実写/オプティマス | ナノ
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Confiance

衝突

──オートボットに希望を与えたくありませんか?歓迎される存在にしてあげたいとは思いませんか?あなたが、それを可能にするのです───
自室に戻っても結局、答えを出すことが出来なかった。ぼんやりとしたオプティマスの顔、思い出せなかった。時々こういう事がある。はっきり思い出したいと願うときに限って、頭の中の彼を呼び出すことがかなわない。結局、自分の存在が彼の首を締めることになるのではと思った。色々考えて、なぜか考えたくなくなった。頭がひどく疲れている。設えられたベッドで横になり、考えたくないときは寝るのが一番だと思った。
瞳を閉じた瞬間に電源の入っていない携帯が、唸って規則正しく震えた。

「うわ!!」

これを繰り返していたら携帯電話が壊れてしまうのではないか、と思った。いくら新しい機種でも彼らにとっては化石並みの骨董品であるのに変わりはない。やはり画面には、OPTIMUSと表示されている。戸惑った時間は一秒より短かった。レノックスが伝えてくれたのだということ、今夜会えるかもしれないという希望、電撃が走るように思い出した。

「もしもし!…」
『──私だ』
「うん、……」
『──なるべく音をたてないように扉を開け、外に出ろ。方向は私が指示する』

今から会えるのだという思いは、オプティマスが説明している間に勝手に足を動かしていた。会って話をすれば、「大丈夫」と笑いあえる。きっとそうなれる。




「被験者に動きが…彼女が部屋を出たぞ!」

通路に立つ研究者が、バナチェックに通信を入れた。

「──追いますか?」

しかしバナチェックは口角を上げて、あわてる様子もなく答えた。

「いや、想定内だ。放っておけ」



格納庫のちょうど裏側だ。彼のヘッドライトが自分を照らしている。ボディのブルーは光を飲み込んで深みを帯び、いつもは派手なファイアパターンは控えめで、夜のオプティマスは昼間とは全く異なる装いに思えるのが不思議だ。とにかく、何にしろこのトラックは静物ではない、躍動している生命なのだとはっきりわかる美しさだった。
勢いよく運転席のドアが開いた。黙って彼に足をかけ、乗り込む。
走り始めて、10分。軍用の味気ない施設を抜けて、海沿いに出た。

「…いい人だね、レノックス少佐」
『私の最も信頼している仲間のひとりだ』

少し、心がほころぶ。同時に、何か切ない。自分はそこには入れない。入りたいとも思わない、しかし切ない。それをうまく言葉に出来なかった。何か言おうと思っても、ため息が出るだけ。
オプティマスは浜辺に停止し『降りてくれ』と言ったきり、さほど周りを気にすることなく擬態を解いた。ヘッドライトをつけたまま、砂浜を照らしている。おかげで流木に足を引っ掛けることなく歩けた。

「ありがとう」

大きな足をかわすたびに出るがたりがたりという音は、砂がいくらか吸収してくぐもった音になった。目の前に広がる海は真っ黒だ。

「夜の海は怖いなぁ…」

オプティマスは海を見るわけでもなく、ただ静かに発光した瞳をこちらに向けていた。何か言いたげなようにも、何も言いたくないようにも見えた。

「…何も聞かないの?」
『顔を見ることが出来た。それで充分だ』

そう言って、オプティマスは視線を海へと向けた。それをただ見上げた。

「色々、聞いた。今オートボットがどんな立場にいるか、とか」

金属が擦れる音と、電子的な音が混じり合って、オプティマスは視線をこちらに戻した。

『それで?』
「政府の人達は…武器が足りないって困ってた。オートボットみたいな強力な攻撃ができれば、NESTはディセプティコンに対してもっと戦力になるって」
『…………』
「武器に威力が欲しいからオートボットに助けてほしいって」
『…それは出来ない』

オプティマスから返ってきた答えは、彼の信念を知っているからこそ意外に思えた。

「…手伝ってあげられない?私、オプティマスや他のオートボットが気兼ねなく地球に住めたらいいのにって思う」
『我々もそれを望んでいる。…だが我々の水準である武器技術の負荷に、この星が耐えられるとは考えられない』

