実写/オプティマス | ナノ
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Confiance

敵は誰だ

レセプションルームの扉は固かった。だいたい、基地の中の扉という扉が、みな固い。分厚くて厳重だ。やっとの思いで開けた先で、ソファーに横たわる若い男女と目があった。二人とも時が止まったかのように微動だにせずこちらを凝視している。衣服が若干乱れている。いい意味でも、悪い意味でもナイスタイミングだったらしい。目の前の情報を読み取った体は、反射的に扉を閉めようとした。「すみません!」と口から出る。
しかし、…先程も言ったが、扉が固くて閉まらないのだ。思ったより手間取った。

「し、閉まれ!閉まってよ!ごめんなさいね、すぐでますから」

焦り、そして唸りながら閉めていると、若い男性があわてた様子で口を開いた。

「ああ、待って!君!」

思わず手を止める。彼女の方が、捲り上がっていた自分のシャツをもとに戻しながら黒くて長い髪を整えている。

「僕たちが悪いんだ、ここは…そう!公共の場所だもんね、ごめん!よかったら一緒に混じって…ああっ、じゃなくて、入って」

彼女の方が、つまらなさそうにため息をついた。おそるおそる中に入る。

「お、お邪魔します、…正直、ここ以外行くところがなくて。ここにいろって指示されたから…」
「ああ、もちろん!うん、ぜんぜん問題ない。そうだよね、だってここはそのための…部屋だもんね」

色々言葉を考えながら話した。多分被験者なのだろうとは思うが、どこまで話していいかわからない。そう思いながら近くでそのカップルを見ると、男性の方に見覚えがあった。いつかオプティマスに見せてもらった映像の中にいた人物だということがわかった。

「それで…」

男性は言葉を考えている。

「君も強制連行されてきたの?」

彼の言葉に、少しだけ政府に対する不満が見て取れた。そのおかげか、自然と警戒心がなくなっていくのを感じた。表情を和らげて頷く。

「じゃあ仲間だ。みての通り、ほら、僕らも。僕はサム。いつになったらふつうの生活が出来るんだって思うよ、もうほんと」

少しだけ頷き、「私はユマ、よろしくね」と手を差し出した。奥のぶっちぎりの美人にも。正直さえないこの彼には、もったいないような容姿の彼女は、「ミカエラよ」と白い歯を見せた。

「ユマ…」
そうつぶやきながら、サムは何かを思い出すように視線を一点に集中させている。…だが、すぐに頭に電球がついたらしい。

「オプティマスの!」

サムの目はきらきらしている。「君だったんだ!」と興奮したように再度握手を求められた。オプティマスが自分の話を他人にしているなんて思わなかった。
少し、うれしい。

「君のこと、知ってるよ。オプティマスから何度か」

サムは得意げだ。

「あなたの事も、少しオプティマスから」
「本当に!"命を救ったヒーロー"?」

ゆっくり頷いた。

「"サム・ウィトウィッキー。アーチボルト・ウィトウィッキーの子孫"」

オプティマスの声を真似て、腹から低い声を出したが、あまり似なかった。けれどもサムは大喜びだった。ワーオ、と言いつつうれしそうな顔をして、「僕って有名人?」とミカエラに振り返った。

「ええ、そうね。曾々お祖父ちゃん付きで覚えられてるんじゃ、悪いことはできないわよ」

三人で笑いあう。一番最初に笑うのをやめて心配そうな顔をしたのは、ミカエラだった。

「大丈夫?ここに入ってくる時…、なんだか思い詰めた顔をしてたけど」

するどい洞察力がある落ち着いた彼女に、驚いた。

「うん、大丈夫。ただちょっと…結構つっこんで聞かれるし、体もたくさん検査されるしで」

サムはやっと落ち着いた様子に戻った。

「わかるよ。僕なんてさ、あ!言い忘れてたけど、僕の友達はバンブルビーなんだ。知ってる?ラリーイエローの」
「一回会ったよ、フーバーダムで」
「うん、その話も聞いたよ。君のことを話すときのオプティマスは…いい顔してる」

そうなんだ、知らなかった。知らないことだらけの自分に呆れる。

「もちろん、笑顔とかじゃないんだけどさ、そりゃロボットの笑顔なんて…見ても分かんないしね。ただ、いつも難しい顔をしてるけど、君の話をするときは、ぜんぜんそういう顔をしてないんだ」

