実写/オプティマス | ナノ
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Confiance

プリテンダー

ディエゴガルシア島の基地兼格納庫は、外部に知られることはほとんどないが、人間が豆粒に感じるといっても決して過言ではないほど巨大な造りだ。しかしここに収まるべき者達がすべて集まると、単身者向けのワンルームに友人が集まり飽和状態になるのとさして変わらない。
今回の任務における犠牲者は、それぞれの国旗にくるまれ、もう二度とその"移送容器"と呼ばれる棺から起きあがることはない。少佐や他隊の兵も集まり、その棺を見送った。悲しむ余裕はなく、明日は我が身、気を引き締めよと心構える大切な時間。その背後では、巨大な輸送機からオートボットの面々が降りてくる。
今回、辛うじて"移送容器"に入れられる方にならずにすんだエップスは、アイアンハイドとラチェットが降りてきているのを確認したところで、さらにその輸送機の背後に別の輸送機が1機着陸したのを発見し、お、と声を出した。見慣れないスーツを着た男が3名、怪しげなスーツケースを持った女性が3名。その後ろから、完全に先の二人と雰囲気の違う民間人が二名降りてきた。ひとりは黒髪の美女。もうひとりは、…いたって普通の青年。
遠目でも、誰かは分かった。彼等とは、一年ほど前に強烈な印象を残す出来事を共に経験した。
サムとミカエラだ。
なんであいつらがここにいるんだ?
声をかけようとしたが、背後でレノックスが名前を呼んだ。振り返ると、オートボットはまるで展示場に出された新品のように綺麗に並び、参謀本部ともすでに回線が繋がっていて、オプティマスとアイアンハイド、そしてジャズとラチェットがトランスフォームしていた。

「おっと」

急ぎ足でエップスが格納庫に走りこみ、レノックスの隣に立ったと同時に、全員が敬礼した。国防長官の顔は見忘れない。

「ご苦労だったな。楽にしてくれ」

どっしりと年季の入った声だ。

「恐れ入ります」

国防長官ジョン・ケラーは、大きく聳えるオートボット達にも振り向き、労いの言葉をかけた。普段ここに出向くことのない国防長官がこの場所にいる今の状況で、小耳に挟んだ「事故」が、予測していたより遙かに大きな問題であると、レノックスは確信した。空気が重たい。

「私がここに出向いた理由を、まずは説明させてもらいたい」

そう言うとケラーは、参謀本部と繋がっているモニターとは別のモニタースクリーンの方へと歩き出した。兵士の前を横切るたび、「楽にしてくれ」、「ご苦労だったな」と、小さく声をかけている。ケラーがたどり着いたと同時に、モニタースクリーンに映像が流れ始める。全員がそれに注目した。

「昨夜1800時、この基地の内部の映像だ。通信員一名の死亡と、一名の重傷が確認された。襲撃した生命体の目的は不明、君達の意見を聞かせてくれ」

欠片の保管庫の手前の区画、監視モニターの映像だった。担当区画のモニターをチェックしている通信員が二人、巡回している兵が一人。この基地ではよく見る何ら変わらないいつもの風景。
だが次の瞬間、もみ合いになった。通信員の一人と、巡回している兵だ。巡回の兵が正規ルートではなく、急に向きを変え、無言で欠片の保管庫へ続く扉のロックを解除し始めたためだ。兵は不気味に無表情なもので、慌てふためいた通信員の叫ぶ声しか聞こえない。通信員の一人が警報を鳴らした。けたたましい音が鳴る中で、映像に変化があった。
巡回の兵が、姿を変えたのだ。──まるで人間という殻を破るかのように、それはみるみるうちに得体の知れない銀色の動く金属に変わった。

──う、うわあぁっ!
──な、なんだ、こいつは!!!

「なんなんだ?これは…」

映像の中の不幸な通信員たちが叫ぶのとシンクロして、レノックスが呟いた言葉に答えたのは、ラチェットだった。

『プリテンダーか。久しぶりに見たな』
「プリテンダー?何だねそれは」

間髪入れずに聞き返したケラーに、ラチェットは丁寧に振り返った。

『我々と同じ種族だが体内構造は違う。スパークを核としていることでは同じだが…、ヒューマンモードとはシステムが異なる。そうだな、君達でいう"人種"の違いと非常に定義が近い』

その言葉を受け、別の場所から「やはりトランスフォーマーなのか」という大きな声が聞こえた。先程の怪しげなスーツケースを持った面々だ。
「誰?」と小さく問うたエップスに、レノックスは首を傾げた。
その質問には、ケラーが答えた。

