実写/オプティマス | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

Confiance

それぞれの思い

同盟の拠点にディセプティコンの侵入を許し、さらに人間の命が奪われた。人型に変わることを禁じられ、人間との接触を断たれたこの状況で、しばらく此処から離れることが出来ないと判断したが、彼女に連絡がつかなかった。しばらく帰れないと言いたかった。
だが翌日、最初から連絡する必要はなかったことに気がついた。
空が青からラベンダーに変わりはじめた時、彼女を感じたのだ。渡した指輪は自分の魂の半分、それが導く彼女を識別する機能は、いつしか身についた感覚だった。
ゆっくりと風と共に動く雲の流れを追うと、この基地では見慣れないC-12が視覚センサーに入ってきた。彼女が乗っている。

『──やっぱりユマもお呼び出しをくらったわけか』

直接受信した言語の流れに反応した。本来はサイバトロン語を使うのに、今回の通信はこの星の言葉で回路に入ってきた。ジャズだ。

『………』

背後で彼も、空を仰いでいた。

『──オプティマス、あの研究員達は、俺達の"友達"に何をするんだ?』
『──分からない』

金属音とともに適度な圧力がかかり、わずかに排気を送り出した背後の将校の表情は、見なくても分かった。

『──別に自由を渇望しているわけじゃないが』
『──………』
『──俺達の自由は、いつなんだろうな』

一度空を仰ぎ、C-12が降りてくる前に、格納庫に戻った。何故かどうしても顔を見たかったが、───彼女に今は会うことが出来ない。



健康診断に引っかかった人のヘビーな二次検査、といったところだろうか。文字通り頭の先から爪の先まで調べられた。問診が終わり、通路に出る。それなのにすっかり日が暮れてしまっているのにも気がつかないのは、構造上基地の通路は窓がなく、朝も夜もない空間が続いているから。こんな場所に居るという自分に対する違和感が拭えない。「今日はこれで終わりです」と無表情で教えてくれた女性に時間を聞くと、20時40分と答えた。およそ二時間半にわたる検査は、当たり前だがもちろん異常はなかった。
長い通路を抜けて、突き当たりに扉があった。

「今日はこちらでお休みください」

扉を開けると、今までの違和感が少し和らいだ。視線の先に広がった部屋は無機質なコンクリートの壁が隠され、小さなテーブルときれいなシーツが整えられたベッドがひとつ。窓はないが充分だと、思った。

「もともとは緊急時の要人向けに作られた部屋なんです。綺麗でしょう」
「………」
「では明日、またよろしくお願いします」

個室の扉が閉まるのをただ見つめ、閉まりきってひとりになった瞬間に、とてつもなく長いため息がでた。上着を脱ぐと、清潔なシーツの誘惑に負けて、なだれるようにベッドにダイブした。

「……はー……」

体を折り、向きを変えた。明日は何をされるんだろう。何を聞かれるんだろう。

「…………」

自分たちはどうなるんだろう。オプティマスは、今何をしているんだろう。彼を思った瞬間、とてつもなく恋しくなった。思えば今日は、考えるひまがなかった。何だかいろいろ体を調べられたが、自分たちは、本来一緒にいてはいけない者同士なのだろうか。そもそも彼は、自分がここにいることを知っているのか。

「…………でんわ…」

ポケットから携帯を取り出した。スライドさせても光がもどらない。電源は輸送機に乗る前に落としたままだったが、ポケットからマギーに託されたボイスレコーダーも転げ落ちてきた。それを見て長いため息がでた。一気に電源を入れようとしていた気持ちが失せ、手が止まる。携帯を握りしめたまま重たい瞼を閉じた。くたびれた体から力が抜けていく中、信じられないことが起きた。手の中の携帯が振えたのだ。

「あっ!?」

振動にびっくりして飛び起き、思わず携帯を手放した。電源を入れなければ動かないものが動くのはホラーだ。

「………」

おそるおそる掴みなおしスライドさせると、アクアブルーの光の中でディスプレイにでたアルファベットが、"OPTIMUS"と点滅している。頭が一瞬真っ白になり、慌てて通話ボタンを押した。

「………」
『───………ユマ?』

電源の入っていない電話から聞こえるのは、紛れもなくオプティマスの声だった。安心するのはこの声だけだ。思わず何かが押しあがる。今日起きたこと、不安感、そういったものが全部消えてなくなった。

「で、電源は?入ってない、のに…な、なん…」

急な着信に、うまく言葉をつなげなかった。オプティマスは、ふだん通りの優しい声をしていた。

『──通常の周波では繋がらなかった。今までとは違う伝送路にシフトしている』
「…大丈夫?話していいのかな、私たち」
『──…大丈夫だ』

ゆっくり息をして、目を閉じた。彼が大丈夫だといえば大丈夫だと思えるのはなぜだろう。

『──今日は大変だったな』
「……私がここに来てること、やっぱり知ってるんだね」
『──…すまない』
「…なにが?」

オプティマスの音が、止まった。何かを考えているような静寂が受話口から伝わる。

『──この基地にディセプティコンの侵入を許してしまったのだ』

動きがとまり、細かいまばたきしか出来なかった。

「そ…、そうだったんだ」
『──君達の政府のリーダー、組織が混乱している。そして我々が疑われている』
「…………」

何でそうなるんだろう?と思った。彼らオートボットは、人間を守ってくれている集団だ。

『──…君にしばらく会えない事を伝えたかった』
「あ…、うん。私の方も、会うの禁止みたい」
『──……そうか』
「でもとにかく話ができてよかった」
『──………』

電話を耳からはずし、一度ながめた。それから、また耳に付ける。

「もしもし?オプティ…」
『──…ユマ』
「はい何でしょうか」

遮った低い声に動揺して、咄嗟に敬語になった。

『──…研究者達に、私との関わりを問われるかもしれない。必要のないことは黙秘してくれ』
「…え…」
『──私の責任で君を傷つけることは、あってはならない事だ』
「………」
『──…君の為だ』
「…つまり、どんな関係なのかとか、そういうのを言うなってこと?」
『──最終的には、君の判断に任せる』
「あー…、あんまりわからない。私には何ができるかな」

オプティマスは一呼吸おいた。

『──何もしないで欲しい。それが我々の助けになる』

首を傾げながら、ただ頷いた。協力したいのだ。だが、それが最良ならばそれに従うしかない。

「…わかった」
『──また連絡する』

オプティマスがそう言い終わると、携帯は魔力を吸い取られたかのように光をなくし、電源の入っていない電話に戻った。何かすれば逆効果、なのか。ならば彼にとっての自分の存在理由はなんだろう。
力になりたい、なり方が分からない。
こんな場所にいても自分は蚊帳の外なのか。
さっきまで、オプティマスのおかげで電池のあたりに温もりがあった。けれど次第に冷たくなっていった。冷たくなってほしくなかった。焦燥が煽っていくたとえようのないさみしさに支配されないように、両手で携帯を包み込んだ。

2010/04/02