Confiance
思いがけない早退
どうしてこんなことになったのかは分からない。原因や…理由は全くわからないが、とにかくなにかとても良くないことが起き、どうやらディエゴガルシアに強制連行。ここまではなんとなくわかった。オプティマスから連絡はない。移動中のソルスティスの中はとても静かだった。
「この車は…」
思わず呟くと、「え?」とマギーは反応し、それから、何かに気づいたように首を振った。
「ああ、これは"ただの車"よ、あなたが知ってるソルスティスじゃなくて」
「へえ…」
「しかも"タダ"」
運転するマギーへ視線を向けた。
「私が最初に彼らのハッキングを探知したの」
「彼ら?」
「そう。地球に来てすぐにね」
オプティマスのことはわかる。しかし自分には分からないことはたくさんある。頷きながらそのことを考えた。
「最終的に、この車はその報酬、かな」
「へえ…」
「いいでしょ」
強ばっていた気持ちが和らいだ。マギーがさりげなく平静なのだ。それが空気をやわらかくしている。その気遣いが嬉しい。
「うん、すてき」
「まあ、まさか自分の車と同じ形したエイリアンに関わっていくとは思ってなかったわ」
マギーはまっすぐ前を向いたままだった。
「…ユマ、ね…」
「?」
「関係対象は、オプティマス・プライム」
その名前を他人から聞いたことが初めてだった。今まで当たり前だったことが新鮮で、それ以上に不安になった。本当になにも知らないような気がした。知らない人が、自分の名前や、オプティマスの存在、そして関係を知っている。オプティマスの名前を聞いた瞬間、心臓が跳ね上がった。今から行く場所が、とても怖いところのように思えてきた。
「…一体何があって、私が基地に…」
「さあ。私は関係者じゃなくて関連者だから」
「?」
「トランスフォーマーと関わっていく人間っていうのは、大きく分けて二通りあるわ。ひとつは関連者、エイリアンの存在を知ってはいるけど直接的な関わり合いがない人間ね。政府の人間とか、あたしみたいな分析官とか…」
「…もうひとつは?」
この質問に、マギーはさっぱりと答えた。
「エイリアンの方が直接的にコンタクトをとっている、いわゆるキーパーソン」
「はあ」
「サム・ウィトウィッキーとか、あなたみたいな」
サム・ウィトウィッキー。オプティマスがホログラムで見せてくれたことを思い出した。たよりない青年が、ボロボロの服を着て、オプティマスを見ている。
──サムだ。
──サム?
───我々が地球に辿り着いて関わりをもった、最初の友人。オールスパークに関わる情報を持つアーチボルト・ウィトウィッキーの子孫だ。
──へえ…
────彼のおかげで、今の私がある
「……どうやって知り合ったの?」
マギーの問いに回想を中断され、思わず顔を上げた。
「え?」
「ああ、答えたくなかったらいいの。私個人の興味だから」
「………」
まっすぐ前を向く。
「普通に、終電に乗り遅れて…」
「…え?」
なぜか自信がなくなった。
「彼が送ってくれて…」
「…あ、ありがちね」
マギーは目を丸くしながらそう言って、それから湿度なく笑った。
「あ、案外普通に出会えるのね」
その言葉に、オプティマスとの出会いを心の中で運命だと大げさに誇張していた自分に気がついた。
「た、確かに今思い起こせばありがちだ…」
マギーと顔を見合わせて笑った。「それで、仲良くなったのね」とごく自然に問われ、一度たじろいだが、小さく頷いた。
マギーは表情を戻し、少し真面目な口調で言った。
「…ユマ、今から言うことはオフレコね」
「ん?」
「あなた、多分今回の最重要被験者になるかもしれないわ」
「え?」
笑顔が抜けきれない表情が、固まった。
「あまり探られたくはないところも調べられるかも」
「は……」
「一応、忠告しておくわ」
別に悪いことをしているわけではないのに、このざわめく不安感は何なんだろう。
「脅しておいて無責任だけど大丈夫よ。私たちは味方だから」
オプティマスと過ごす日々が普通過ぎて、錯覚していた。国家機密と関わるということは、そういうことのはずだ。今までこんな事がなかったのが変だったのだ。
「──着いたわよ」
顔を上げた。
その先にはUS AIR FORCEと書かれた輸送機が大きく口を開け、別次元に続いているような闇をたたえ、待っている。