実写/ジャズ | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

I Love You.

たとえば僕が

ジャズはまるでスポンジのように、楽しんでこの星の文化を吸収する。面白いと思ったものは全部勧めた。

『なあユマ、ブルース・ウィリスといえば?』
「コーベン・ダラ『ジョン・マクレーン』」
「いやいや、コーベン・ダラスだよ、フィフス・エレメント見てないの?」
『違うな。マクレーンがいるからこそ、観客はブルースが演じるコーベン・ダラスに安心感が生まれる。わかるか?』
「違うよ、マクレーンで下積んだ集大成がコーベンなの!!」
『お前バカか、なぜあんなにダイ・ハードがシリーズ化しているかわからんのか?興業収入でわかる。歴然の差だ』
「マクレーンは嫌々ながら世界救ってるもん!」
『コーベンだってそうじゃねえか』
「とにかくコーベン!オレンジのタンクトップが世界一似合う」
『俺はマクレーンだ。あんなスーパーグリーンは他にいない』
「スーパーグリーンはコーベンだよ!」

私たちは、
質量も、皮膚形成も、生まれた星も、年齢も、全然違う。けれど、

『あそっか、スーパーグリーンはコーベンだったな』

私たちは、

「うん、…でもマクレーンもスーパーグリーンだよ」

これ以上ないほどに、

『悪かったな、まあ何が言いたかったかというと、』
「『ブルースは最高だってこと』」

超、友達になってしまった。
人生ってわからない。
今ふたりは、夕日を眺めた海辺にきていた。ここは相当の穴場らしく、道沿いの砂浜からは少し離れた場所だったので、ジャズが擬態を解いても何の問題もない。砂浜に投げ出している彼の大きな足の上に、ユマは座った。

『フーバスタンクはこれがいいな、"The Reason"』
「そうねえ…」
『あとは最近リンキン・パークも取り込んだ』
「あ、聴かせて、」
『…こんなの楽しめる時間なんて永遠にこねえと思っていた、』
「え?」
『戦争ばっかりで』

ぽつり、とつぶやかれた言葉を飲み込めず、ユマはジャズを見上げた。砂浜に投げ出された足は絶えず電子音が流れている。かすかにそれがきこえる。

「ジャズの星、戦争なの?」

聞いてはいけないような気がしながらも、興味は抑えられず、口から出た。ジャズは表情を変えず、水平線を見ていた。

『もう滅んだ』

その言葉で、視線を落としたユマの柔らかな瞳に、ジャズは口角をあげた。やはりこの種族は深い思いやりを持っているな、と思った。

「それで地球に?」
『俺たちの星の資源が此処に流れ着いていた。長い年月をかけそれを故郷に持ち帰る為に降りたったが、結局その資源は戦いで破壊された』
「…………」
『謂わば亡命先だな。俺たちにとってここは』

ユマはふたたびジャズを見上げた。
どんな思いだったのかとか、そんな事を考える余裕さえなかったのかなとか、そんな風に思った。

『表情が忙しいな。心配するな。過ぎてしまった事はいつまでも引きずらん。俺はな』

ジャズのどの言葉に感情移入をしたとしても、それは偽物の思いでしかない。ユマにはそんな経験がないから。だからずっと不安だったことを聞いた。今なら聞ける気がした。

「ジャズはずっと地球にいる?」

見返してくるジャズの表情は、やはりバイザーをしているからわからないけれど、言葉の意味を考えるように顎に手を添えた。

「こんなにいい友達、なかなか見つからないもん」
『………』
「勧めたものも全部吸収してくれるし、」
『惚れたか』
「!」

は、とジャズが笑った。

『動揺してるな、可愛いおまえ』
「…………、」

呆れ顔をしながら真っ赤になったユマは、彼の金属の足を叩いた。乾いた、音がした。
ジャズの機体とくっつけているiPodから、曲目を選ぶ。こうすれば、二人同じ瞬間に同じ曲を聞ける。
映画も同じ方法で、ジャズがホログラムで転写するのを二人でみた。
ジャズは魔法使いだ(本人がそう言うから間違いない)。

「あ、この曲好き。In The End」

流れてくる曲に合わせて体を小さく揺らすユマに、思わず微笑む。口ずさむメロディーと、唇、潮風になびく髪と柔らかい肌、

『──、』

たとえば...たとえば俺が人間だったら、

『…確かにイイな』
「うん、あー、生で聴きたいなあ」

ユマがまたあくびをする。この二、三日仕事が忙しかったらしい。

『それよりお前大丈夫か?疲れてるだろ、』
「リンキン・パークは近々ライブがあるらしいけど、行ってみたいなあと思うだけで、全く行動出来てない」
『無視かよ』

曲を聴きながら、ユマはそう言ってあくびをして、瞳を閉じた。

「ねむたい」
『…おいおい』
「…………」
『お前なあ、男の膝元で眠るということがどういうことかわかってるのか?だいたいお前は無防備過ぎるぞ、いつか言おうと思ってたが、』
「…うん、ジャズはロボットだから大丈夫、何もしない…」
『…わからんぞ、明日になってお前の体が粉微塵になっていたらどうする?』

横になったユマを、見つめる。

「…ロボットじゃなくてトランスフォ…マ…か…」
『…………』
「…………」
『…………』
「…………」
『……ユマ?』

マジで寝やがった。
すう、と寝息を立てだした足の上の彼女を眺めた。
呼吸をするたびに胸が空気を吸い込んでわずかに膨らみ、それから吐き出したときに縮まる。髪が顔を隠していた。

『………』

ゆっくりとクローを彼女に近づけてみる。

髪を掠めたが、微量の髪をはらうのはやはり難しくてやめた。

『…クソ、』


なんだ、この苛々。
こんな原始的な小娘に、なぜ触れようとしたんだ?今俺は...


──ジャズ?私だ、


通信機が反応したのも気づかないほどに、苛々していた。すぐにメインの回路に繋ぐ。

『どうしたんだ?オプティマス、』

──ああ、直接聞きたいことがある。戻れるだろうか?

多分聞きたいことというのは、渋ってきたあのことだろう。わかっている。

『了解、すぐ戻る』

通信を切った後、ユマを起こすのが辛かった。このまま夜明けまで眠ってくれたらいいのに、と何度か思った。