納得した。その通りだ。

「そうか…そうだよね…ああ、そのへんは頭になかった」

ごめん、と付け加えた。

『この技術が応用され、人間同士の戦争にまで利用されてしまうのは我々の本意ではない』
「…そうだよね」

体をこちらに向けて、オプティマスは鋭い視線を向けた。今までのそれとはどことなく違う、厳しい眼差しだった。

『今夜はそれを私に言うつもりだったのか』
「ん?」
『君の提案なら、私が受け入れると思ったのか』
「違うよ、それは違う」

大げさに首を振った。なんでこうなるんだろう、どうして私たちが喧嘩をしなくてはならないのだろう。

「ご、ごめん、何も知らなくて…、水準とか、そんなのは…」

自分はどうして謝ってるんだろう。

『この星で過ごすうちに、君達の文明について調べた。人間は未完成で、まだ学ぶべきことが多い未熟な種族だ。重ねてきた文明も、吹けば飛ぶような脆いものだと分かった』

疲れているからか、なんなのか分からない。頭に血が上った。少しだけ。

「………その未完成な私と、付き合って"くれてる"わけだ、オプティマスは」

オプティマスは首を傾げた。

『その表現は正しくない』
「………」
『………君に欠けている所があるとすれば、それは自信だ。自分を信じる心、己への信頼』

何で今、こんな会話になるのか。今自分達はどこにいるのかさえわからず、バラバラになった気分だ。

「それは…、それは、オプティマスぐらい長いこと生きてれば自信だって持てるでしょ」
『自信とは生きている時間が作り出すものではない。大切なことは、どう生きるかだ。正しいと思えることを選択できるか、そしてそれが正しく進むか。それこそが本物の自信を培う。私はこの一年間の君しか知らないが、その感性を充分養っていると認識している』

オプティマスが認識してくれたその半分の強さでも、自分にあればいいのに。

「そう…」
『君は…』
「いつだってオプティマスは正しいと思うよ」
『………』
「正しい。いつも自信がある。私はその正しさに巻き込まれてるだけで、だからそんな風に見えるんだよ」

深呼吸をした。それなのに、どんどん胸の奥をせき止めていく苦しさに、どうにもこうにも勝てそうにない。

「たくさんのことを見てきたオプティマスに、私はどう写ってる?未熟ですぐ吹っ飛んじゃう文明を築き上げた末裔?多分、オートボットとディセプティコンにはそう見える?私たちはだけど"未熟で精一杯"で、今選ぶ言葉が正しいのかさえわからない」

オプティマスは表情を変えなかった。ただ静かに割って入った。

『時がくれば、それを知る術はいずれ養える』

初めて彼を無視した。止まらなかった。

「ここにきて気づいた。私たちはあと一歩のところで、どうしても近づけないところがある。それが何なのか」
『………』
「違わないと思ってた。でも私たちは違う。未来まで見据えるその目の正しさに、私はどんどん自信をなくしていく」

ただ一緒に生きたいと願っていた。支えになれるよう祈っていただけなのだ。

「中身が空っぽの自信がなくなってただの空っぽになった」
『自分を卑下するのは君らしくない。それは君の真実ではないはずだ』
「これが私…周りに左右されてばっかりで、余裕がなくなったこれが私の真実だよ」

もう無理だ。ハードルが高すぎる。人間だ、未熟だ、とバカにされながら恋愛するのは、心が耐えられない。彼と自分は違うのだ。

「疲れた…、もう帰りたい、もう…嫌だ」
『……それは、私との別離を意味しているのか』
「………」
『…君がそう望』
「"君がそう望むなら、君の自由を尊重する"」

それもきっと正しい。聞きたくない。その言葉は辛い。だから耐えられずに自分で言った。

「心の底から正しくないことをしたことある?言葉に出来ないくらいに…」

誰かを、愛したこと、ある?

『ユマ…』
「もう帰ろう、見つかるし」

ごめんねオプティマス、愛を貫けるほど、強くなれない。

「何の役にも立てなくて、ごめん」

役に、立ちたかった。

2010/06/20