「彼らは大統領派遣の特別研究チームだ」

スーツ姿の男達のうち、何人か見覚えがあった。セクター7の連中だ。

「……私は絡んでいない」

小声でそう呟いた不満げな国防長官を、レノックスは一度だけ見た。その間に、研究チームの一人がオプティマスらを見上げて言った。

「大統領の意向により、こちらで独自に…、あなた方トランスフォーマーの研究を進めています」

巨大なオートボット4体で囲んでいても、研究チームが怯むことはなかった。

「今回の事件を受け問題が発生した。そのプリテンダーという生命体が、オートボットであるか、──それともディセプティコンであるか」

スーツケースの中身が開けられる。

「これは先程の映像の中で暴れたあのトランスフォーマーの遺体だ」
「分析のために分解しました」

スーツケースの中に綺麗に並べられたプリテンダーのバラバラ死体を見て、ジャズが首を振った。

『こりゃディセプティコンだ』
「なるほど、ではどうやって見分けるのでしょう?」
『簡単だ。このバラバラになった腕の一部を』

ジャズのマグネットが、腕を繋げる。そこには小さいが鋭利で悪げなエンブレムが捺されていた。

「…なるほど、確かに簡単ですね。…あなた方にとっては」

その言葉には、アイアンハイドが少々憤ったように答えた。

『一体何が言いたい』

スーツケースが助手によりしっかりと閉じられた。

「今まで、損壊で発生する被害、そしてその偽装工作、さらにそれにかかる莫大な費用を抑えるという目的で、大統領はオートボット協力法に基づき、あなた方へのヒューマンモードに対する許可を与えてきました」

その言葉に続けて、別の研究員が口を開いた。

「我々はうまくいっていた。しかし、ディセプティコンにもヒューマンモードがある、もしくはプリテンダーという別の種族が存在しているという危険性には全く無防備だった」
「あなた方がその情報提供を怠ったからだ」

それには、ラチェットが反論した。

『ヒューマンモードは元々、我々にはないシステムだ。共存のための手段として導入した。私が提案した』
「しかしディセプティコンは、敵を欺くために導入した」
『私の研究の方が奴等よりも進んではいるがね』

研究員は、死んでしまった通信員の映像を消した。

「大統領の懸念は、このヒューマンモードの襲撃がふたたび起きたときに、一目ではオートボットかディセプティコンかを判断できないという問題です。それからあなた方オートボットへの不信感」

オートボットは、誰も続きを促さなかった。しかし、反論したのはオートボットだけではない。

「彼らは信頼のおける存在だ」

レノックスだ。ディセプティコンの残党をこれまで何度も協力して倒してきた。だが、研究員たちは全く動じなかった。

「では、なぜ兵器開発技術の公開に協力が得られないのでしょうか?充分な情報提供もなく、武器開発にも非協力的だ。それは…」
『またそれか?お前達が使いこなせるとは思えん』

ジャズが苛々するのは珍しい。

「…それが本当の理由だとしても、こんな穴だらけの情報提供ではあなた方がいくら私達を守ると戦っても、信じる方が難しい。この状況なら、あなた方はいつでも私たちを裏切ることができる。本当はディセプティコンと協力し、この惑星を乗っ取ろうとしているのではないか、と捉えられても仕方ありません。あなた方の再調査が必要だ」

研究員は言い切った。何かにつけて追い出したいのだ、政府は。
それまで黙っていたオプティマスが、口を開いた。

『我々の最終目的は、人類との共存だ。そしてその証として、我々の命の源であるオールスパークの欠片を、君達人間に預けている。我々にとっては、協力の証としてこれほど重いものはない。だが情報提供に対し我々も認識が足りなかった。失ってしまった信頼関係を取り戻す協力は惜しまない』

研究員は頷いた。

「あなた方と特に接触の多い人物すべてに参考人として協力してもらいます。民間人の方はすでにこちらで手配しています。例外はありません」
「監査のために一定期間、ヒューマンモードを禁止。我々は一週間、このディエゴガルシアへ滞在します」

軍人のなかでは、重要のなかの重要、といっても過言ではない参考人であるレノックスとエップスだったが、本人達は限りなく他人事のようにそのやりとりをため息まじりに眺めていた。

「……また休暇が潰れたな」
「ああ、こりゃカミさんにまたどやされるぜ」

国家機密の精鋭部隊は忙しい。

2010/03/16