実写/オプティマス | ナノ
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Reason

私にできること

今夜は電話、かかってくるかな。
こうして考えていると、ごく普通の恋人同士のように思う。頭の中で彼との関係、彼の存在を考えていると日が暮れるし、だからといって好きなのは変わらないし、そして幸い、彼にとっても自分は特殊な存在だということは分かるのだ。世界レベルではないにしろ、彼と関われるだけで、他の人が味わうことの出来ない思いを味わうことが出来る。それは幸せな事だ。
けれど、きっとそれは世の中の恋人達が、しょっちゅう思っていることなのだ。自分だけに限らず。
自分たちが特別だと思っている。それでいいのだ。
結局何を幸せと思うかで、人生の歩みの価値は決まるのかもしれない。
オプティマスにとっての自分が、たとえ蚊帳の外にいる70億のひとつに過ぎないとしても、彼をほかの70億よりも近くで想えるだけで幸せだ。
そう思わなきゃ、立てなかった。
彼とは存在が違いすぎる。
それに気づかないふりをしている。でなきゃ一緒にはいられない。
純粋に、出会って間もない時に海を見に行った日に、彼は《君が欲しい》と言ってくれた。
あれから二年。
いつ見限られてしまうのかこわくてたまらない。
それに気づかないふりをしていた。自分はただの人間だ。
仕事から帰宅し、重い荷物をまず降ろす。エコバッグの中にあるミネラルウォーターを取り出した。
汗をかいたペットボトルが、手のひらで気持ちよかった。
ソファーに座って、水を飲んで一息。窓の外を見やると、空はあかね色に染まっていて美しかった。夕暮れ時の日差しは暖かい。
エコバッグから買い物したものを冷蔵庫に移していた時、携帯電話が鳴った。
ため息をひとつついて、ジーンズのポケットから取り出す。スライドさせると、OPTIMUSの表示。

「………」

しばらく鳴り響く電話を無心で見つめていたけれど、切れてしまうのが怖くて通話ボタンを押した。努めて明るくした。彼は今問題を抱えていると言っていた。それがなんにしろ、こちらの不安や問題は、きっと蟻よりも小さなものでしかない。

「もしもーし!どうしたの?」

にこにこしながら、彼にそれが伝わるように、出来るだけ優しく言葉を発した。声音に気をつけた。

『──ユマ、部屋を移してくれ、話がある。顔を見て話がしたい』

どきり、とした。
別れたいとか言われたらどうしよう。
君どころではなくなったんだ、もう終わりにしたいとか言われたらどうしよう。

「あ、まだ夕方だよ?そんなに私の顔が見たいの?」

ホームシアターのある部屋へ移動する。笑っている顔が引きつる。喧嘩している訳でもないのに想像が行き過ぎるとこんな被害妄想をしてしまうのだ。

『──ああ』

なぜか泣きそうになった。
けれど消え入るような、元気のないその声に、自分の考えはどんどん消えていった。

「オプティマス?」

部屋に入り、彼の顔が見えると安心した。今はロボットモードだ。
基地ではないようだった。

『───…………』
「大丈夫…かな、元気ないね」
『──そう見えるか』

青く光る目が、俯いている。また不安になった。問題は深刻なのかもしれない。沈黙に勝てずに、話題を考えた。

「あ、上海のニュース少し見たよ!!あーえっと、みんな大丈夫だった?アーシーやアイアンハイド、それからラチェットは元気?サイドスワイプは?あ、ジャズとも話してないね、みんな元気かな」

まくし立てるように口から言葉がこぼれ落ちてくる。元気づけてあげたいが、方法がわからない。原因がわからないから余計に。しばらく沈黙が続いた。

「──…オプティマス?」
『頼みたい事がある』

オプティマスから頼み事があるなんて吃驚して瞬きが増える。

「なに?どうしたの?」
『──今日、サムに会った』

サム、と聞くと、これは地球規模の大きな問題である気がした。
サムはオプティマスを介して知り合った友人だ。宇宙人に地球人を紹介してもらうのは奇妙な話だが、二年前に共に戦った人間の事は、今NESTとして動いているレノックスやエップスを含め、殆ど知っていた。
彼が教えてくれたからだ。

「うん。サムがどうしたの?」

オプティマスは簡潔だ。頭を整理しながら聞かないといけない。

『──保管していたオールスパークの破片が盗まれた。サムはそれに関わる重要なものを持っている。彼はまだ完全にはそれに気がついていない。そしてそれをディセプティコンが狙っている』

ディセプティコン。
胸騒ぎがする。何度か頷いた。

「…うん。それで?」
『──もちろん我々はそれを全力で食い止めるつもりだが、あいにくサムから協力を得ることが出来なかった』
「……、」
『──君からもサムに説得を頼めないだろうか』

瞬きが早くなり、オプティマスをただ見つめることしかできない。

「私から?」

ああ、と頷くオプティマスは、さらに続けた。

『君は彼と同じ種族であり、私とも繋がりがある特別な人間だ。サムに通じるものも多いだろう。君の言葉でなら理解を示してくれるかもしれない』

この気持ちをなんと表現すればいいのか、分からない。自分にも誰かを救える手があるのか。

『──いずれサムの命は危険にさらされるだろう。そうなる前に、』
「分かった、すぐ出るね」

迷ったり躊躇する事は頭にはなかった。オプティマスは、少し安堵したようにちいさく頷いた。

『──感謝する。それからすまない。君を巻き込みたくはなかった』

オプティマスの言葉に一瞬だけ止まり、それから立ち上がる。眉を顰めカメラを覗き込んだ。

「まきこむとか、そんな風に思ってた?なんかちょっとショック」
『──ん?』

オプティマスの瞬きするスライド音が拾われる。
ため息をして、穏やかに笑って、出来るだけ彼を安心させたかった。

「最終的には、私にも降りかかってくることなんだから、状況を理解してる人が出来るだけ誰も傷つかないように協力し合おうってことだよね?遠慮しなくていいのに。もうこの星のひとだよ、オプティマスは」

しかしオプティマスは首を振った。

『──少なくとも、決定権のある連中はそうは思っていない』
「…それを変えることが出来るのね、サムは。オプティマスは自分の任務のこと、仲間のことを考えてね。こっちはなんとかするからね」

ゆっくりと見つめてくる彼に、微笑んだ。

『──感謝する』

09/07/03