実写/オプティマス | ナノ
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Reason

神様

荒廃した工場の敷地を抜け、周囲の森へとオプティマスは走りつづけた。
身を乗り出し、ジェット機の追っ手がいないかどうかを、ユマはあらゆる角度から確かめている。サムは隣で、瞬きさえ忘れ固唾をのんで前を見ている。

『ユマ、じっとしていろ』

森へ入ると同時にオプティマスが轟く音と共にがたりと揺れた。
オプティマスはドアを開け、トランスフォームしながら出来るだけ丁寧に二人を下ろそうとしたが、メガトロンから背後をつかまれ、やむを得ず投げ出すかたちになってしまった。

『隠れろ、ユマ!!サム!!!』

サムとユマはそれぞれ投げ出され、柔らかく青々とした草花の茂る地面に叩きつけられた。ころころ転がったが、若草のクッションで衝撃は思ったほどではなかった。砲弾で弾けて掘り返されていく地面を、よろよろと避けながら散らばった。
オプティマスは、ユマとサムの現在位置を素早く認識し、周辺地域の二次災害を防ぐためパニックにならないよう妨害信号を流した。
そして組み付くメガトロンを投げ飛ばした。近くに根付いた大木を引き抜き、打ちつけた。

『弱いぞ!!』

斜面を2体の宿敵同士は転げ落ちていき、メガトロンも、負けじとオプティマスを突き飛ばそうとしたが、向かってくる反動に体が間に合わない。

『メタルの屑が!!!』

殴り合う両者のぶつかり合った金属音は怒りに満ちている。

『ガラクタの…スクラップめが!』

この先どうなるのかわからずに、ほんの十メートル先にいる、激しくぶつかり合うオプティマスとメガトロンを、ただただ木々の間から見守らなければならなかった。
オプティマスが、メガトロンの顔面を思い切り殴った。重い金属が衝突する音が響く。

『ディセプティコン!!!』

メガトロンの呼びかけで降り立ったのは、ヘリコプター型のディセプティコンと、記憶に新しいスタースクリームだった。

『さあ来い、小娘!』
「!!!!!」

オプティマスを見て、それから走った。スタースクリームはこちらを、メガトロンはサムを追いかけている。

『エネルゴンの源がこの地球にもうひとつある!』

懸命にオプティマスは阻止していた。

『小僧が道標だ!!そして貴様が無意味にこだわるそこにいるもう一匹の虫けらはそれを訳す』

メガトロンが、オプティマスの頭部を勢いよく蹴りつけた。バトルマスクが砕かれて弾ける音とともに傷ましい赤いしぶきが散った。

「オプティマス!!!」

ユマはとうとう力が入らなくなった。サムも、同じ名前を叫んでいた。
スタースクリームが切りかかり、もう一体のディセプティコンであるグラインダーにも攻撃を受け、さらにメガトロンの砲撃が命中し、オプティマスの巨体は軽々しく宙を舞った。
目の前に倒れ込んでくる彼の衝撃を、なんとか大木に身を隠しユマは目をつぶった。近くで、サムもその余波を受けた。
オプティマスはユマの無事を確認したあと、殴られて破損した不快な部品を、憎しみを込めて吐き出した。
メガトロンの声はかなり近い場所で聞こえる。
荒々しい獣がうなる音にも似た金属音は、ユマの背筋を凍らせた。
回らない頭を、何度も回転させた。
回転、させているのかも分からない。
想像を絶する恐怖と、劣勢をしいられたオプティマス、どうにもできない自分、対処出来ないことがこれほどまでに重なると、思考が停止する。ただ見ていることしかできなかった。
オプティマスは、何度もユマの無事を、そしてサムの無事を確認した。生体反応を指し示すセンサーを常に気がけた。既に知られていたのだ。
彼女も狙われていた。
自分だけではなく。
サムだけではなく。
人間である彼女と、プライムとしての自分が共鳴したこと、それは───、

