実写/オプティマス | ナノ
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Confiance

虚しい夕暮れ

通された部屋にはモニターがひとつに簡素なパイプ椅子があり、研究員はほかに女性と男性の二人がいて、いずれもモニターを注視していた。不思議なもので、そんなぞんざいな扱いをされた方がこんな場所では落ち着く。

「かけて」

バナチェックの言葉を受け様子をうかがいながらゆっくりとパイプ椅子に腰掛けたが、臀部の右側にごろっとした違和感があってそこに気を取られそうになった。しかしすぐに表情を切り替える。右の尻ポケットの中身を思い出したからだ。違和感の原因はマギーから預かったアレだ。

「突然こんな軍人しかいないような場所に呼び出されて、びっくりしたでしょう。しかし…、この質疑が終わればすぐにでも元の生活に戻れます」

はあ、と相槌を打ちながら、何気なくボイスレコーダーを握りしめた。録音するとすれば、チャンスはここにしかない。マギーはこの人たちが調べていることを知りたいんだと予測していた。ここに来る直前に、あなたの味方よと言ってくれたマギーを信じることにし、ゆっくりとボタンを押してみる。何にしろ、自分の協力できる範囲はここまでだ。

「ここではたくさんの国、軍が動き、協力して彼らの敵であるディセプティコンと戦っています。それは勿論、ご存知ですね。調査の結果ですが、あなたはオートボットのリーダーであるオプティマス・プライムの関係者だとわかっています。ここまでは間違いないですか」
「…はい」

力なく頷くと、バナチェックはモニターに顔を向けて続ける。

「彼を信頼していますか」

首を縦に振った。バナチェックはそれを確かめると、「よし、映せ」と研究員に命じた。

「この基地で三日前、通信員が亡くなりました。一人は重傷、これはその時の監視カメラからの映像です」

変形していく警備服を着た男は、あっという間に金属になり、赤い目をぎらりとさせて通信員を撃った。即死だった。それから、モニターにも一発。バギ、と歯切れの悪い爆発音で映像は砂嵐に変わり、思わず言葉を失う。

「彼は"プリテンダー"と呼ばれる種族だそうです。調べた結果、ディセプティコンだということがわかりました」
「…………」

「問題は…」バナチェックはそう言いながらモニターを消すと、視線をこちらに戻した。

「敵にもヒューマンモードが存在するという情報を、リーダーであるオプティマス・プライムが政府に隠していたという事実です」

それには反論せざるを得なかった。興味がないふりをするのは難しい。

「彼は隠したりしません」
「ずいぶん信頼しているんですね」

ゆっくり瞬きをした。そうしないとキレそうだ。

「…彼は…、大切な」

──研究者達に、私との関わりを問われるかもしれない。必要のないことは黙秘してくれ

「…大切な、…友人…です」

沈黙し、狭い部屋にモニターの電子音だけがやけに響いた。

「そうですか、しかし彼らは国家機密であり、隠さなければならない存在であり、平和への使者とは程遠い存在です」
「………」
「残酷ですが、人間にとっては脅威です。オートボットにしろディセプティコンにしろ、エイリアンであることに変わりはない」
「………」
「オートボットとは、同盟とともに機密協力協定を結びました。彼らは情報提供に合意しましたが、彼らの文明がはっきりと公表されていないのも事実です」

黙り込んで考えた。どう答えればいいのか。はっきり言って、彼からは何も聞いていない。

「…それは、オールスパークがなくなったからで…、別に隠しているんじゃないと…思います」

答えが幼稚に思えた。根拠がなく、知識がないことを隠す言い訳にも感じた。自分でそれを感じたのだ。

「…彼らにヒューマンモードの許可を与えているのはご存知ですね。外郭を…表面的な意味ですが、収縮し、人間に擬態する事が可能だ」

いきなり話題が変わり、拍子抜けしてしまった。全くなにを言われるか分からないこの空間が、だんだん重力を増しているように感じてきた。

「検査の結果、あなたの体内から地球上には存在しない種類のコバルト超合金粒子が、微量ですが検出されました。人体に影響はないようですが」
「───え?」
「"行為中"に何かを埋め込まれている感覚は?」

