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Confiance

密室ラッキー/サムとミカエラ

バナチェックが「残念です」と言うか言わないかのところで、「何やってるのよ」という声が今度は向かい側で聞こえた。ブロンドに控えめな鼻ピアス。最初に知り合い、ディエゴガルシアへ連れてきた女性、マギーだ。

「今は被験者に尋問していい時間じゃないはずよ」

バナチェックは少しだけ笑って、「確かにそうですね、失礼」と言った。マギーの怒った顔にはもう慣れた。会うのはまだ二回目だが。

「行きましょう、ユマ」



「ねえサム、いつまで私たちここにいればいいの?」

レセプションルームはがらんどうだが、上質なレザーのソファーは身の沈み具合が最高に気持ちいい。強化ガラスで出来た分厚くて小さな窓から見える朝日が、だんだんと白昼色になっていくのを眺めながら、ミカエラがつぶやいた。

「さあ。テーマパークみたいなもんだね。朝早くから並んでいるけど、なかなか中に入れてもらえない」

太陽に反射してブルーグレイが透き通るミカエラの瞳は、びっくりするほど綺麗だ。サムはいくつかまばたきをして、それからさりげなく彼女に腕を回した。

「だけどさ…、僕思うんだけど…」

腕を回した事に気づいたミカエラは振り返ったが、表情は空っぽだった。

「最近、私が悩んでること、知ってる?」
「え?」

突然切り出され、サムはぎくりとした。彼女の事は小さいときから知っているが、深く知ったのはここ一年だ。ここには二人きり、いい雰囲気だと思っていた矢先。気まぐれな恋人に出端をくじかれ、怯んだ。

「なに、何か悩んでる?」
「…………」
「その…、学校?筋肉マンにいまだに迫られてるとか?」

ミカエラが顔をしかめた。

「誰のこと?」
「何でもない、話して。何でも。君の悩みは…、僕の悩みだ」

首を傾げた時に、彼女の長くて美しい髪が鼻にかかった。さりげなくそれを避けながら、顔をのぞき込む。いいぞ。いい感じだ。

「…いつ勉強したの?」

ミカエラの問いに、頭が真っ白になった。

「何が?何のこと?」

まばたきが早くなる。

「SATよ、2000点を超える人なんて、うちの高校に今までいた?」
「どうかな?僕みたいな人はいっぱいいると思うけど」
「遠い大学へ?」

ミカエラが不安を抱えた目で見ている。

「…ニュージャージーで一緒に暮らすんだ、君もね」

彼女は諦めたように首を振った。

「無理よ。パパの仮釈放が決まりそうなの、そばにいてあげなきゃ」

サムはしっかりと彼女を見た。しかしこれ以上何も言えそうになかった。彼女のように家庭の事情が複雑な場面を、自分は今までの人生で経験したことがない。だから軽はずみなことを言えない。

「あなたが離れていくなら仕方ないと思ってる」
「まさか。君を…」

次に続く言葉を思わず口に出しそうになり、そして次の瞬間、言う勇気がしぼんだ。彼女は本当に自分には勿体無いくらい美人だ。見つめ合って、言葉に詰まる。

「…"私を"?」

ミカエラが得意げに顎を上げる時、無条件にスタンバイしてしまう下半身に、冷や汗がでる。
鎮まれ鎮まれ、ここは基地なんだぞ。サム・ウィトウィッキー、お前はそんな節操のない男ではないはずだ。今までだって彼女を大切にしてきた。野獣みたいに奇襲をかけるのは簡単だが、そうしたことはない。
思わず唾を飲み込んだ。

「サム…」

キスの雨は甘くて優しかった。どうにも我慢できそうにない。

「ねえミカエラ、聞いて。僕たちは普通じゃない縁で結ばれたよね…、そう。一緒にエイリアンを見つけた。そういう切羽詰まった状況でくっついたカップルは…」
「"すぐ別れる"?」
「一般的にはね。サンドラ・ブロックがそう言ってた。キアヌ・リーヴスだっけな?ああ、どっちでもいいか。だけど僕たちは違う。もうすぐ一年だ。だから、そう、…節目だよね」
「ふーん、そ・れ・で?」

唇は優しく妖しく弧を描いている。

「だから、その…」
「……」
「進むんだ、先に」

彼女の表情を窺う。少し考えて、それからより妖艶になった目と唇にふたたびたじろいだ。

「確かにそうね、いい考え」
「本当に?君もそう思ってる?」

アイコンタクトを取ってすり寄る愛しい彼女に、サムは目を丸くした。

「え、今?」
「そう」
「い、いま?ここで?」
「もちろん」
「こんな…、こんな場所で?」
「…問題ある?」
「ない、です…」

両脇の視界が漆黒に変わった。目の前に、何度見ても美しいと心から思う顔がある。もう僕たちの世界だ。



マギーの足が長くて、通路をついて行くのに必死だ。

「それでユマ、アレ…、どうだった?」

彼女が言っているアレが何のことなのかすぐわかった。

「それなんだけど…」

無言で立ち止まり、「とれた?」と聞かれ、手を差し出された。頷き、ポケットからボイスレコーダーを出し、ため息を吐きながら元の持ち主に返した。

「内容は本当に…、なんていうか…、あんまり役に立つような情報じゃない気が…」

誰が金属生命体と人間との常軌を逸する性生活に対する質問を聞きたがるというのだろう。

「いいの」

驚くことに、マギーはその場で素早くボイスレコーダーの蓋を開けた。中から小さなカードが出てきた。手に持っていたファイルの中からモバイルを取り出し、それらを接続させている。ずぶの素人には何をやっているのか全くわからなかった。

「一秒でもいいから、声さえとれればよかったの」
「え?」

マギーは歩きながら作業を続け、それからああ、と嘆いてため息を吐いた。

「やっぱりこの小さいのだけじゃだめね」
「さっきから何を…」
「パソコンを取ってくるわ、この先にあるレセプションルームにいて。そこなら被験者が出入りしても怪しまれないわ」

もときた道を戻るマギーを見つめたが、訳が分からなかった。とにかくマギーは切羽詰まった顔をしていたから、追いかけない方がいいと判断した。首を傾げ、ゆっくりと"応接室"と書いてある扉を開けた。

2010/08/22