実写/オプティマス | ナノ
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Confiance

大切なのは会話だとか

いったい何度目かわからないため息を、惜しげなく吐き出した。いくら出しても、そばからため息がたまっていく。あ、だから"ため息"っていうのか。納得です。あの後オプティマスと別れ自室に戻り、結局一睡もできなかった。昨夜は頭に血が上ったし、どうしてあんな事になったのかわからなかった。
基地にはいつの間にか朝がきていた。食堂には丸太のような腕をした兵が続々と入ってくる。今日の任務に応じた食べ方なのだろう、トレイに盛られた食材が山盛りだ。
ここで食事を摂るのにも慣れてきた。頭のなかの計算では今日がこの基地で過ごす最後の日となるはずだ。

「…一人か?」

背後から声をかけ、問いに答える間もなくさらっと向かいに腰掛けてきた男に目を丸くした。記憶に新しい、昨日出会ったばかりの男。

「少佐」

その後ろから、黒光りの男性と、レノックスとたいして変わらない背丈の男性が覗き込んでいる。男性らはレノックスにつられるように隣に腰かけたが、すべての視線はこちらに向けられたままだった。

「…誰?」

黒人兵の問いに、慌てて答えた。

「ユマです」
「ほら、リーダーの」
「あ、…」
「ああ、なるほど」

レノックスが付け加えた言葉にかなり焦ったが、反論は間に合わなかった。軍人はせっかちだ。

「………」
「またずいぶんと朝が早いな、あんた。寝てないのか?目の下にクマ、できてるぞ」

ここんとこ、と丁寧に場所まで教えてくれた黒人の透明で丸い目に吸い寄せられ、そしてざっくばらんな問い方にたじろいだ。たじろぐ必要なんてないのに。

「悪い、言葉を選べなくてな、こいつ。これでもうちの技術軍曹なんだ」

レノックスの紹介に、軍曹は白い歯を見せて「ロバートだ。ロバート・エップス」と言った後、もう一人の男性を顎で示し、「ちなみに隣の気になるイケメンは英国紳士グラハム君」と付け加えた。グラハムが「どうも」と言いながら握手を求めてきたので、それに応じる。朝食を乱暴にかつ豪快にかきこむ兵士達の風景には慣れた。

「それで?」

レノックスの問いに、うらめしい表情がでていたのか、「分かりやすいな君は」と笑顔を返された。

「難しいです。私達は分かり合えない立場同士だと思いました」
「…………」

エップスが食べるのを止めずに、割って入った。

「まあ…"固そう"だもんな、頭」

言いようのなさに顔色を窺って、なあ?少佐?というエップスに、レノックスは顔を一瞬だけ捻らせる。そこへ天然グラハムが「アイアンマンを地でいく連中ですからね」と付け加えた。空気を読んでいない同僚二人に、レノックスは仕方なさそうに「まあな」と答え、朝食をがっつく動作を一旦やめ、肘をテーブルに乗せた。それからこちらをまっすぐに見つめた。

「…ユマ、聞いてくれ。俺達だけじゃ敵とは戦えない」
「………」
「だがどうやら俺達だけで戦っていく方法を政府は探しているようだ」

握っていたマグを置き、首を振った。

「私は何の情報提供もできません、何も聞いてな…」
「種類が少なすぎるのよ!もう限界!こんなとこ出て行ってやるわ!」

声がしたのは、カウンターの方だった。どうやら声を荒げている女性はコーヒーの種類が少ないとご立腹の様子だった。この基地に似つかわしくないふくよかな男性が、夫人であるのだろう憤っている女性を窘めながら言い含めている。恐らくトランスフォーマーと関係のある民間人だろう。その場にいる全員がカウンターに釘付けになった。

「ジュディ、スターバックスじゃないんだぞ」
「どうしてラテにできないの!」
「ジュディ、」
「もう三日もこんな保存料の塊みたいな食事なのよ?何の悪いこともしてないのに!」
「それも今日で終わりさ、ここにいる連中に守ってもらってるんだ、日常を。もっと感謝しなきゃあ」「囚人になった気分!」「ジュディ…」

ふくよかな男性は、朝っぱらから繰り広げられる非日常に目を丸くする周囲のギャラリーを見渡し、「羨ましいか?円満の秘訣は会話をすることなんだ。妻はコーヒーにうるさくてね」と言った。

円満の秘訣、か。
黙ってそれを眺めていたレノックスと目が合った。

「…だそうだ」
「…………」
「いくらでも軌道修正できると思うぞ。人間同士だって分かり合うのに四苦八苦するんだ、君達なんて奇跡じゃないか」

レノックスはそう言い切り、手首にはめた幾多の戦いをともに過ごしてきた狂わない腕時計と二人の仲間に「行くぞ」と言い、食べるのも半ばにトレイを持ってカウンターの方へ歩いていき、かんしゃくを起こしている夫人に落ち着くよう声をかけた。
それをぼんやりと眺めていると、近くで声がした。

「まさかレノックス少佐ともお知り合いだとは思いませんでしたよ」
「!!」

ねちこいが温度のない、独特の話し方。作業着姿のバナチェックだった。

「びっくりした…」
「ああ、すみません」

苛々が募るのはこいつの話し方のせいなのか何なのか。

「変装までして監視ですか」

嫌味だって言いたくなる。

「まさか。私はこれでも研究員なんですよ。仕事着です、仕事着」

腕についている星条旗と、"IF I TELL YOU, I HAVE TO KILL YOU"と書かれた文字のマークをホラ、といいながら見せてくる。
精いっぱい興味がないふりをする。そうすればなんとなくすっきりするから。バナチェックはお構いなしに喋り続けた。

「昨夜はオプティマス・プライムとどんなお話を?」

まばたきを忘れる。無性に背筋が粟立った。

「…もう、何もお役に立てないと思います」

心からの言葉でそう言った。

「…そうですか」

バナチェックは笑っていなかった。

「…残念です」

2010/08/21