ふ、ふお、ラッキー!目の前に美人!うれしい…けどこのままだとタマが潰れそうっ…降りて、っ、お願い」

ミカエラが起きあがり、辺りを見回した。

「サム!」

ユマはかなり飛ばされた。岩山に直接落下しつつあることを、知らないままユマは叩きつけられて逝くところだったのを、電子音と金属の音がして、すんでのところで体をキャッチされた。

「うぅ、…」
『大丈夫か?』

ジャズだった。ナイスキャッチである。
シモンズが辺りを見回した。

「こ、これは─……!」

広がる乾いた青空。赤さのある砂、見慣れない鋭角的な岩山が広がり、こんなに開けた場所を見たのは久しぶりだった。ニュージャージーにはこんな風景はない。

「ここなんだ?ベガスか?」

またも見当違いなレオ。
状況を把握しようと必死な全員は、互いの無事を確認した。

「シモンズ!!」
「ユマ!!」
「おーい!!ここベガスだろ?」

合流した5人とオートボットは、このひどい目にあわせた張本人をこの荒野で探さねばならなかった。
だが、意外にあっさりと見つかった。皆近くに飛んだのだ。
くたびれたような老人トランスフォーマーは、その巨体を岩場にあずけたままだ。

「私が死んでいなくてよかったな!!私が死んだらうちのママがただじゃおかないぞ!!!」

シモンズの怒り方が変だと思いつつ、ウィーリーを抱っこして、ユマはミカエラに手当てされるサムとジェットファイアを交互に見た。ウィーリーはビーナスの腕の中で死にたい、といいながら大人しく抱かれたままだ。

『スペース・ブリッジ≪空間の橋≫を使うと言っただろう。エジプトに来るにはこれが一番速い』

全員がジェットファイアを見上げる。そんな事は…

「そんな事聞いてないよ!!」

サムが憤ってまくし立てた。

『ええい、キャンキャン吠えるな人間!情報は与えたぞ』

相手は老人だ。やめようと思い直したのか、サムは落ち着きを取り戻した。

「せめて、どうしてエジプトなのか教えてよ。そうすれば、少しは気持ちも落ち着くから」
『我が種族は大昔、この星を訪れた。何千年も前、ある使命を帯びてな。その使命とは、我らの命の源、エネルゴンを探すことだ』

ユマは首を傾げた。

「エネルゴン?」
『そうだ。エネルゴンがなければ我々は錆び付き滅び朽ち果てる。今の…この俺のようにな!!』

ジェットファイアが憤っているのは見慣れたが、あちこちのパーツがポロポロと垢のように弾け飛んでいるのには心配になった。

『バラバラになりながら、じわじわとゆっくり錆び付いて死んでゆく俺達の気持ちが貴様等に分かるか!』

体が朽ちていくメカニズムは、地球の金属と同じようだ。エネルゴンという栄養素を生命体としての彼らは必要としているということだ。不死身ではない。
憤っている老人に見慣れたシモンズが苛々しだした。

「もうちょっと分かるように話せ、先輩。起・承・転・結、事実を詳細かつ、簡潔にだ」

ジェットファイアは、静かに話し出した。落ち着きは取り戻している。

『この地のどこかに、かつて先人たちがエネルゴンを集める為の装置を作った。この地のどこかに作られたその装置は─、太陽を破壊しそのエネルギーを丸ごと集める』

全員が息をのんだ。桁が違う。世界規模ではなかった。宇宙規模だ。

「太陽を?」
「爆発させるとか?」

サムとレオが問うと、ジェットファイアはそうだと一言頷き、そちらをみて答えた。

『かつて──、すなわちそもそもの始まりの時、我々は7人のプライム達に支配されていた。始まりのトランスフォーマー、初代リーダーたちだ』

プライム、の言葉にユマの心臓が跳ねあがった。核心に近づいている気がした。

『プライム王朝は≪収穫≫に飛び立った。エネルゴンの入手のための』
「収穫─…」
『プライム達にはルールがあった。"生命の住む星を対象としてはならない"』

─人間を傷つけることはあってはならない。自由は、全ての生命が持つ権利だ───

ユマの中で、彼の記憶が溢れた。大事な話をしているのだから、聞き逃してはならない。泣きそうになるのを必死で抑える。だがジェットファイアの言葉で、その心配なくユマは話に引き戻された。

