Reason
信じる道と、道標
ジェットファイアの一歩はユマたちの30歩くらいだろうか。バキバキと展示物を掃きながら歩いている老体を、必死で5人プラスちびディセプティコンが追いかける。ジャズやバンブルビー、双子も慎重についてきた。
『ケツが錆び付いている、痒くて忌々しい』
「ねえ待って!」
サムが叫ぶ。
「ジェットファイアーさーんっ!!!」
ユマが叫ぶ。
『俺には任務があった、それが何だかは思い出せんが』
「おい!」
『何の用だ』
「話がしたいんだよ!」
勢いよく振り返った巨体の迫力ったらない。
『そんな暇はない。任務がある!!俺は雇われた傭兵だ!!ここは何処だ!なんという惑星だ!?』
ひっくり返った5人の中で、急いで答えたのはサムだった。
「地球」
『ちきゅうぅうぅ!?酷い名前だな、こんな薄汚い泥だらけの星は、泥で充分だ。泥の、惑星!』
ジェットファイアがプェッ、と吐く唾(何より成分が気になる)が、ちょっと服にかかった。
『それで、ロボット同士の戦いはどうなってる?長い間争い合う両者の戦いは!?どっちが勝っている!?』
サムが仕方なさげに答えた。
「…ディセプティコン」
意外だったのは、再びジェットファイアが唾を吐いたことだ。この言葉をいった瞬間、忌々しそうにそうした。
『俺はディセプティコンを見限った。オートボットに鞍替えしたのだ』
5人は、ただ目を見開いた。鞍替えとは、人間を下等だと称する連中にしては意外と人間のような一面がある。
「そんな事ができるの?」
「鞍替えって?」
サムとユマが問うた言葉同士が重なった。
『選ぶのだ。どちらにつくかは個人が決めること、己が信じる方に。いがみ合うばかりで嫌気がさしてな』
それに一番嬉しそうに反応したのは、この場所に導いた小さなディセプティコンだった。
『ディセプティコンじゃなくてもいいの?』
『奴らが勝つと宇宙が滅びてしまう』
小さなディセプティコンは、嬉しそうにユマとミカエラの周りをうろちょろした。
「?」
「?」
『じゃあオレも鞍替えする!アマゾネスとビーナスの手下になる!あんたのオートボットだ』
うろちょろしたあと、ちょうどいい頃合いの足を見つけた、と言わんばかりの表情で、アマゾネスの方の左足にしがみついた。
「かわいい!」
『オレはウィーリーだよ!!名前呼んで、ねえ名前呼んでみて、』
女性陣の反応と、腰を動かすウィーリーを軽蔑した目で見るのは、男性陣だ。
「…何触らせてんの」
サムの声が虚しい。
「この子は、浮気しないわ」
ミカエラは笑顔だ。それには、久しぶりにユマは笑った。それを見上げたウィーリーは、今度はユマの足にしがみついた。
『ビーナスの笑顔も最高!!ハァハァ、ハァハァ』
そんなウィーリーを掴んで、まるでモージョを躾るときのようにサムが呟いた。やめろ、二度とするな、と。
そんなやりとりの最中、ジェットファイアをユマは見上げた。
「あの、」
『俺様はジェットファイアだ!!文句あるのか!』
その勢いにまたしても5人がすっころぶ。もう青あざだらけだ。
『…全く寝起きの悪いジジイだな』
ウィーリーがため息をついた。
『俺の気が短いのは、母親のせいだ!先祖は何世紀も前からここにいた。俺の父親は宇宙初の車輪だった。なんに変形したと思う?』
「さぁね」
サムが間髪入れずに答えた。
『…しなかった!だがそれを誇っていた!!気高いだろうが!!』
興奮しすぎたのか、老体のお尻からとんでもない勢いでボムッとパラシュートが開いた。
それにつられて、今度はジェットファイアがすっころんだ。哀れむように5人は歩み寄る。
「だいじょうぶ?」
『ポンコツめ、俺のブースターが焼け焦げちまったじゃないか!』
尻を抑えて立ち上がろうとしたジェットファイアに、サムが笑いかけた。
「助け合わない?君が知っていることを教えてほしいんだ」
レオはあきらめ顔で首を振った。
「いや、コイツ知らないだろ、なにも」
しかしユマは、レオの意見は、今回も的外れな気がした。
サムが地面に、ジェットファイアに見えるように記号を書き出す。
短い、剣、先、1日のはじまり、数字の3、そして王。やはりユマには同じようにしか読めなかった。
「こんな言葉がどんどん出てくるんだ。エネルゴンの道標なんだよね?この僕の頭の中にあるものを、メガトロンとフォールン、って奴が狙ってる」
サムの説明に、ジェットファイアは目をむいた。
『フォールンだと!?奴が俺をここに置き去りにした最初のディセプティコンだ。奴がいくところには必ず混乱と破滅がある』
カリカリ、と金属製の髭を掻き、何かを思い出すような素振りで、地面に記された記号を見つめている。
『この文は、奴が俺に命じた任務だ。思い出したぞ!ダガーの剣先と…、そうだ、鍵だ!』
「鍵?」
ユマの声は、ジェットファイアのまわりを渦巻く眩しい光にかき消された。何か物凄い事が起こる気がする。無意識のうちに5人はその場で、弾き飛ばされないように体をくっつけて光圧に耐えた。
「なに…まってまって、」
『説明している暇はない、しっかりつかまっていろ!じっとしていないと死ぬぞ!!』
体と脳みそが引き離されるような、なにか分からない感覚。怖い、なんか死ぬ気がする、すごいそんな気がする。全員がそう思った。
空間がゆがむ。目を開けていると、目が駄目になりそうな気がした。
すべてが高速なようで、スローモーションにも感じる。とうとう耐えられず、ユマは瞳を閉じた。