頭が真っ白になった。
どくどくと胸が鳴る。

「プライバシーは守ります、我々はあなたを守りたい。彼から何を聞いていますか?聞いていることは全て話してください。歴史のこと、彼らの過去、何でもかまいません」

何も考えられなくなった。ずっと必死に隠していたこと、それが簡単に打ち砕かれてしまった。息が詰まった。

「わた…、私…たち…」

言わなきゃ、普通の友達だって言わなきゃ、そう思えば思うほど、落ち着かなくなった。

「彼と…、彼は…ぐ、偶然知り合いました」
「…偶然?」
「駅で…こ、こけて…」
「ユマさん、落ち着いて」
「彼はその場で…どうか怖がらないでほしいと言いました」
「…………」
「彼は友達です…、人間には何も、何もしません…本当です、信じてください、」
「ユマさ…」
「彼に傷つけられたことはありません、本当です」
「わかりました、もう結構です」

息をしすぎて苦しかった。バナチェックは、満足そうに微笑んでいた。

「話題を変えましょう」

座り直し、息を整えた。もういやだ、帰りたい。

「あなた方の関係性に干渉するつもりはありません。むしろ我々はあなたに人類とトランスフォーマーとの新しい友好関係を築くきっかけになってほしいと考えています」

もう訳が分からない。頭が飽和状態だ。

「我々もオートボットを敵だとは思いたくありません。しかし協定がそれを邪魔しています。彼らは武器を提供する事に合意しませんでした」
「…………」
「オプティマス・プライムがそれさえ譲歩すれば、我々の軍もディセプティコンに立ち向かえるだけの戦力を得られる」

戦力、武器。トランスフォーマーの武器があれば、オートボットが政府に受け入れてもらえるのだろうか。

「オートボットに希望を与えたくありませんか?歓迎される存在にしてあげたいとは思いませんか?あなたが、それを可能にするのです」



諸々の報告を済ませハンガードアへ振り向くと、雨はいつのまにか止み、控えめだった空が明るくなっていた。朱色に染まる世界は、軍人達が一日を無事終えたことの安堵感も手伝って、優しく感じられた。夕日は美しさと生命の躍動を感じる。

「──来たぞ、オプティマス」

慣れた男性の声、振り向かないうちに背後の声の主は認識できた。こちらを見上げているレノックスの肌も服も、オレンジ色だった。

「何かあったのか?直々に呼び出すなんて」

軍では一番だと言っていいくらいに信頼しているこの友人は、任務を離れてしまえば声がワントーン明るくなる。

『…頼みたいことがあったのだ』

レノックスは、あまり迷った顔をせずに答えた。視線は基地の外へ向けられたままだ。

「"ユマ"なら会ったぞ、さっき」

言葉を見つけようとしていると、レノックスは「ああ、見当違いなら見逃してくれ」と付け加えた。

『……無事だったか』
「人のプライベートを覗けるぐらい元気だった」
『覗く?』

得意げだったレノックスの表情が、少しだけ変わった。

「いや、こっちの話だ。それより…、心配していた」
『心配?』
「ああ。酷いことを言われてないかと言っていた」
『………』
「同じことを考えてるなら、直接本人に聞いた方がいい」
『…我々は今は会うことができない。君に託そうと思っていた。君なら信頼できる』
「…いや、俺は手いっぱいだ。すまないな」

通信機を慣れた手付きで扱っているレノックスを見つめた。

『少佐、』
「よし。ルートは送信したぞ、一回くらい外に連れ出してやったほうがいい」

短い会話だった。直後軍とのやり取りに使用しているシステムに直接入ってきたのは、基地内部のデータだった。
2010/06/19