実写/オプティマス | ナノ
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Reason

少年の価値観

明日の朝食べるヨーグルトにかける、レモンシロップを作っている。料理は昔から大好きだ。可能な限り自分で作る。
21時をまわり、オプティマスと過ごすようになって見るのが癖になってしまったイブニングニュースが、スポーツ報道に変わる。それを確認した時、ジーンズのポケットで、携帯電話が振動した。
レモンを切っている爽やかな香りが漂う手先を洗い、丁寧にタオルで拭き取ると、長く鳴るポケットの振動に焦り、ちょっとイライラした。はいはいはいはい、と言いながらスライドさせると、ディスプレイに表示された名前に、イライラは一瞬よりも短い時間で消え去った。この名前の威力は偉大だ。

「もしもし!」
『──出るのが遅かったな』

優しさの混じった低い声の主が、受話口の向こう側でどんな表情をしているかは分かる。
表情があまりない方の大きい姿だとしても、分かる。

「ごめん、手を洗ってた」
『──何かを中断させてしまったのか。すまない』

ううん、と答える。

「もうそんな時間だっけ?待って、すぐ部屋を移動…」
『──いや、今日は時間がない。また今度になりそうだ』

え、とユマが間の抜けた声を出す。
Webカメラを繋いだホームシアターのある部屋で、顔を見ながら話をするといういつもの流れになるかと思っていたので、移動をし始めていた体が、オプティマスの声に集中して止まった。

『問題が起きたのだ』

オプティマスに直接繋がっているこれは、ディセプティコンに傍受されることのない、オートボット製の特殊なものらしい。周波数がどうとか。オプティマスは説明してくれたがあまりわからなかった。とにかく、この電話なら恥ずかしい話(は、あまりしないが)も、秘密の会話も出来る。けれど今夜のオプティマスは、明らかに何か思いつめているような雰囲気を醸し出していた。それは彼の声でわかる。
Webカメラでデートが出来ない事は残念、と思いながらも、またその浅はかであろう考えを、素早く切り替えて頭の隅へ片付けた。

「何かあったの?大丈夫?」
『──大丈夫だ。あまり時間はないが』
「今基地じゃないの?」
『──移動している。明日はゆっくり話が出来ればいいんだが』
「うん、大丈夫大丈夫。あ、わざわざそれを言うためにかけてくれたの?」

オプティマスは、黙っていた。

「…オプティマス?」
『──心配は要らない。だが問題が深刻化するかもしれない。しばらくそちらに戻れそうにない。君が心配だ』

鏡に映った、化粧をして髪をおろした自分を眺めた。
電話をする前に化粧をしておいたのは今回は無意味だったが、そんな自分が愚かに見えるのは何故だろう。声音を変えずに、笑顔を作った。

「私は、大丈夫だよ」

それしか出来なかった。

『明日また、連絡する』





破滅も、存続も紙一重だ。
心もまた、自由にばかりとらわれると、大切な事を見失う。それが大切な事なのかどうか、最後までわからない命もある。ギャロウェイに言い返した真実そのものが、平和に対する問題となる可能性を大きく持っているのだ。
すべてにおいて人類は粗野であり、何千、何億年と積み重ねてきた文明と進化は、やはり吹けば飛ぶような土台のもとに生きている。
オールスパークの破片は協力と信頼の証だったのだ。それが盗まれた今こそ、人類とオートボットが力を合わせる時だ。
この星の、命の自由と平和を望めばこそ、自分たちの力は必要だ。だがそれだけでは不足する。"協力"が必要なのだ。
世界を動かせる組織がせっかくあるのに、連携を組めないのは致命的である。
残る希望は彼しかいない。我々と人類を繋ぐ人物。二年前に共に戦ってくれた、あの少年。
バンブルビーに通信を入れたのは昨夜。落ち合う場所は、一番適している場所と判断した。



「たったの一日も放っておいてくれないの?ユマは元気?」

軽い挨拶代わりのサムの発言に、人間の若者らしい価値観だと、オプティマスは思った。尊重したいが、如何せん手段も時間もない。

『すまない。オールスパークの破片が盗まれたのだ』
「盗まれた?ディセプティコンに?」

驚いたサムの表情を読み取った。
ユマの名が出たのに無視をして要点を述べたことで、ただならぬ雰囲気は伝わったのか、みるみるうちにサムの表情は固くなっていった。だがまだどこか他人ごとだ。

『政府の要請により我々はあの破片を人類の保護管理下に委ねた。人類への信頼の証として。人間へ保管を任せていたが…力を貸してほしい、サム。政府は我々が敵の襲来を招いたと思っている。…その通りなのかもしれない。だが彼らに真実と現実を教えなくてはならない。人間である君から説得してくれ、信頼関係を取り戻したい』

サムはしかし首を振った。

「僕の戦いじゃない」
『今はな。だがいずれ戦うことになる。地球を、我が星サイバトロンと同じように、滅ぼすわけにはいかないのだ』

彼に伝わらなければ元も子もないのだ。手遅れになってはならない。

「わかるよ、そりゃ、助けたいとは思うけど、僕はエイリアン友好大使じゃない。どこにでもいる普通のガキなんだ。これが僕なんだ」

サムは、困った顔をしている。

「ごめん…、本当に」

そう言ってバンブルビーの方に去っていこうとするサムを見やる。
今は彼にとってそれが全てなら、それは尊重するべきなのかもしれない。今言えることだけを言った。

『サム、運命とは、時を選ばずに訪れるものだ』

サムはオプティマスに手を振った。

「君はオプティマス・プライムだよ、大丈夫さ」

サム、君はまだ気がついていない。遠くなっていくサムを見つめることしかできなかった。

『…君が必要だ。君が思う以上に』
09/06/30