『だがプライムの中のひとりがルールを破った。地に堕ちた者、それが、ザ・フォールン≪堕落せし者≫』

ジェットファイアの手からホログラム映像が転写される。ロッドを手に持った、古代の風格を思わせるトランスフォーマーが、そこには写っていた。

『─奴は地球人を蔑み、滅ぶのもかまわず、装置を起動させようとした。だが起動させるには、鍵が必要だ。オールスパークから作られた、"指導者のマトリクス"と呼ばれる鍵だ。マトリクスを巡って、激しい戦いが繰り広げられた。フォールンはマトリクスを独占するべく、兄弟であるプライム達を殺した。フォールンは他の兄弟よりも強かった。─その殺戮を逃れたのは一人だけ。装置は残され、生き残った最後のプライムはマトリクスを隠した。それは、兄弟たちの死体で築いた墓の中だ。彼は最後の犠牲として──、その墓に入って内側から封印した。──そしてその場所は、誰も知らぬ』

ゆっくりとかぶりをあげ、ジェットファイアは続けた。

『このおかげで、お前たちの太陽は救われた。お前たちの種族は生き残り、進化し、繁栄し、成熟したのだ。お前たちの最初の都市のいくつかは我々の歴史の残骸の上に築かれた』

ユマは頷いた。泣きそうになるのを抑えるのは苦手だ。

「すべてはここから始まったんだ。彼らに救われて」
『今もこの砂漠のどこかに、あの恐るべき装置が眠っている。フォールンは─…、装置の場所を知っている。奴がプライムの墓を見つけたら、間違いなく装置を起動させようとするだろう。装置がエネルゴンを作るために太陽の光を吸い込み始めたら、この惑星はおそらく死滅する』

ミカエラが、静かに聞いた。

「止める方法は?」
『フォールンを倒すことができるのはプライムだけだ。そのためフォールンは惑星サイバトロンへ戻り、戦争をはじめ、プライム王朝の実系の子孫をほぼ全員殺した。…その中の一人が、孤児として生き延びた。自らの運命も知らぬまま』

─だが私はすべてを失った。辛い過去の真実を知ることとなった───
ユマは止められなかった。涙ばかり出た。ジェットファイアの話に夢中になる皆は、幸い誰も気づいていない。
オプティマスの傷みがどのくらいなのか、もう想像がつかなかった。何も知らなければいいなんて思っていなかった。ずっとすべてを知りたかった。
穏やかにすべてを包む彼が愛しくて何も見えていなかったのだ。
しかしオプティマスは"責任"とは違う、悲しき痛みと戦っていた。
二年ともに過ごしたのに、自分が彼に積んだつもりの愛は、泡のように思えた。

「─オプティマス・プライム?」

サムが気づいたようにその名前を言うと、人間サイドはそのほとんどがユマを見た。
ジェットファイアだけが、サムを見ていた。

『プライムに会ったのか?生きているのか!?…いや、子孫だろうな…、彼は生きて地球にいるのか?』

サムは肩を落とした。

「彼は僕を救おうとして犠牲になった…」
『死んだのか…、まさにプライムの生き様…悲劇だな。プライムがいなければ止める方法はない』

だがサムは、信じられないことを口にした。

「その装置を起動するキーって、エネルギーなんだよね?それオプティマスの為に使えない?それで生き返らせること、出来ない?」

息をのむ。生命の復活。今までどれだけの命がそれを望んできただろうか。

『そういう目的には作られていない。だがエネルギーは比類なきもの、理解を超えたパワーを持っているのも事実だ』
「どうすればディセプティコンよりも先にマトリクスを見つけられる?」

ジェットファイアは自らのこめかみに指を当てた。

『お前の頭の中にある地図だ!!それにはこう書いてある。
"暁がダガーの剣先を照らすとき、三人の王が扉を開く"』

具体性のない言葉に皆が四苦八苦している中で、ユマは思考の中をさまよった。
オプティマスが生き返る、なんて奇跡、信じられ…
俯いた時、胸元の指輪が、少しだけ青白く光った気がした。

『…お前、なんだ…』

ジェットファイアがユマを見下ろしながら、そう言った。

「………」

ユマは涙を拭って、ジェットファイアを見上げた。

『お前がプライムでないことくらいは分かる。スキャンをしても下等な有機生命体だ、だが、何故かお前からプライムを感じるのだ』

不思議なことに、ジェットファイアが云わんとする事がよく理解出来た。頭はクリアだ。

『─共に生きる道、か』

そう呟いたジェットファイアは急かすように叫んだ。

『その扉を探すのだ!行け!救え!かつては俺の任務だった…、お前たちに託す…ディセプティコンが見つける前に、急ぐのだ!』

09/07/24