実写/オプティマス | ナノ
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Reason

鬼が出るか蛇が出るか

「スミソニアン国立航空宇宙博物館。私の夢の場所だ」

駐車場に着いて最初に、双眼鏡で建物を観察したシモンズは、恍惚とした表情で佇んでいる。

「…宇宙飛行士になりたくてね」

擬態したままのオートボットたちは大人しく全員の動きを見守っている。小さなディセプティコンも箱に入れた。シモンズが腕時計を見直して、全員を見回した。

「よし、時計も合わせたトイレも済ませた、いいか、もし捕まったとしても私の名前は出すな。このタブレットを舌の裏にしのばせておけ。嘘発見器をごまかせる」

手渡されたタブレットは白い、小さな粒だった。それをどきどきしながら見つめていると、至近距離でバチバチッと音を立てた何かに気づいた。
シモンズが握りしめたスタンガンだ。それを見たレオが首を横に振った。

「お、俺は無理だ、エイリアン狩りなんて」

ここにきて弱音を吐きだした小心者に、シモンズはオイ、オイ、と詰め寄った。

「小僧、俺たちがここで何をやってると思ってる?人の命がかかってる。たくさんの命がな。たぶん地球の命運も。お前のせいでこの作戦が失敗したら殺してやるからな。俺の目を見ろ、ケツの穴締めろよ、気合い入れていけ」


4


駐車場で綿密に打ち合わせてから、数時間が過ぎた。閉館の簡易放送が聞こえる。ギフトショップで粘っていた子どもたち、そして幸せそうな家族連れが帰って行く。
もっとも、今のユマ、サム、ミカエラにはその様子は見えないのだが。今三人は航空機展示棟の、ミグの展示エンジンに隠れていた。だんだん人の気配がなくなっていくのを感じるが、三人はつとめて物音を立てないように微動だにしなかった。その間に、ミカエラは小さなフィルムケースをサムに渡した。それが何なのかは、ちゃんとここに向かう途中に聞いたからわかる。小さくても、自分たちの知識よりも沢山の情報と力を秘めたものだ。
入口では、レオが頑張っていた。地球を救うためなら、公衆の面前でお尻はいくら出してもバチは当たらない。たぶん。

「ちょっとー、トイレットペーパーが切れてるんだけど」

こーんなおっきいのが出ちゃって、というエントランスで尻を出す若者は、帰る家族連れが気まずそうに端による姿も気にとめない。
警備員に圧されてトイレに戻ったレオは、パンツを上げた。もう世界を救うのなんて頼まれてもやらねえ。そう思っていたら、個室にトイレットペーパーを持った手が伸びてきた。

「家族連れも居るんですから、勘弁してくだ…」

ひと思いにスタンガンを警備員が伸ばした手に押しつける。
恐る恐るトイレのドアを開けたレオは、倒れている警備員にホッとした。
そして出口に向かおうとして、ズボンに引っかかり、結局自分にも電撃を加えてしまった。
シモンズが通りかからなかったら、この若者はせっかく入った大学を強制退学させられていたかもしれない。

「…なにがあったんだ?」
「電撃ってッ、タマに何回ッ、くらったらッ、子どもできなくなるかッ、知ってるッ!?」

呆れてうんざりのシモンズがインフォメーションデスクの方へ素人を引きずる。

「素人だ。…ずぶの素人だ…」



人の気配が完璧に消えた静寂というのは、五感以外で感じるものだ。三人は、それを無言で確認しあい、外に出た。
サムがフィルムケースからオールスパークの破片をピンセットで取り出した。
ミカエラはアタッシュケースからミニディセプティコンを出し、ユマはシモンズの手伝いをした。セクター7御用達の放射線探知機である。
慎重に破片を見つめながら移動するサム達に対し、ユマは小さなディセプティコンを追いかけた。今までにない動きで、ビークルモードのそれが走り出したからだ。

「みんな!」

ユマが呼ぶと、そんなに離れていなかった場所にいた二人が走ってきた。合流しながら三人はミニディセプティコンを追いかけた。ミカエラがサムを圧しながらつぶやいた。

「彼、何か知ってるわ!」

ミニディセプティコンがある一定の場所で止まり、トランスフォームする。奇しくも、シモンズが探知機で頼って導かれた場所も、此処だ。

「ブラックバードか」
『コイツさ。フランク・シナトラ並みの伝説のヤツだ。さあ早くキューブの破片をコイツに当ててみろよ。魔法が見られるぜ』

キューブの破片を指差すディセプティコンにサムは頷き、ブラックバードに向かって思い切り、かつ慎重に破片をピンセットで弾き飛ばした。
その瞬間電流が迸り、ブラックバードに命が蘇る。
三人はすかさず機体を確認した。トランスフォーマーを知っている者なら、必ず確認しなければならない、ものがある。
どうか、
どうか。
出てきたエンブレムに、ユマの心臓が跳ね上がる。ほかの二人も困惑した。

「うわあっ、まずい!」
「…まさか…」

サムとユマが青ざめ、ミカエラが叫んだ。

「これディセプティコンよ!」

追いかけてきたレオの前で、ディセプティコン…、とシモンズの余裕のない呟きが小さく響く。もう"それ"は擬態を解き始めている。

「隠れろ!!ミグの下だ!!」

大急ぎでミグの下に隠れた一行に、怒声がひびいた。蘇ったばかりの、大昔のディセプティコンだ。電子音が混じった意志の強そうな嗄れ声。
唸りながら苛々したようにいうことをきかないヘッドパーツであろう物体を、帽子を上げるように引き上げたディセプティコンは、どこか様子が変だ。

『なんだこの墓場のような場所は?』

杖をつくトランスフォーマーは、初めて見た。

『此処は何処だ!!答えろ!!出てこいこの下等生物どもめ!!』

のろのろとミグの下から顔を出した5人は、口を開けたままこのディセプティコンのシーカーを見上げた。

『このちっぽけな脊椎動物ども!!いまいましい』

膝が折れ、体のあちらこちらから粉々の金属が落ちる。歩くたびにきしむ音、足はよろよろしている。

『見よ、ジェットファイア様の、永久の栄光を!!!遠隔システム変更』

せわしく叫ぶ、言ってみれば老体のトランスフォーマーに、ちびディセプティコンは辛辣だった。

『厄介なジジイだ』
「………」
「…敵じゃない」

ミカエラがそうつぶやいた。

『命令だ!!ドアよ開け!!発射!!』

なにも発射されない。

『発射だといったのに!!』

ハンガードアに向かってのっしのっしと歩きだし、なんだかゴチャゴチャいってミサイルを飛ばした方向がおかしい。弾け飛んだのか最初からおかしいのか、こちらからは見えなかった。

『…………』

ユマはジェットファイアと名乗ったシーカーを追いかける。サム達がそれに続いた。

『…忌々しい』

ハンガードアは紙を破るように簡単に剥がされた。外に出たジェットファイアがブラックバードになって飛び立つ前にと、急いで5人は走った。

09/07/23