実写/オプティマス | ナノ
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Confiance

NEST

慌ただしいインド洋の夕方は、オートボットの集結を待たずに行動が開始される。出現した敵のデータは取れないがディセプティコンであることは確かだ。政府と協力体制にあるものの、基地にいなければならないという規制がないオートボットは全土に散らばり、その場で直に命令を受けた。やはり人間とでは便利が違う。それを最大限に活かしていても、非道な敵に間に合うか否かは運も加勢している。米も英も犠牲者は毎回出ている。現地に一番近い場所にいるオートボットに短い伝達がいく様子を走りながら確認したレノックスが、声を通す。

「20分以内に出撃準備が完了する、現地到着は──、」
「最速で32分です」

真横で真剣にモニターを眺めるオペレーターが代わりに答えた。
掛け声とともに精鋭部隊の準備が進む。その時に、別のモニターで最新情報が入った。

「少佐、オプティマスが現地到着しました」

レノックスは何度か頷き、よし、と言い聞かせるように小さくつぶやくと、空軍の輸送機に向かって前を走るエップスや他のメンバーの体を圧すように走り出し、もう一度「急げ!」と促した。





一般用のガレージに入りきれない彼は日が沈むのを待たずに、例のごとく庭を櫛で分けたようにぺたんこにして出て行った。夜に食べるはずだった可哀想なケーキは一人になった今、体が受け付けなかった。生木を剥がしたような大袈裟な喪失感は、ことの後で余計に気怠く、今日のこれからはとにかくなにもしたくなかった。
コップを握り、蛇口を捻った音でさえ軋んで寂しげに聞こえて、泣きたくなる。
彼がディエゴガルシアへ、帰ってしまった。
ディエゴガルシアに「行く」のではなく、ディエゴガルシアの方が拠点。
それはわかる。
けれど時々、気持ちが行き場をなくしてどうしようもないやるせなさに打ちのめされそうになる。私が"居て"とお願いしたとしても効果がないこの関係は、一体なんなのだろうと。
このオプティマスという存在が人生のすべてではなく、そして彼にとっても自分がすべてではないということ。お互い存在しなくても生きていける、自分たちは対等なのだと言い聞かせ──、そんな思いで自分を支えるのは矛盾している。
けれど時々誰かに、本当は彼がすべてだと言いたくなる。
何より優先してくれる存在でありたいからこそ、嫌われないように振る舞う自分の莫迦らしさに、なにもかもの自信をなくしていくのだ。
本当の自分を愛してもらえているのか。いつか興味がなくなって捨てられてしまうのか。
──それは、見えない明日に怯えているようなものだ。答えがない。
冷やしていたケーキはなぜか見るのも嫌で、代わりに取り出したミネラルウォーターを持ち部屋に入った。扉を素早くあけ、素早く閉める。さっき"した"この空間でうずくまっていたい。空気をそのままにしたい。だけどむなしいだけだった。
……暗い。
暗すぎるぞユマ!
一生の別れじゃない。別れ際の言葉はいつだって『いつも想っている』、だから大丈夫。頑張ってそう絞り出すように毎回つぶやくオプティマスは私を失いたくないはずなのだ。
頑張ろう。
ディセプティコンが攻撃してこなくなるまで。
──…そんな時、来るのかな。
そんな甘い未来は、──あるのかな…、
無事に帰ってくるよう祈るだけだ。半年前にもらった指輪は(彼が身を削って造った代物なのだ)、どの指につけたらいいかわからずにチェーンに通した。いつでも一緒だ。
ソファーに座り、ミネラルウォーターを乱暴に流しこみ、力が抜けてなだれ込む。脳内だけで自分も一緒に戦って、無事を祈り、気怠さに上瞼と下瞼がくっついて、離れなくなった。
明日が休日で良かった。
彼のぬくもりが残るこの空間で眠り、目覚めたらまるで効果のきれた魔法のように彼のぬくもりは消えていた。ひとりでいたら空気はひとりのものになるということを大きく実感した朝だった。霜の降りた早朝、寒さで起きた。
朝からせわしく鳴る呼び出し音は、寝室に置いたままにした携帯が頑張って大きな音を出していたにも関わらず、ここがわずかにでも防音設備の整った部屋だったものだから主に気づかれないまま不在着信の履歴を残していった。
しつこくかかってきていた非通知の先が、まさか昨夜まで憎くてたまらなかったディエゴガルシアへの切符になるとは、この時の自分には、予測もできなかった事だった。
2010/01/15