実写/ジャズ | ナノ
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I Love You.

新しい趣味

ラチェットのメンテナンスは苦手だ。幾多の命を繋いできた彼に、わざわざそんな失礼なことを言うと更に手厳しい制裁を兼ねたリペアが待っているから言わない。

『ジャズ、そろそろヒューマンモードを許諾しろ。オプティマスに報告ができないだろう』

リペア台から回転しながら降りたジャズが、ラチェットに振り向いた。

『オプティマスの指示ではあるが俺には必要ない』
『……"共存"の手段のひとつだ、お前の人格が変わるということや劣化する回路があるかといえばそうでもない。何が気にいらんのだ』

フーバーダムのラチェットのラボは、少し懐かしい。戦争真っ只中の時は、こんな掘っ建て小屋みたいなとこでもラチェットはたくさんの仲間を、時には敵でさえも治療していたっけ。

『…俺はこのボディだからいい』
『……』
『俺はこの"クルマ"を気に入ってる。第一不恰好じゃねえか、あんな小型な有機生命体、』
『お前も充分小型じゃないか』
『…オイ、なんだと…』
『とにかく決心しろ。機能を埋め込むだけだ。その機能を必要な時以外は使わなければいいじゃないか。ビークルモードでの戦闘を傷が付くだとか凹むだとかいう理由だけで避けているそのへそ曲がりな拘りを捨てろ、幾つだお前さんは』

あいあい、とか、へーへー、とか適当に答えた後、緩衝材に横たわり、新しい趣味の時間に入る。


──うーん、文化、文化ねえ、あ!映画とかは?
──エイガ?
──あとは…音楽
──ああ、それは調べた、なかなかいい文化だ
──でもやっぱり映画かな?結構面白いよ


三日前の雨の日に出会ったユマとの会話を思い出す。新たな文化との出会いは、自分にとっての趣味のようなもので。
早速調べ上げた映画をフォルダに分け入れる。なかなか面白いものだと知ったのも三日前だ。

その時に、スライドドアのセキュリティーロックの音を聴覚センサーが捉えた。

『ラチェット、ちょっと診て…ってジャズ、いたんだ』

スライドドアから軽やかに入ってきた年若いオートボットに気づいたが、そちらは見なかった。

『よう、居ちゃ悪いか?』

大げさに仰け反って首を振って近づいてきたバンブルビーは元気そうだった。ガッシャンというハイ・ファイブの音が医務室に響いた。久しぶりに会った。彼はサムという人間と行動を共にしている。

『また何か見てる?何見てる?』
『映画』
『エイガ?』
『おう、観るか?タイタニック』
『あ、送って』


取り込んだデータをバンブルビーに送信完了したところで、立ち上がった。

さて、

『あれ?どこか行くの?』

久しぶりに会ったのに、というバンブルビーに一度だけ手を振って、ラチェットのラボのスライドドアに手をかける。

『ジャズ、くれぐれも』
『考えは変わらん、俺にヒューマンモードは必要ない』

ラチェットが皆まで言う前に、きっぱりと言い切って外にでた。
三日間、欠かすことなく会いに行っていた。
ビーでいうところのサムのような存在とでもいうべきか。
彼女と話すのは楽しい。





一昨日から、仕事が終わると、会社の窓から下をのぞく。
銀色のソルスティスは、今日も来ている。
ほ、と胸をなで下ろす。
あの雨の日、"彼"はすっかりユマの失恋話を聞いてくれて、
ただなにもいわずに朝まで走ってくれた。
そして、それから毎日、こんな風に約束もしていないのに待っている。

「ジャズ!」
『よお、終わったか?』

乗り込むと、ソルスティスは勝手に走り出した。

『ユマ、』
「ん?」
『映画を見始めた』
「あ、本当に?何見た?」
『有名どころをいくつかな。荒野の七人、これはいつかアキラ・クロサワのオリジナルが見たい』
「ああ、素敵だけどモノクロだから私は苦手、モノクロはローマの休日しか見たことがないけど」
『そうなのか?人間は色がないとダメなのか』
「ううん、色があるのに慣れてしまっている、というのが正しいかな。今の時代の人は」
『へえ…ああ、そうだ、あとはスタンド・バイ・ミーに…、それからスターウォーズ、プライベート・ライアンにE.T.…バック・トゥ・ザ・フューチャー、007、七年目の浮気。コレはマリリン・モンローが良かった』
「………」
『……なんだ』
「ううん、」

ロボットにいい悪いが分かるのかな、と思ったけれど口には出さなかった。

『俺たちにも各々で嗜好の違いはある』

見透かされて、慌てて取り繕った。

「ああごめんね、どうしてもロボットって生き物っていうより静物なイメージがあって、」

なんかもう喋れば喋るほどどんどん彼を傷つけている気がする。これじゃ自分が人形だと言われているのと同じだ。この価値観はよくない。

「ごめんなさい、慣れてなくて」
『気にするな。そういう生命体だと知っている』

でも、

「でも慣れてきたよ」

そう言って隣のホログラムにではなく、カーステレオを見つめて微笑んでみる。たしかに慣れてきたというのはある。

『笑うとお前けっこういーい女じゃねえか』

思わず表情を止め、それから、困った。

「あのねえそういうのサラッと言われるとものすごく反応に困るよ」
『正しいことを言ってなにが悪い?』
「いや悪くはないけど、どう答えていいかが」
『お前も正しいと思った答えを返せばいい』
「……正しい、」
『そう』
「……ジャズ、」
『?』
「元気づけようとしてくれてるんだよね、ありがとう、毎日」
『………』
「ひとりでいるとやっぱり考えちゃうし、こうやって誰かといると時間がいつの間にか経ってて、考えなくてすむから」

窓の外を見つめた。

「日が沈むね、もうすぐ」

しばらく沈黙したあと、ジャズが口を開いた。

『よし、まだ間に合う』

カーステレオに振り向き思わず、え?と声が出た。

『夕日が沈むのを見に行くぞ!』
「え?なんで?は?」
『失恋したとき人間はそうするんだろ?夕日に向かって叫べ、思いっきり』
「いや、してる人まだ見たことないけど…うわ!ちょっとジャズ、スピード…」『掴まってろ!!』

加速するソルスティスの外を通過する、目まぐるしい景色はただの直線に見える。

『ライトスピ──ド!!ってか!』
「ぎゃ──死ぬーーー!!」