『我々の種族の未来よりも、この虫けら二匹の命の方が大事だというのか!!!』

──綺麗事を、並べるな。

「立て、立って!!」

お前は嘘だらけだ、メガトロン
私はお前の欺瞞より
友情と愛を選ぶ───

『─お前がこの二人だけで終わらせるはずがない』

オプティマスの両手が姿を変える。怒りに満ちた武器とともに、勢いよく振り向いた。

『全員の相手になってやる!』

オプティマスの攻撃は、先ほどとは覇気が違っていた。スタースクリームを切り、メガトロンを切る。殴る。次々に襲いかかる三体をものともせず切りかかるオプティマスに、ユマは自分でも気づかないうちに、釘付けになっていた。

『逃げろ、ユマ、サム!!』

目が離せず、ユマもサムもその場から僅かに動いただけで、動向を見続けていた。
オプティマスがスタースクリームの腕を切断する。情けない声をあげるスタースクリームを掴むと、その暴れる砲弾は容赦なく森を破壊した。
そのスタースクリームを蹴り飛ばし、グラインダーを叩き込み、ブレイドだった腕を巨大なシックルに変え、哀れなディセプティコンの顔面を引き破った。

『ブリキの…ガラクタめが』

素早く敵から降りたが、やはり三対一である。傷を負ったオプティマスはよろけて倒れ込んだ。
どこかに隠れているであろう友人の名を呼んだ。

『ユマ、サム!何処にいる!?』

砲弾の音が少なくなり、オプティマスの声が聞こえたので、ユマはいくらか安堵して立ち上がった。彼の顔が見えて、僅かに頬が綻んだ時、彼の背後にいる銀色の存在に、ユマの体が止まった。

そして次の瞬間、金属を突き破った音がした。

星を越えて好きになった相手の胸から、邪悪で巨大な剣がつきだしていた。

『お前は…本当に弱い奴だ』

メガトロンの声が止まると、今までで一番大きな爆発音が森に響いた。オプティマスの胸は高熱の光をだし、撃ち抜かれた。苦しむ叫び声でさえ、その音に打ち消された。

「────、」
『───…』

剣を引き抜かれ、力無くオプティマスが倒れこんだ。巨体が倒れ込むその衝撃にも、ユマは反応出来出来なかった。

『…逃げろ、ユマ…逃げ、ろ…』

ぶるぶると体がふるえた。
あのアクアブルーが、何も映さないグレーに変わってしまう。

───バンブルビー!!サムを逃がせ!!
───ユマは何処にいる!?
───オートボット、攻撃しろ!サムを守れ!!!

オートボットの援軍の声が、遠い。ユマはゆっくりオプティマスに歩み寄った。

『ユマを発見!』
「…いや…」

不意に腕を捕まれた。ディセプティコンではなかった。アーシーだった。

『ユマ!!』
「いや!!!!」

アーシーの手を振り払った。ユマがオプティマスの方向へ叫びながら走ろうとするうちに、バンブルビーが進み出した。

『ユマ、バンブルビーに乗って』
「いや!!いやだ!!オプティマス!!」

オートボットたちがメガトロンとスタースクリームに放つ砲弾をなめらかにかわしている。ユマとアーシーの元に滑り込んだジャズが叫んだ。

『バンブルビー、行け!ユマは俺に任せろ!!』

副官のその声を聞き、バンブルビーが発進し、アーシーが手早くユマをジャズに乗せた。ユマは錯乱状態だった。走り出したソルスティスのドアを必死で叩いていた。

「いやだ!!出して!そばにいさせて──!!!」

ジャズは激しく窘めた。

『助けられた命を無駄にする気か!』

その言葉に、なすすべなく、ユマは泣き崩れた。
こんなかたちで、こんなタイミングで、
失ってしまうなんて思っていなかった。
泣き喚きながら宇宙で一番あたたかい
星さえ超えて愛してしまった名前を何度も呼んだ。
呼び続けたら、あの冷たいカメラアイに、アクアブルーの光が戻ってくるのではないかと
それを信じたかった。

09/07/15