サムの背後、肩からにょきっと出てきた笑顔のミカエラも、リラックスした表情に変わる。

「ねえ、普段の彼ってどんななの?」
「え?」

思わずたじろぐ。

「オプティマス。普段もあんなド真面目な話し方をするの?」

二人とも、オプティマスと自分の生活に興味津々だ。なんだか、"うまくいってないよ、ていうか半分終わってるようなもんだよ"と切り出しづらい。

「あ、あー…えーと、…」

言葉を発している途中で思わぬ救世主が現れた。背後の扉が開き、マギーが戻ってきたのだ。マギーは予想を上回る人数の関係者がここにいるのを確認すると、「あら、久しぶりね」と軽く挨拶をした。サムも「どうも」と答える。

「あ、知り合い?なの?」

マギーとサムを交互に見た。ミカエラが「ええ」と頷き、マギーが「彼らが地球に飛来した時にね」と言いながらパソコンを立ち上げ、サムが得意な顔をして「運命的に出会ったんだ」と続けた。頷きながら、本当に知らないことばかりだと思った。

「ちょうどよかったわ、個別に説明する手間が省けるから」

マギーがPCから全く視線をはずさず、そう言ったところで、突然の呼び出し音に吃驚した。マギーの携帯電話が鳴ったのだ。作業の手を止めることなくそれに出た彼女を、慎重にユマは覗き込んだ。

「もしもし」
「──マギー!?」
「何かわかった?」

甲高いが男性の声だ。音が漏れているから相当な声量なのだろう。
不安になりマギーを見つめると、目があった。マギーは不安を払拭するように笑った。

「アドバイザー、私の」

なるほど、と頷くと、電話の向こうの相手は怯んだように小声になった。

「──おいマギー!誰かいるのか?」
「平気よ、今メインに繋ぐわ」

PCから、発信元の声が聞こえた。

「──傍受は?」
「信号なし、大丈夫。話して」

マギーが手早く小さなUSBを差し込むと、紫色のグラフが写った。

「──言われた通り、過去50年間S7に関わってる人間を全員調べたんだが──……」

PCから聞こえる電話の声に混じり、録音しておいたバナチェックの声が再生される。

≪──ここではたくさんの国が動き、協力して彼等の敵であるディセプティコンと戦っています………≫

「───ブライアン・バナチェックは3ヶ月前から突如リストに現れたホヤホヤの新人ちゃんだ」

マギーの顔色が変わる。

「3ヶ月前ですって?」

窓辺にいたサムとミカエラが興味深そうに近づいてきて、マギーの背後からPCを覗き込んだ。

「──ああ。けどその前のパーソナルインフォはトンチンカン。全くのデタラメだ。だがずいぶん昔からデータが残っていたかのようにしっかり細工してある」

ジジ、と音がする。

「ねえ…、何してるの?」

恐る恐るミカエラがマギーに尋ねた。

「分析スキャンをかけてるの。…グレン!」
「──ホァ!?なに!」
「今データが出来たから、そっちに送る!」
「──よっしゃ!」

マギーはミカエラに答えたあと、忙しそうに作業を続けた。

「グレンは、直接ペンタゴンにいる訳じゃないし、所属もしていないけど…、この分野に関していえば多分世界で五本の指に入る天才よ」

送っている間、マギーが小さな声でそう言った。誇らしげに。

「──おぁあ!!きた!」
「お願い」

データが行ったらしい。全く何をしているのかはわからないが、とにかく彼らはバナチェックの声を調べているようだった。

「───…マギー…、こいつぁ…」
「どう?」
「真っ黒だ」
「やっぱり」

ふたりの暗号のような会話に、サムがとうとうしびれを切らした。

「なに?何の話をしてるの」

マギーが獲物を狩るような目でPCを睨んだ。

「彼、トランスフォーマーよ」

その場にいる全員が固まる。サムが落ち着いて感想を述べた。

「最高だね、オートボットじゃないよ、絶対」
「何が目的なの?」

目的、ミカエラのその言葉。
確かにもしバナチェックという男がトランスフォーマーだとしたら、敵側のスパイかなにかだろう。オートボットに正体が暴かれないように任務を遂行しているはずだ。だとしたら、狙いはなんだろう。危険な敵地にきてまで、遂行しなければならないことはなんだろう。彼が欲しいものが、何かあるはずだ。彼らは何を巡って戦争していた?

──同盟の証は、オールスパークの欠片だ。我々の命の源。それを基地に保管している。ディセプティコンに渡してはならない───

「"オールスパークの欠片"…」

思わず呟いた言葉に、サム、ミカエラ、マギーの全員から血の気が引いた。

「あるの?ここに?この…基地に!?」
「軍の保管物は最高機密よ。私も知らなかったわ」
「ああっ、それマズいよ…」

サムが弱気に呟いた瞬間、ドン、と通路で激しい音がした。全員が静止して目を泳がせている。
マギーが静かに振り向いた。

「今すぐ研究室のセキュリティを解ける人を捜さなきゃ」

2010/08/24